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キュウレンジャー28話感想

皆さんは衝動買いをしたことはあるだろうか。どうしても欲しい、買いたいという抑えきれない昂る気持ち………。頭がそのことでいっぱいになってどうしようもできなくなるほどの強い衝動。この気持ちを沈めるには欲しいものを手に入れるほかない。
私はキュウレンジャー28話視聴後にキュータマセット03を買った。この商品にはヘビキュータマと、28話で印象的な活躍をしたイテキュータマが封入されている。視聴後にいてもたってもいられず購入したのだ。それほどまでにこの話はインパクトが強かったのである。

操り人形は楽しげに踊る

ダークナーガはアキャンバーのアジトでインダベーたちと戦っていた。ダークナーガが戦うのを心から楽しんでいる気持ちがひしひしと伝わってくる。セリフを言うときも活気が溢れているのが印象的だ。普段クールな雰囲気のナーガとのギャップを見事に表現するナーガ役の山崎大輝さんの演じ分けが凄すぎて見入ってしまう。
アキャンバーはソファに脚を組んで座り、ダークナーガを眺めている。すごく楽しそうだ。「キュウレンジャーをバラバラにする」という目的に向かって事が進んでいるため最高の気分なのだろう。アジトにやってきたククルーガの「そいつがお前の新しいおもちゃってわけか」という発言からは、アキャンバーが以前にも同じようなことをしていたと勘繰ることができる。ダークナーガはアキャンバーの掌の上で踊らされている状態なのだろう。アキャンバーにとってダークナーガはきっと目的達成のための都合のいい駒でしかない。ダークナーガの振る舞いはとても楽しさに満ち溢れていて美しいが、自分の手足に括り付けられた操り人形の糸は見えていないのだろう。彼は自分の様子を眺め愉悦に浸りながら笑う存在にも、仲間とバラバラになるという破滅へのレールが敷かれていることにも気付いていないのだ。
ダークナーガは笑顔でインダベーを机に何度も叩きつけ、戦いたいという欲求を抑えられないように思える。「感情を得て俺は強くなった…もう以前までの俺じゃない」と呟くダークナーガ。セリフの言い方が大人っぽく繊細でとてもかっこいい。

すれ違う思い

ラッキーたちは街で暴れ回るアキャンバーとダークナーガの元へ駆けつける。攻撃を止め、「バランス」と呼びかけるダークナーガ。キュウレンジャーのみんなが現れたのにバランスの名前だけ呼ぶのがとても良い。「ついにお前に会えた」と期待が溢れている言い方が大好きだ。バランスの「迎えにきたよ!一緒に帰ろう」というセリフから優しさが滲み出ていて、ナーガのことを大切に想う気持ちが伝わってきて温かい。
しかしダークナーガは迷いなくバランスの顔に攻撃を放ち、「お前とのコンビは解消だ」と言い放つ。ナーガと共に長い時間を過ごし、絆を深めてきたバランスにとって言われたくない辛いセリフであろう。バランスは「そんな…」と切なそうに呟く。心に重くのしかかるようなセリフを平然と言われたのも、その顔に自然な笑みが浮かんでいたのも胸が軋みそうなほど辛いのだろう。
顔は表情として感情が現れる部位。ナーガは手鏡を見ながら笑顔の練習をするなど、きっと数え切れないくらい顔という部分を見てきたはずだ。その大切なところをピンポイントで攻撃するくらいダークナーガは怒りに満ち溢れている。

