Be mine 第二話
あの日から三週間が経った。僕は今まで通りとそんなに変わらない生活を送っていた。強いて言えば優奈と話すようになった位だ。一線超えた関係になったけど、まだ付き合ってはいない。かと言ってお互い忙しいから、あれっきり一回も会ってすらいない。
僕は変わらず、週四でバイトをして日々生きる為のお金を稼いでいる。親からの仕送りもあるけど、いざという時の為に半分は貯金はしている。もう半分はCDや服を買ったり、友達と遊ぶ時に使う。最近はスマホの音楽アプリでストリーミングしていつでも聴けるからCDなんて要らないよねと言われると、うん、と言わざるを得ないが、自分が好きなバンドのコレクションをしてると考えたらなんて事ない。それに、特典としてライブのビデオ動画も見れるディスクまでついてきているから、ファンとして嬉しい事この上ない。
夏休み中に出された課題は少しだけ多かった。その中でも一番面倒なレポートの課題は順調に進んでいて、あと一週間で始まる授業には間に合いそうだ。とは言え、中々面倒なまとめをしなければいけなく、一万字以内の中を残り三千の三分の一を埋めないと、提出とは認めないと担当の講師が言うもんだから、ちまちまと文字を増やしている。ちなみに今回の題は、著作権法についてまとめ、自分の意見を述べよ、というもの。確かに少し面倒ではあるけど、苦手だって訳ではないから何とかはなる。
優奈の方もバイトが中々忙しいらしい。急に連絡してくるとか、三十分以上来ないから連絡したら今日休みますとか、そんなのが月一か二であるらしい。でも、半分は使えないオーナーの割り振りのミスだってぼやいてた。聞いている方は面白いけど、確かに自分がその立場だったら嫌だな。でも近所だし給料良いから辞めないらしい。タフだなあ。
九月中旬になって、気怠い暑さも少しだけ薄くなって、ちらほらと昼に外出する人も増えてきた。アイスを頬張る午後二時に、今から会える?のメッセージ。家で待ってるって返事して、寝相の残る布団を片付ける。大治に用事があったらしく、帰りに久々会いたいらしい。今日はどんな服を着ているのかな。ちょっとだけ気になった。
二十分程待っていると、チャイムを鳴らす音が聞こえた。玄関を開けると、白シャツに薄青のジーパンを履いた彼女がいた。
「亮くーん!ひさしぶりー!元気してた?」
「うん、元気だよー」
「それはよかった!お邪魔しまーす」
リビングに入って、はいこれ、とレジ袋を渡された。いきなりお邪魔してごめんねと、自分の好きなお酒と缶コーヒーを買ってきてくれた。
「どう?課題進んでる?」
「順調だよ。あとはまとめる位かな」
「お、偉いねー。私何回かサボっちゃったからなー」
駄目じゃんと笑いながら、コップにお茶を注いで渡す。少しだけ気温が下がったとは言え、まだまだ真夏日だし、歩けば汗をかく。エアコンの前でパタパタと仰ぐ服には、じんわりと汗が染み込んでいた。
「今日友達が引っ越すからって急に呼ばれてさー。こんな暑い日にしなくても良いじゃんって言ったんだけど、今日物運びたいんだーとか言ってね?私と友達の車二台で朝から小牧から大阪の柏原ってとこまで行って来たよ。片道三時間かかって運転疲れたーもうやだー」
床に寝そべりながら彼女はごねる。お疲れ様と言って、空になったコップにお茶を入れ直した。
「しかもカラスにボンネットにフン落とされたし。落としてたら暑くて汗だくになるし。もー最悪。お腹すいた」
「可哀想だなあ。何かリクエストある?」
「んー、うどん。うどん食べたい。大盛りで。今ならいける」
うんと一つ返事で鍋に水を入れて、茹で始める。優奈はいつの間にかCDプレイヤーをつけて音楽を流し始める。Seek Backの『飛べよ』という代表曲だった。
「とーベーよー あの空に向かって楽しんでゆーけー」
「とーベーよー」
「その涙誰にも見えないくらいにたかーくたかーくたかーく いや待って相の手してくれるのライブ?」
二人でゲラゲラ笑って歌っていると、すぐにうどんも茹で上がった。頂きますで手を合わせて、ちゅるちゅると二人で食べた。
「ふー、お腹いっぱい。ビールある?」
「まだ昼だよ?それに車もあるし」
「泊まってって良い?もう今日ここにいたいよー」
はいはいと二つ返事で食べ終わった丼を流しに置く。優奈は冷蔵庫の中身を勝手に漁って、ビールを二本持ってくる。
「そうそう、もうホテル部屋取れたよ。ちょっと安いけど大丈夫?」
「いいよ、グッズ買うのにお金使うし」
「良かった」
缶を空けて大きく一口、ぷはあと息を漏らす。
「昼間から飲むビールは美味しいなあ。今日も明日もバイトないからサイコー」
「良かったじゃん。まあ、ゆっくりしてきなよ」
「ねえ、この前やったテトリスやろうよ。めっちゃゲームしたい」
この前からの続きを、二人でやり始める。買ってからまだ全然やってなくて、知らない敵を探りながら倒して、ゲームを進めていく。時間はあっという間で、頼んだ宅配のピザを食べながら、もう六時間くらいずっとしていた。
「疲れたー。だいぶやってたよね。もう九時じゃん。シャワー借りていい?」
「いいよ。後片付けはしとくからね」
「え、一緒に入らないの?」
「馬鹿言わないで早く入っておいで」
「つれないなあ」
俺だって入りたいよ!でも、理性は保たないとね。夜になって、換気の為に開いた窓から入り込んでくる風は涼しかった。もう九月か、今年の夏は忙しくて北海道に帰れなかったけど、家族はどうしてるのかな。そうこうしているうちに、彼女がシャワーから上がって来た。
「お風呂どうぞー。後の片付けは私やっとくからー」
「いやいやいいよ、俺の家だし」
「いいっていいって。お邪魔してる身なんだしさ。早く入ってー」
半ば強引に入れられた風呂場。そういえばスウェット上下、この前置いていったんだよな。また来るのかなって期待して、連絡しないで洗濯して、置いておいた。
さっとシャワーをして出て来ると、溜まっていたゴミ箱とか洗い残しのものとかが、一切合切綺麗になっていた。すました顔をしてスマホをいじる彼女に、ありがとうって言ったら、任せなさいと胸を張っていた。
「もうする事ないでしょ?寝ようよ」
「まだ十時だよ?もう寝るの?」
「うるさい」
腕を掴まれてベッドに誘い込まれる。彼女は自分の身を下にして首に腕を回して、何だっけ。一回目程ふわふわしてはいなかったけど、あ、何だったかなあ。
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