見出し画像

#2 事実と準備のはなし【黒澤世莉ワークショップ録】


3日目になりました。
1日目で伝え忘れましたが、体力不足などの理由により私は2日目・4日目は参加しておりません。


■愛する、とは

稽古場に入ったらみんなが愛について語り合っていました。

これも1日目で書いていなかったのですが、今回のワークショップでは「子供の時間という戯曲の中のワンシーンを作っていきます。


「子供の時間」 リリアン・ヘルマン作
カレン・マーサ・ジョーが一人のクソガキによって人生をめちゃくちゃにされる話。


カレンとジョー(二人は恋人同士)が別れ話をするシーンと、カレンとマーサ(二人は親友)の衝撃的な告白を受けるシーンを主に作ります。

「子供の時間」を詳細に語るとすごく時間がかかるので割愛。海外の戯曲が苦手な私でもすごく読みやすく、メレンゲ作る如く心をかき乱されるので読む事をお勧めします。『噂の二人』という名前で映画化もしているよ。


カレン役をやる俳優の一人が言いました。
「愛し方がわからない。」

「見つめれば愛せる。」
「愛せない。」
「自分の恥ずかしい事をあえて見せる。」
みんなで色々意見を出し合いましたが、ここで世莉さんからのお告げ。

世莉「アイコンタクトを取りながら、「愛してる。好きだ。」と言いながら相手に触れて、リレーション(=繋がり)を作るやり方がある。
この人が好きと念じながら、触る。体にそれを覚えさせていく。」


会って間もない人と「好き」とか「愛」とかいきなり持ちにくい感情が必要な事がある。すべては想像と妄想でカバーしなければいけないと私は思っていたし、それを信じられるようになることまで大きな壁を感じていたので、世莉さんの体でできる具体的な方法の提示に思わず拍手したくなった。
これは嫌いな人など他の感情を感じる人とのリレーションを作るのにも有効だそう。


■みんなの疑問に答えましょう


それ以外にも質問コーナー。
みんなの疑問を持ち越さない。モヤモヤを残さない安心設計なワークショップです。

画像1


  「マイズナーテクニックを身につけながら、役としてのレイヤーを重ねること。この2つを両立させるのが難しい。これは慣れなのか、コツがあるのか。」

世莉「慣れだね!自転車に乗れなかった時のことって覚えてる?乗れるまでは練習が必要だけど、乗れるようになれば簡単。土台の部分ができるのには時間がかかる。無意識な中でできるようになることができたら、次に行く。
最終的には全部やらないといけない。インテグレーション(=統合)が必要。」

ーーーーー

  「姿勢が前傾になってしまう。改善する為の体のトレーニングとかはある?」

世莉「エネルギーを出す体って、バリエーションがない。『胸と首が開いていて、下半身に重心がきている。』
立った時にはつむじが天井から引っ張られている感じで、必要な力で立つ。余計な力は抜けている。体が開いて重心は下に近づける。
怒っているのを我慢するから、身体が縮こまっちゃう。だから、我慢していると思ったら体を開く。お腹からエネルギーがポーンと出る感じで。」

ーーーーー


「テンションを上げるには?」

世莉「走れば?単純に血行を良くするのは有効。ドキドキしたいなら、強制的に体をドキドキさせる。『吊り橋効果』っていうのがあるくらい体って騙されやすいから、フィジカルから作っちゃう。」



■本日のリピテーション


さて、今日も今日とて、リピテーションしてシーン稽古。

自分に生まれている事を、分かる。
誰かから影響を、受ける。
アクションして、伝える。

この三つを回していく。
(2歳の子供のように自由に。大人としての分別を持って。)

世莉「リピテーションの時は、「動きたくない。」「近づきたくない。」など「〜ない。」の否定は行動を打ち消しちゃうのであんまり意味がない。「〜したい。」という能動的な感情を出していくようにしよう。」

「〜したくない。」は突き詰めると何もやらないことになってしまい、アクションが生まれなくなってしまう。
「動きたくない」→「寝たい」
「近づきたくない」→「離れたい」
という風に、能動的にアクションできる言い方にするのが良いらしい。