ダークナーガはラッキーたちが変身していない状態だが気にせず攻撃を仕掛けてくる。真っ先にバランスを攻撃しようとするが、間一髪のところでラッキーに阻止されてしまい、「なんだよ」と悔しげに呟く。ラッキーたちも変身し、彼を止めるため戦う。そこにアキャンバーも乱入し、「せっかくだから二人きりにしてあげたら?」とバランスとヘビツカイメタルが二人になるよう誘導する。
ヘビツカイメタルからの攻撃を必死にかわすバランス視点と、バランスに攻撃を仕掛けるヘビツカイメタル視点が交互に映るシーンは、臨場感や迫力がまじまじと伝わってきてドキドキする。
そしてヘビツカイメタルは鎌でぐいっとバランスを近くに引き寄せて、自分が感情を手に入れて「嬉しいだろう?」と問いかけるのだ。相手と目を合わせて聞きたい大切な問い。だからこそバランスが逃げるのが難しい状況を作ったのだろう。バランスは「そんなの嬉しいわけないじゃないか!」と答える。ナーガが変わってしまったのも、仲間である自分に攻撃してくるのも本当に辛いことが伝わってきて胸が締め付けられる。
それを聞いたダークナーガは「そうか…やっぱりお前も俺に感情を取り戻してほしくなかったってわけか」と言う。そうかと言ったときに下を向いて落ち込んでいる。相棒は喜んでくれると信じていたのに、ダークナーガからすれば裏切られたと感じてしまい、よほど辛かったのだろう。そしてバランスを突き放して遠慮なく攻撃する。
ここで気になるのが「やっぱり」と言ったことだ。もっと感情を手に入れるためアキャンバーについて行くことを選んだ彼に一緒に帰ろうと言った時点で、バランスも感情を取り戻すことに反対しているのではと思った可能性がある。それでも相棒だけは喜んでくれるかもと、わずかな希望を抱いていたのかもしれない。
ダークナーガはきっと感情を取り戻して仲間と共に喜び合いたいのではないか。だから一度攻撃をやめて、わざわざ顔を近づけてバランスに聞いたのではないか。
でも反対された、喜んでくれなかった。信じていたものが崩れ去った絶望感がナーガの闘争心にさらに火をつけたのかもしれない。期待すればするほど裏切られた時の絶望感は強くなり、中々消えず自分を苦しませ続ける呪縛になり得ない。
バランスは「違う!!!!」と思いっきり叫ぶ。心の奥底から湧き出てくるような真剣な叫び、バランスの辛さがひしひしと伝わってきて惹きつけられる。呼吸が荒いがなんとか立ち上がり、バランスはBN団の名乗りを話し出す。二人の絆の証とも言える大切なセリフだからこそダークナーガの心に響くかもしれない。ハイタッチしようと一歩一歩彼に近づいて行く。あれだけ息の合った一連のポーズを決めるには、きっと何度も練習して共に頑張ってきた絆があるに違いない。ハイタッチするのも気心知れた関係性だからこそできることだろう。
しかしヘビツカイメタルは「馬鹿にしてんのか?」と冷めた言い方をし、バランスの脚の付け根を鎌で思いっきり刺す。倒れたバランスを笑いながら戸惑いなく連続で攻撃し、大ダメージを受けたであろう足の付け根を踏みながら「馬鹿にしてんのかぁ!?」と叫ぶ。炎のように燃えたぎる怒りが溢れ出ている。鎌で突き刺した瞬間、切ないBGMが止まるのも印象的だ。世界の時が止まったと感じるくらいの衝撃的な出来事。
バランスはあまりの痛みにもがき苦しむ。見ていて辛すぎる。相棒との絆を確かめようとした矢先にこの仕打ち。とても苦しそうな声を上げるバランスと、笑いながら躊躇なく攻撃してくるダークナーガの楽しそうな声の対比も、胸が締め付けられるほど辛い。

ダークナーガ視点で考えると、一連の行動にも納得がいく。彼は相棒に期待を裏切られ絶望の淵にいるのだ。今の彼に必要なのは自ら「解消だ」と言い放ったコンビの名乗りではなく、成長した自分を認め共に喜んでくれる温かい言葉なのだろう。人から貰う言葉は、相手が自分を思いやってくれる優しい気持ちがないと得られないものだから。

