2023-08-18の日記(KMNZのLITAに話しかける妄想)

 「あ、あの!」
 彼の意味のない音は街の喧騒の大部分に届く前に掻き消えたが、確かに込められた感情は彼女の犬耳にだけは届いた。彼女は振り返った。

 声の主は蛇だった。あの感情のこもった叫びを繰り出したとはとても思えないほど弱々しく、ビルの影にも怯えているかのようだった。それでも発言を続けた。
 「KMNZのLITAさんですよね…?ずっと好きです、応援してます!」
 「あ、ども…」
 
 LITAの返答は極めて簡素なものだった。しかし蛇は興奮していた。まさか生きているうちに、生きているものとしてのコミュニケーションが取れるものと思っていなかったのだ。すると、坂の上で引っ掛かりが取れた岩のように、蛇の内にある様々なものの勢いが増していく。転がっていく。加速していく。もう止められはしない。止めようという意識は消え失せた。ビル風よりも早く、彼は次の発言をする。
 「もし時間があったら、お茶でもどうですか?」
 「そういうのは、すみません。応援ありがとうございます。」

 「そりゃそうですよね、すみません!頑張ってください!」
 止まった。この急な減速には、様々なものが必要だった。一つは後悔。彼はLITAをお茶に誘ったことはもちろんすべての発話について、さらにいえばその音程やリズムにすら後悔を舐めさせた。
 それに続くのは、自己嫌悪。だから自分は駄目なんだと、要因を言語化できていないくせに因果関係が分かったような思考が脳内を回転する。
 もっとも具体的なのは、顔の歪み。LITAが踵を返し蛇に背を向けた瞬間、彼の顔はさらに醜く歪み、今にも嘔吐するか叫ぶかしそうな感じだった。側から見れば、無理なナンパに失敗した男が逆恨みをしてるように見えただろうが、彼はもうそんなことを気にしている余裕はなかった。
 LITAがつかつかと遠ざかっていく中で、彼は一歩動くことも叶わなかった。それどころか寝そべってしまいそうなほどだった。彼が今立っているのは惰性だ。存在しているのも惰性だ。もしこの世が生きる意志がなければ死ぬ世界なら、彼はもういない。


 三日だけ日雇いバイトをしました。上の文章は、僕が単純作業をしながら何度も脳内で繰り返した情景です。妄想すらうまく行きません。これは上手く生きていけるようになるために必要なことでしょうか。夢想は自由だと思っていましたが、夢想は現実と繋がっているからそれにも枷はつけた方がいい気がしてきました。

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