世莉「やりたい事と欲しい物しか手に入らないから、貪欲にやりましょう。」


では今日のリピテーション。

まずは、リラクゼーション。また横になって、深呼吸。自分の呼吸を観察していく作業から。自分の体に必要な事をやる。声を出したければ出す。体を動かしたければ動かす。

今日は体に力を入れるリラクゼーション。
落ち着いてきたら、体の1箇所ずつに力を入れていきます。「力を入れる」というのは、収縮するように力を込めるのではなく、「開く方向」に力を入れる。グーではなく、パーという感じ。

左足首、右足首、右太腿、左太腿・・・・と一箇所ずつやっていきます。10秒くらい力を入れたら、一気に力を抜く。

世莉「体と仲良くして、体に起こっている事をなかったことにしないで。緩めたときの自分ってこういう声が出るのね。って感じながら。自分から浮き上がらない自分を観れるのは素敵。声を出すほど、息を吐くほど、自分の体が床に広がっていくイメージで。」


体の力が抜けたらエクササイズ(=心を開く為の準備運動)。

今日のエクササイズは「何かひとつ、感情を感じとる練習」
自分でなりたい感情を一つ選んでその気持ちになってみる。というもの。

世莉「苦手な感情をやるのがいいと思います。」

苦手な感情=普段出さない感情、出しづらい感情。それを表現としては使えるようになるために。でもその苦手な感情を出すにはどう準備したらいいでしょう。

世莉「そういう感情を起こす人を目の前に連れてくる(できるだけ過去の人がいい)、そういう感情になる過去の記憶を思い出す、体の一部分に力を入れてみる。感じたら体の中に溜め込まずに空間に広げる。

感情は川の流れのようなものなので、コロコロ変わっても気にしない。俳優として自分の体に興味を持って、今目の前にあるものをないことにしないで。大きくなくていいから、今感じ取っているものを言葉にして。移り変わってもそれに逆らわないで。勇気を持ってチャレンジしましょう。周りの影響、イメージそれで生まれたものをなかったことにしないで。

それがあなたの役に立ちますか?なくなっても大丈夫。また入ってきます。考えたら呼吸に戻る。何度でもやり直す。」



このままリピテーションへ。
苦手な感情にチャレンジした人は、そのままリピテーションに入ることになります。どうなっちゃうんでしょう。

リピテーションの時に世莉さんは、どんどん気持ちを昂らせるような言葉を投げてきます。それは昔、亀田三兄弟がやってたお父さんがピンポン玉をガンガン投げてくるのを避ける地獄のようなトレーニングのみたいに。



「組んでいない人を貪欲に見つけてやってね。」
「ちゃんと声にして。」
「勇気を持ってコップの水を空にしましょう」
「その手にあるやるは何?」
「やりましょう。勇気を持ちます。」
「今、足動かしたいやつ全部言えてます?」
「勇気を持ってやってみようか。」
「近づきたいんですか?離れたいんですか?」
「明確に行動して。」
「あなた相手に興味ありますか?」
「相手をちゃんと見て、相手は幸せ?」
「それ全然伝わってないよ?」
「それ自分のやりたいこと?」

「あなたがそれをやるんです。それがあなたの力になります。」


2日前に比べて、みんなの声の表情が増えた感じがしました。
心の開き方が大きくなっている感じ。

さ、ではまたやってみての振り返り。


  「エクササイズの流れでできていたのがよかった。でも後半になるに連れて何かやらなきゃと思うようになった。」

世莉「悪癖!その時何を感じているんだろう?人前に立つことをやってると舞台に立ったら何かをしなきゃいけない・展開させなきゃいけないという呪縛がある。そんな自分を殺したい。」

ーーーーー

  「7割8割くらい出せた。これって100出せたらそれって正解?」
世莉「うん。」
  「(7割8割くらいでも)楽しかった。でも10割目指そう。」
世莉「的確に10割は難しい。120%でやってみて、間違ったら間違っていい。ガって多くしてから刻む方がやりやすい。」