アキャンバーはラッキー達に「ナーガを元に戻すには全て忘れてしまうくらいの激しい痛みを与えるしかない」と告げる。それを聞いてダークナーガを攻撃しようとするオオカミブルーの脚を掴み、必死に止めるバランス。先ほど受けたダメージが体に残っているだろうが、それでも譲れない思いがあるのだ。「だめだよ…なんでナーガと戦うんだよ…」というセリフから、相棒を傷つけたくない、戦いたくないバランスの悲痛で切実な想いが伝わってくる。そしてナーガを元に戻す方法を知った彼は「そんな…」と呟く。言い方からどうしようもない絶望感や辛さが滲み出ている。
ヘビツカイメタルの強力な攻撃によってシシレッドたちは変身解除されてしまう。彼の「なんていい気分なんだ!!これが感情だ!!!」は心の底から溢れ出る歓喜の叫びのようだ。両手を見つめながら腕を振る動きなど、全身を使って喜びを体現している。見放すかのように「お前らにはもう用がない」と言い、「だからお別れだ…」と冷酷に告げ、必殺技でトドメを刺そうとする。ラッキーたちは絶体絶命のピンチに追いやられてしまった。
しかし突然現れたナーガそっくりの女性、エキドナの能力で動きを封じられ、その隙にラッキーたちに逃げられてしまう。飛び去って行くシシボイジャーにも忘れずに攻撃を放つあたり、相当殺気に満ち溢れているのだろう。
アキャンバーにエキドナがあなたの仲間かと聞かれて、「ふふふふふ、はっはははは……」と顔を押さえて笑うヘビツカイメタル。後一歩のところで逃げられてしまい、悔しさのあまり笑ってしまう。これも感情表現の一つだ。

余談だが、ナーガがたまに口にする「あげぽようぇい」や「さげぽよ」などのバランスの口癖をダークナーガは全く言っていない。今彼が憎んでいる相手の口癖を言うのは嫌気がさすからかもしれない。それとも他の人の口癖ではなく、自分が感じた思いを自分自身の言葉でダイレクトに表現することがとても楽しいのだろうか。

エキドナはナーガと同じヘビツカイ座出身。先ほど相手の動きを一時的に操る能力が使えたのもそのためである。彼女は感情を持つことは一族にとって危機、感情を持ったナーガを抹殺しに来たと告げる。バランスは最初少し遠くの壁際で話を聞いていたが、その言葉にショックを受け、思わずエキドナたちのそばに近づく。
エキドナは彼に「そそのかして外に連れ出したやつ、お前の方がひどい」と淡々と言い放つ。一瞬下を向いて落ち込み、目を逸らすバランス。「ナーガは僕達が救うから帰ってよ!!」と強く言い、痛む脚を庇いながら駆け出して行く。思わずこの場から離れたくなるくらい辛いのだろう、エキドナがナーガを抹殺しに来たのも、自分がナーガをそそのかしたという痛いところを突かれたのも。

二人の原点

ラッキーたちは公園のブランコに乗っているバランスを見つける。ブランコに揺れるバランスの寂しそうな背中。ブランコに乗っているのはバランスの揺れ動く不安定な気持ちを表しているのではないか。ナーガと戦いたくない、でも激しい痛みを与えなければナーガは元に戻らない。選ばなければならない究極の2択。胸が苦しくなる問いだ。でもこのまま選ばないわけにはいかなくて。

