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バカ爆杯にて

 2024年4月6日

 最近,毎日広告デザイン賞の受賞作品が発表された.僕はキューピーコーワヒーリング錠の広告がすごく好きだった.

 布に刺繍された人の笑顔.その裏地は刺繍糸がほつれて,笑顔が崩れている.キャッチコピーは「繕いきれない、内側に。」.

 なるほどと感動した.刺繡をしたことがある人ならわかると思うが,表は綺麗でも,裏は割とぐちゃぐちゃになってしまう.これを,見た目は元気そうでも,身体や心の見えない部分は疲れていることに見立てている.だからこそのあのキャッチコピー.

 こういう視点は,どこまで自分の感覚を日常に張り巡らせられるか,な気がする.くう,羨ましい.


 今日はバカ爆杯決勝戦という事務所ライブがあった.これは人力舎の五年目以下で一位を決める大会.去年も出たが,五位で終わった.今年は一位を目指そうと三人で決めていた.

 出番はお昼過ぎなので,朝早くに起きた.しばらく一人で声を出したり,身体を動かしたりして,テンションを上げていた.僕は舞台に板ついてすぐにテンションを上げられる訳ではないので,その前の時間にある程度テンションを高めておく.地味に大切だと最近思う.


 会場は新宿Fu-で,着くとうっすら緊張してきた.空気感も少し緊張していたと思う.新井さんも柿田さんもテンションが高かった.言わずとも頑張ろうと思った.

 場当たり時,バローズさんがネタで使う予定の長机を袖に置いたせいで,あおいちゃんさんのネタ中の出ハケがしづらくなり,バローズさんの妨害工作だということで,盛り上がっていた.

 審査員は,アンタッチャブルの柴田さん,オアシズの大久保さん,ラバーガールの飛永さん.ぶるっとしてしまう.審査員票とお客さん票,人力舎のマネージャー票の三つが合わさって,順位が決まる.


 何回もトイレに行った.うろうろしていた.いつの間にかライブが始まっていた.出番は三番目.前がどれだけウケていたか知りたくなくて,ぎりぎりまで舞台袖に行かなかった.去年よりかは落ち着いている.いけるいける.


 終わった.想像よりかはウケなかった.正直自分の感覚では,完全に出しきれなかった.とはいえ,この日の自分の限界までは出し切れたと思う.あと.新井さんがオーバーヒートしそうで怖くて,面白かった.たまに新井さんがネタ中に僕を見て怖くなると言うが,こんな感じなのかなと思った.

 誰にも言っていないが,個人的にバイオレンスが好きなので,心のどこかでネタ中に自分が怪我したら面白いと思ってしまっている.ただ,普通に考えて面白い訳がないので,全力でやりつつも怪我には気を付けている.


 結果は五位だった.またかい.三位までは舞台上で名前を呼ばれるのだが,それにさえ呼ばれなかったので,笑ってしまった.一位はバローズさんで二連覇だった.バローズさんは本当にすごい.毎回どのネタを見ても面白い.納得でしかない.あと,新井さんの師匠がバローズの徳永さんである.

 三人ともそこまではっきりしたミスもなかったので,単純に凹んだ.もう凹むしかない.今の実力がはっきりと明示された.どう考えても自分のせいにしかできない.今のままじゃ勝てないので,また三人で反省する.


 ライブが終わって,帰ろうと思ったが,一人でいるのもなんだかなぁと思っていたので,あおいちゃんのみむさんのところへ行った.そこから,二人で居酒屋にてご飯を食べた.みむさんといるとすごく楽しいので,いつも話しかけに行ってしまう.

 二人で今日の話などをひとしきりして,散歩しようとなった.新宿から西武新宿線沿いをひたすら歩いていく.お笑いの話はもちろん,お互いの好きな音楽の話やみむさんの養成所の頃の話などをしていた.僕もみむさんも好きな音楽が似通っていて,めちゃくちゃ盛り上がった.

 二人ともチャットモンチーとフジファブリックが好きだった.みむさんはフジファブリックの「花」が好きと言っていた.センスがいいと思った.僕は「花」が収録されているアルバムにある「夜汽車」という曲も好き.

 あと,学生の頃からチャットモンチーを聴いているらしい.僕もそうでアルバムをたくさん持っている.互いのプレイリストを見せ合った.当たり前だが,自分の好きなものの話が出来るというのは楽しい.

 夜の桜がすごく綺麗だった.誰かと歩いているとどこまでも歩けそうな気がする.いま浄化されているわぁと思っていた.


 沼袋で一の湯という銭湯に行こうという話になった.そこで,ソルトレイクのはらぼーさんを誘ったら来られるということで,三人で行った.

 すごく良い銭湯だった.みむさんもはらぼーさんも前によく行っていた銭湯らしい.安くて,スチームサウナや露天風呂もある.三人ともゆったり浸かっていた.

 お風呂上りにはらぼーさんにコーヒー牛乳を奢ってもらった.なんでこんなに美味しいのだろうかと思う.一息ついて,外へ出るともう二十三時半だった.


 そこからはらぼーさんが歩こうと言うので,もう一駅歩いた.みむさんは疲れたぁと言っていた.僕はまだまだ歩けそうだった.電車に乗り,はらぼーさんとみむさんの家がある駅で降りた.そこで,何か食べようという話になった.

 松屋からあめん花月かでみむさんとはらぼーさんのひと悶着があった後,らあめん花月となった.

 三人とも色々話しながら,食べた.凄く楽しい.でも,もうそろそろ楽しい時間も終わっちゃう.そう思いながら,ラーメンのスープを飲んでいた.


 はらぼーさんとみむさんと別れて,一人帰った.電車が無いので,歩いた.とりあえず南にまっすぐ歩いた.時刻は夜中一時過ぎ.二組ぐらい酔っ払いの集団とすれちがい,絡まれるのではないかと怖かった.

 気持ちは前を向いていた.根拠のない自信は良くないと言われるが,まあ自信たっぷりの方が実力以上に上手くいきそうな気もする.良かった.はらぼーさんもみむさんも一緒にいると楽しいので,誘ってもらえるといつも嬉しい.るんるんで歩いていた.


 駅の近くを通ると,うっすら光が漏れているお店もいくつかあった.人のがやがやが聞こえる.賑やかで良いなぁ.ただ,あまりに聞こえるので,どこからなのか,音の在りかを探していった.

 それは道路のマンホールの下から聞こえていた.大勢の人のくぐもった声.明らかに道路の下から発せられている.でもよく聞くと,勢いよく水の流れる音だった.


 一瞬,すごく怖かった.ぞっとした.最後変な感じで一日が終わってしまった.

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