ーーーーー

  「自分の気持ちが早くわかるようになった。でもこの気持ちは何だろうと思った瞬間もあった。」

世莉「そのためにやっているから、それは良い事。分かんなかったら「あー」って声出すだけでもいいし、「モヤモヤする」でもいい。」

ーーーーー

  「むかつくなと思っていた。この状態でリピテーションやるのは申し訳ないと思ったけど、それも持っちゃいけない感情だから。それを落としこもうとして相手に合わせてしまった。」

世莉「苦手だからやって欲しいわけじゃない。必要だからやる。チャレンジして失敗してしまうのはいいけど、(ムカついた気持ち、申し訳ない気持ちを)やらないというのは違う。自分が欲しいものしか手に入らないから。」

ーーーーー

  「エクササイズで嫌なイメージからやっていたのでそのままだと嫌で、相手の感情を受け付けなかった。相手に寄り添えないならそれでいいやとなっていたけど、途中から相手の感覚がちょっとずつ入ってきた。それで正解?」
世莉「正解は正解だけど、それって幸せ?」
  「ムカついていからな。幸せかって言われると・・・」
世莉「100%は出せた?」
  「出せたけど、(気持ちが)前向きにはならない。」
世莉「エネルギーを全力で出していない。エクササイズの時もやっていないんだよ。やってて悲しかった?」  
  「悲しいイメージをやっていた。でもそういう時は悔しい事を思い出していた。」
世莉「それむかつくじゃなくて悔しいじゃない?その二つ違うよ。それは明確にイメージできている?」
  「できていると思う。」
世莉「それは全部表現できた?」
  「できてないかな。内に入っていると思う。」
世莉「外に出しましょう!何でやるのかって俳優としてできるようになった方がいいから。自分の感情が出せないと役側だけになっちゃう。自分としての土台が見えなくなっちゃう。それはもったいない。」


私も世莉さんのリピテーション中に言う「あなた、それやってて幸せ?」と言う言葉に引っかかっていた。
「幸せ」=笑って終わる、なりたい状態で終わる。みたいなイメージだった。だから無理に相手と仲良くならないとと焦ったり、「やりたくない」と思っているとそれが今の自分の求めてる状態だから、「やらなくていっか」になっちゃってた。(ここで止まってしまったのも間違いだった。)
リピテーションでの「幸せ」=感情を出し切ることって思ったら、すごく腑に落ちた。すごくわかりやすくなった。「やりたくない」って私の感情として突き詰めると「こわい」だからその都度その都度、それを存分に出し切ってないといけなかったんだなと。
そう思うと、自分の衝動や行動を突き詰めていくと、一つの感情に辿り着く。その結果すごくシンプルになるんだろうなと思ったりもした。

あとワークショップで見ていると自分という土台を通すからこそ、リアルな演技になるんだろうけど、ちゃんと役を被らないといけなくて・・・って思ったら難しすぎてこんがらがってきていた。
でも体も感情も含めて楽器だと思って、役(台本)が楽譜だと思えば分かりやすいかもと思った。リピテーションは自分の楽器を使いこなせるように、音を綺麗にのびやかに出すための練習と思えば。


■準備のはなし


  「シーンをやっている時に今の自分の感情はシーンとそぐわないなと思っても、その時感じた事をやった方がいいですか?」


世莉「準備段階では頭は使って考えないとはいけない。でもシーンで動きたい事を制しながらやるのはNO。動きたいように動いた結果シーンが成立しちゃったって事をやる。その為には沢山準備が必要になってくる。準備っていうのは地雷(感情のトリガー)をたくさん埋めておく作業。台詞の中に過去の記憶を埋めておいたり、舞台上の家具や場所に記憶を埋めて置いたり・・・それを準備するのが俳優。シーンに合わないけど、今やりたいことがあるって状態は準備が合っていないって事。でも、それでもやったらいいこともあるかもしれないから、衝動には素直に従った方が良いこともある。準備はするけど、舞台上に立ったら捨てる。舞台に立ったら何も考えない。」