バランスはラッキーたちに「エキドナが言っていたことは本当なんだ、僕はナーガを騙して連れ出した」と真実を告白する。
そしてナーガとの出会いを語る。
バランスは昔ヘビツカイ座系で盗んだお宝を持って逃げ出そうとした。しかし警備員達に追われピンチに陥ってしまう。そこにナーガが現れ、バランスは助かるために命乞いをする。バランスに興味を示したナーガは迷いなく彼に近づいて行く。自分が欲しいと願う感情を持った者が現れた。ついに見つけられた喜び。感情を手に入れられるかもしれない千載一遇のチャンスに胸がときめいているのかもしれない。
ナーガはバランスに感情がほしいという切実な想いを打ち明ける。「俺は感情が欲しい、感情があって平和になる…皆が笑って喜び合える世の中にできる」純粋に平和を願う心が、ナーガが救世主に選ばれた理由なのかもしれない。
初対面の人に自分の秘めたる切実な思いを打ち明けるのは相当な勇気がいると思う。しかし、ナーガはこのチャンスを逃したくないからこそ打ち明けた。自分の願い、胸の内を戸惑いなく言い切るのは潔くてとてもかっこいい。逆光に照らされて光るナーガの美しい銀髪が絵になる。
バランスは逃げ切るために「僕と一緒に来れば感情を教えてあげるよ」と言いナーガを利用しようとする。それを聞いたナーガが呟く「感情…」の切実な言い方。ついに現れた感情を手に入れられるチャンスに胸が躍っているように感じる。
こうして共に行動することになった二人。2話でナーガがバランスを裏切ってジャークマターに捕まってしまい、あやうく離れ離れになりかけたこともあった。しかし、ナーガがバランスの誕生日を取り戻すために奮闘したり、椅子から落ちて気絶したナーガが目を覚ました時にバランスが抱きついて喜んだりなど、徐々に絆を深め、いつしかお互いにとってかけがえのない大切な存在となった。その成長の過程が美しくて何よりも尊い。成長は頑張って行動しなければ成し遂げられないものだ。だからこそ大きく成長できたときに心が震えるのだろう。

バランスは「ナーガの感情が欲しいって純粋な気持ちを利用したんだ、結局やっていることはアキャンバーと同じだ」と気付いてしまう。勢い良く立ち上がり、ブランコ横の鉄柱を叩く。叩いた後に肩で息をしているのがバランスの切羽詰まった切実な気持ちが伝わってくる。彼は鉄柱に腕を置いて落ち込む。
ラッキーはバランスがナーガを連れ出したから自分達と出会えたと励ます。2話でバランス達が華麗にジャークマターからお宝を盗む二人のかっこいい姿を見たラッキーは、彼らがキュウレンジャーじゃないかと思って声を掛けた。バランスとナーガが共に過ごし怪盗業をしていなかったら、二人がキュウレンジャーに入ることはなかっただろう。
「俺はナーガと一緒に笑い合いたい、喜び合いたい、バランスもそう思っているんじゃないか」ラッキーのナーガの願いに共感し、寄り添う優しさ。そしてバランスの気持ち、願いを再確認する。
ハミィはバランスを元気づけるため、「ナーガが言ってた、俺が感情を取り戻したらバランスは喜んでくれるはずだって」と伝える。ハミィの切なさ溢れる表情に惹きつけられる。バランスの「ナーガが…!」と言う言葉から絶望的な状況に差し込んだ一筋の光のように思える。
下を向いて少し考え込んだ後、顔を上げて「そうだね……!僕が間違っていた!ナーガを必ず取り戻す、どんなことをしても」と決意する。
攻撃を受けた脚が痛む、それでもみんなを先導しナーガの元へ駆け出して行く。葛藤の末、大切な相棒と戦うという辛い選択を自ら決めた。
バランスは大切な人が自分を攻撃してきたときの胸が張り裂けそうなほどの痛み、世界にヒビが入って見えるくらいの悲しみをその身で味わっている。ダークナーガが発した憎しみの言葉も、迷いなく鎌を振り下ろし攻撃してくる様も鮮明に脳裏に焼きついているはずだろう。それでもナーガに戻って来て欲しいという悲願があるからこそ彼と戦うことを選んだ。生半可な思いでは決して成し遂げられない強い覚悟が、心が震えるほどかっこいい。
それをエキドナは神妙な顔で見つめる。バランスたちがナーガを大切に想う気持ちや絆を見て何か思うことがあるのだろうか。

決死の覚悟

バランス達は再びダークナーガ達の元へ現れる。「また俺にやられに来るとはなぁ!!」とダークナーガがラッキーたちに向かって放った攻撃に、すぐ防御の体勢を取るバランス。これだけで本気で戦う気なんだと真剣さが伝わってくる。
バランスの「やられるつもりなんてない!君を必ず取り戻す…たとえ君を傷つけたとしても!」というセリフから、強い決意が表れていてとてもかっこいい。本人の前で堂々と宣言する潔さがとても良いなと思う。
ダークナーガは「お前らがその気なら話は早い、息の根を止めてやるだけだ」と言い変身する。この変身シーンにありったけのかっこよさが詰まっていて大好きだ。人差し指と親指を立ててダークキュータマを構えるポーズが美しくて最高にかっこいい。キュータマに指を添わせるような繊細な仕草に見惚れてしまう。そしてバッと腕を払いダークチェンジする。美しいポーズからのダイナミックな動き、この緩急の付け方、ギャップがとてもかっこよくて惚れ惚れする。それと、彼が変身した後に小さく「あぁ」とこぼすのが好きだ。誰かに訴えかけるわけではない、思わず漏れ出てしまった素の振る舞いみたいな声が良い。ヘビツカイメタルの圧倒的なパワーに身を包まれるのが楽しくてその嬉しさが思わず漏れてしまったのだろうか。
続けてバランスたちも変身する。「みんな!行こう!」と場を仕切るバランスの掛け声から、ナーガを絶対に取り戻したいという強い意思が感じられて好きだ。「宇宙戦隊キュウレンジャー」とみんなで名乗る時バランスが一番前にいるのは珍しい気がする。一番前にいればすぐ戦いに行ける。それだけ本気なのだろう。そしてバランスの「お前の感情試してやるぜ!」というセリフがとても印象的だ。
ヘビツカイメタルはテンビンゴールドとの戦闘の最中、「何が試してやるぜ!だ、テメェには似合わねぇんだよ!!」と言い放つ。その言葉にテンビンゴールドは「テメェなんて言わないで、バランスって呼んでくれナーガ!」と返す。
大切な人に自分の名前を呼んでもらえるのは何よりも嬉しくて心が温まることではないか。名前は自分だけの宝物のようなものだと思う。他の人から名前を呼んでもらえて、名前を大切にされたら嬉しい。相棒が隣にいて、名前を呼んでくれて、一緒に楽しく過ごせることがバランスにとっての幸せなのかな。だからこそテメェではなく名前で呼んで欲しいのだろうか。変身している状態で変身前の前で呼んで欲しいと言うのもとても好きだ。変身して姿が変わっても、変身後の別の名前があっても、それでもいつも通りの呼び方をしてほしいという譲れない思い。名前を呼ぶのは何気ないことだが、そこに幸せが詰まっているのかもしれない。

「忘れたのかな〜?あいつを元に戻すには激しい痛みが必要だってこと!アキャキャ♪もしかしたら死んじゃうかもよ〜?」と再度忠告をするアキャンバーに、「だからって!仲間を見捨てる理由にはならない!そうだろう?バランス!!」と返すシシレッド。バランスを呼びかけるのも、力強く魂に訴えかけるような声も素敵で胸を打たれる。ここでシシレッドがヒカリキュータマでタイヨウモードになり、その光でテンビンゴールドもパワーアップさせるのが最高だ。みんなで協力してナーガを取り戻そうとするチームプレーが素敵だと思う。
そういえばヘビツカイシルバーもタイヨウモードの光でパワーアップするが、ヘビツカイメタルには何も起こっていない。これは私の憶測だが、テンビンゴールドがパワーアップするからこそ彼も力が湧いて来るのだろうか。嬉しそうな人を見ると思わず自分も笑顔になってしまう現象と同じなのかなと思う。