  「トリガーがあるって捨ててないんじゃないんですか」

世莉「ううん、だって無意識にあるんだもん。台本のどのセリフに自分が一番影響を受けるのか準備しておいて、体に落とし込んでおく。触感とか場所で思い出せるまで。トリガーに気づくまでにリロードが必要なのは準備不足。」

「準備」は台詞に場所に脳に、記憶を埋め込む作業みたいです。ちょっと怖い。
頭を使って「準備」して、舞台に立ったら「身体」と「心」におまかせする。「準備」というのは、身体と心がシーンに添うようになる切っ掛け(トリガー)を色んなところに撒くこと。頭を使わなくてもできるまで準備を刷込んでいく。

世莉「一つのセリフに、一つの句読点に、目的がある。それを見失わなければ動ける。目的があると何がいいのかというと、カレンとジョーの目的は違う。その目的の違いが障害になる。葛藤になる。それがドラマになる。これを理解しておくことが大事。」


■事実のはなし


世莉「事実をベースにキャラクターを作りましょう。キャラクターシートを埋める中で戯曲にあることは書ける。戯曲に書いていないことは、戯曲にある事実に基づいて想像していく。

事実と想像の2種類ある。例えばカレン。
昨日、「カレンは人に無関心なんじゃないか」って言ってたい人がいたけど、女生徒に愛されるているという事実がある。これって生徒をよく見ているからこそ愛されているんだと思う。それにモーター夫人(めっちゃ嫌われているおばちゃん)にも我慢ができる。ティルフォード夫人(クソガキのおばあちゃん)の謝罪にも会ってくれる。この事実からカレンの人柄を理解していける。書かれている事実は外さない。それを使ってキャラクターを埋めてから、書いていない事を想像していく。

あと、どういう風に作ろうか迷ったら面白い方を選ぼう。相手を苦しませる方を選ぶとか。より面白く演じるためには・・・と考えて選択していきましょう。

Actionからbeingになりたい。そのために事実を理解して準備をやっていく。考えなくても役のレイヤーを着たまま動けるように。
その前に何をしていたのかをわかっていることが大事。直前、数分目、何日前には何をしていたのか。」




というわけで、そんな事を踏まえながらシーン稽古。
この時点で安定の22時です。

画像2

シーン稽古はいきなりやる事がドカンと増えててオラおどれえた。シーン稽古だと参加者個人の課題提示が多くなってくるので、ざっくり割愛。

特に気になった点だけまとめます。

・カレンとジョーのシーンは、マーサがいなくなりやすい。
実際にカレンとジョーのシーンにはマーサは出ないのだけど、会話の中にマーサの名前が出てきた時に関係がある存在が見えにくくなる。
本人が登場しないシーンでも本当にいると思える演技ってどういうものだろう。

世莉「原因は二人の関係になってしまっているから。マーサのトリガーがあったらもっといい。」

・空間全体を使ってどう遊ぶか
舞台の空間の中ではなかなか動けなくなりがち。世莉さんに「本当にそこに居たいの?」と言葉もよく出てくる。どういう所に役はいたんだろう。舞台空間や物の距離感をよく把握しておくことが大切。
練習で舞台を歩いたり、動いてみたり、トリガーを舞台に仕掛けてみたり。

・エモーションを大きいアクションで。
「カレンのジョーへ感じてしまう不信感への悲しさ」「マーサがカレンへの愛にどこで気づいたのか」
このトリガーが自分の中にあっても、変化が小さいと観客にはわからないことがある。どこで気づいたのか、どう溢れさすのか、その表現の仕方も考えもの。


あと、演じていると役ではなくて自分の癖が出てしまうことがある。その人に自分の癖を役の癖に置き換えたらって言ってたの面白かった。
人の癖ってどんなのがあるんだろう。人の癖を考えるってちょっと新鮮だった。
カレンがジョーの頭撫でてる組があって、あー二人の時はこういう感じだったんだと想像力が膨らんだ時があって、その人らを信じられた瞬間だなと思った。


台本にある事実から、どこまで準備してどこまで想像できるんだろう。


【3日目、おしまい。】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?