「ナーガが欲しかった感情は全てを破壊し尽くすような感情じゃない」と訴えかけるテンビンゴールド。先程の「お前の感情試してやるぜ!」というセリフとの繋げ方が上手くて胸がいっぱいになる。感情はプラスのものからマイナスなものまで様々なものが含まれている。ダークナーガは感情を手に入れることに頭がいっぱいになって当初の目的を見失っている。そんなときにバランスやみんながあなたが目指していたのはこっちだよと教え、導き、ナーガを支える。それが仲間を思いやる絆なのではないかと思う。
バランスとダークナーガが戦い合うのは胸が張り裂けそうなほどの辛さが込み上げてくる。あんなにも仲が良かった二人が戦わなければならないなんて。シリアスな思いと思いの激しいぶつかり合い。だからこそ強く引き込まれるのではないか。
どんなに攻撃されても、倒れても、テンビンゴールドは諦めずに立ち向かい続ける。そしてテンビンゴールドはヘビツカイメタルの鎌の刃を受け止めた。そのとき脳裏に浮かぶのは相棒と初めて出会った時の記憶。
「みんなで笑い合いたかったじゃないのか、ナーガー!!」と問いかける。バランスがナーガが感情を欲しい理由を今に至るまで覚えているのも、それをダークナーガに言い、あなたの原点を思い出して欲しいと伝えるのも最高だ。心に直接訴えかけるような熱い熱い思いのこもった声に心を揺さぶられる。他にも、テンビンゴールドがヘビツカイメタルの攻撃によって階段から落とされた時の辛そうな声や、ヘビツカイメタルが鎌を振るったがテンビンゴールドに受け止められた時の悔しさ溢れる声など、ダークナーガ役の山崎さんも、バランスのCVを担当されている小野さんも声だけで辛さや悲痛な思いが伝わってくる演技があまりにも凄すぎて胸がいっぱいになる。
テンビンゴールドによって地面に仰向けに倒されたヘビツカイメタル。テンビンゴールドが迷いなく攻撃の準備をすることから、相当強い覚悟を決めているのだとひしひしと伝わってくる。しかし中々引き金を引くことはできない。
ヘビツカイメタルは武器を向けられても余裕ありげに笑う。「どうした?撃てないのか?甘いやつだな…」と。このとき、ヘビツカイメタルが自分の顔の側面をぽんぽんと叩いている。「てめぇには俺の顔に攻撃することなんてできねぇよな?」と問いかけているのだろうか。
そう言われて、テンビンゴールドの手元に力が入る。指先の動き一つで人を惹きつける思いが溢れた演技が凄すぎて見入ってしまう。
そしてテンビンゴールドの「撃てるよ…」というセリフの言い方がとても印象的だ。短いセリフの中にバランスのシリアスで切実な思いがぎゅっと詰まっていて、それがダイレクトに伝わってきて脳を揺さぶられる。その表現力の高さに強く惹きつけられるのだ。
テンビンゴールドは「君だけに痛い思いはさせない!!」と空高く無数の攻撃を撃ち放ち、ヘビツカイメタルを取り押さえて自分もろとも攻撃を受けようとする。
「離せ…離せ…」とヘビツカイメタルは逃げようと必死にもがく。楽しそうに振る舞っていたダークナーガに初めて現れた戸惑い、焦り。
無事では済まない可能性のある強力な攻撃を自分も受けるのは相当な覚悟が必要だと思う。ナーガと戦いたくないと思っていたバランスが迷いの末、実行したのだ。ナーガを大切に思うからこそ一人だけに辛い思いはさせない。どんなときも二人で思いを分かち合う。楽しいときも辛いときも一緒。それが相棒だから。同じ想いを共有することは嬉しさが込み上げてきたり、辛さを緩和したりできる。それは大切な心の支えになるのではないか。
胸が締め付けられるほど辛いのに、瞬きを忘れるくらい見入ってしまう。それはナーガを大切に思うバランスの熱い熱い想いが伝わってきて心が打たれるからだろう。
バランスはダークナーガを拘束している。彼の感じている怖さや苦しさなどがひしひしと伝わってくるほど近い距離だ。その痛みを共に背負う覚悟を決めた姿勢があまりにもかっこよすぎる。
考えただけで足はすくみ、手は震え、心は恐怖という闇に包み込まれそうなほどの辛い選択。それでもバランスは自らの意思で引き金を引いたのだ。

大ダメージをくらった二人は強制変身解除される。力を振り絞り、ナーガの方ににじみよるバランス。とても辛そうな声と、バランスの体の所々がメカニカルな部分が露出するくらいボロボロになっていることから、相当なダメージを食らった切実さがひしひしと伝わってくる。「ナーガ…」とこぼすように言う声も切なげで、辛そうで息も絶え絶えだ。なんとか近づき、「ナーガ……大丈夫……」と声を掛けるが、蹴り飛ばされて倒れてしまう。
「大丈夫なわけねぇだろ……。何が……みんなで笑い合いたいだ……ふざけるんじゃねぇよ!!」と彼に怒鳴られてしまい、途方もない辛さが込み上げてくる。
ダークナーガの怒りと切なさが入り混じったような感情をここまで表情で的確に表せる山崎さんの演技力が凄すぎて見入ってしまう。感情を手に入れた自分を否定されてしまった時点で、みんなで笑い合いたいという夢は彼の中で崩れ去ってしまっている。今さらそう言われたところで、燃えたぎる怒りは収まらないのだ。
ショックを受けて言葉が出なくなるバランス。特定のセリフを話さずに、声にならないほどの辛さを声に乗せて表現できるのがすごい。
余談だが、彼が倒れている状態だからこそ上下する胸板で呼吸しているのがはっきりと分かり、懸命に生きている様が伝わってきて好きだ。

アキャンバーは激しい痛みを与えれば元に戻るというのは嘘だったと告げる。なんでアキャンバーが自らナーガが元に戻る方法を教えたんだろう…?と思ったが、罠だったのだ。
さらに、一度解放した感情は何があっても絶対に戻らないという恐ろしいことを告げられてしまう。
ダークナーガはなんとか立ち上がろうとしながら「この痛みを俺の怒りに変えて必ずテメェを葬る」と宣言する。心の底から湧き出す強い殺意、憎しみ。バランスはナーガのことに大切に思い、戻ってきて欲しいからこそ自分もろとも攻撃を受けるという決断を下した。しかしナーガからすれば信じていた相棒のせいでトラウマになりかねないような深い深い傷を負った。
二人の気持ちは完全にすれ違ってしまっている。バランスの「ナーガ…」という呟きから溢れる切なさ、辛さ。ナーガを元に戻すための決死の作戦が、関係性に深い亀裂を入れてしまう結果になってしまった。ダークナーガはアキャンバーに連れられてどこかへと消えた。
すると街には巨大ツヨインダベーが現れ、シシレッドとフタゴキュータマで分身したオオカミブルー、カメレオングリーンがキュウレンオーに乗り戦う。
その間バランスはコグマスカイブルーに支えられてなんとか立っているが、俯きながら「ナーガ……」と切なそうにこぼす。

これからどうすればいいのか路頭に迷ってしまうラッキーたち。エキドナは「ナーガを抹殺する」と意思を変えない。ラッキーはそれを止めようとするが、「好きなようにしたら?」と言うバランス。意外な反応に周りは驚くが「君が何をしようが関係ない、ナーガは僕が守る、必ず取り戻す」と宣言する。最初はエキドナに「帰ってよ」と言ったバランス。しかし今はエキドナの星の掟を守ろうとする意思を無理やり止めようとしない。でも自分の強い意思は貫き通す姿勢があまりにもかっこよすぎる。誰にも止められない強い決意。たとえ決死の作戦が上手くいかなくても、ボロボロになっても、バランスの意思は変わらないのだ。

思いを表現するということ

今「スーパー戦隊で特に胸を締め付けられるくらい辛かった回は?」と聞かれたら真っ先に「キュウレンジャー28話」と答えるくらい深く印象に刻み付いた回だった。
この回で何よりも辛いのは、バランスの必死の叫びがダークナーガの心に全然響いていないことだ。
それはダークナーガが求めているものではないから。今のダークナーガにあるのはバランス、キュウレンジャーへの強い憎しみや怨み。その思いを抱いている相手に戻ってきて欲しいと必死に呼びかけられても、キュウレンジャーを倒すという意思は簡単には変えられないだろう。
怪盗として、キュウレンジャーとして同じ方向を見て共に歩んできたBN団の二人。しかし今二人はバラバラの道にいる。その先に見えるものはそれぞれ違うのだ。
ダークナーガとバランスの気持ちはボタンをかけ間違えたかのように思える。かけ間違えたことに気づけなければどんどんボタンはずれていく。根本を治さなければ決して解決しない。

今回の話でダークナーガが元に戻らなかったのはとても驚いた。決死の作戦を決行しても願いが叶わなかった絶望感。元に戻す方法が分からない、縋る術も無くなってしまった不安に心を揺さぶられた。
バランスもナーガが元に戻らず彼から突き放されたときは切なそうな振る舞いを見せていた。目の前が真っ暗になるくらい辛い状況だ。しかしそれでも負けずに立ち向かい続けると決めたその凛々しい姿勢に惚れ惚れする。
絶望から這い上がり再び頑張れる人は美しい。絶望は心も体も覆い尽くす闇。暗い暗い海の底に沈んでいき水圧に押しつぶされるかのように苦しめられる。そう簡単には立ち直れないくらい落ち込んでもおかしくない。再び立ち上がるのは並大抵の力では決してできないだろう。それでも叶えたい願いのためにひたむきに全身全霊で頑張れる心の強さが、何よりも輝いて見えるくらいかっこいいのだ。
2話では自分が助かることを優先し、ナーガのこと見捨てようとしたバランス。しかし今はナーガのために命を張れるくらい大切な存在になったのがひしひしと伝わってきて胸が熱くなる。

バランスのCVを担当されている小野友樹さんの熱演も本当に良かった。例えばダークナーガに「そうか…やっぱりお前も俺に感情を取り戻してほしくなかったってわけか」と言われて「違う!!!!」と叫んだシーンも、ただ大きな声を出すだけではあんなにも強く惹きつけられない気がする。心の底から必死に振り絞って訴えかける真剣さが声だけで伝わってくる。話すペースや声量、絶妙に使い分ける声色などで気持ちを表すのが本当に凄い。それだけ心情を分かりやすく的確に表現するその職人技に惚れ惚れする。

ガワのキャラクターは基本的に表情が変わらないことが多い。しかしバランスは目尻が下がった"さげぽよ"(私が勝手にそう呼んでいる)の表情差分がある。今回あえてその表情を出さなかったからこそ、声や動きで心情を表す表現力により注目が集まり、強く心を動かされたのではないか。バランスの悲痛な思いを迫真の演技で表現してくださった小野さんとスーツアクターの大林さんに心からお礼を伝えたい。

また、観た人の心を揺さぶる素晴らしい物語を作ってくださったキュウレンジャーの製作陣の方々には感謝してもしきれない。思いを表現するのはとても難しいことだと思う。人によって考え方や感じ方は違う。同じ作品を観るという共通のことでも感想は十人十色。そのキャラが抱えている思いをできるだけ分かりやすく視聴者に伝えるには並大抵の努力では成し遂げられない。何気ないセリフの言葉選びに、一言一句のセリフの話し方に、指先まで意識を張り巡らせた仕草に、機敏に変化する表情に、場面によって随時変わりゆく試聴者の心を揺さぶるBGMに、それぞれのシチュエーションに、空模様や場所などのロケーションなど挙げればキリがない。そのひとつひとつにこだわりを詰め込んで、表現したい思いをのせる。その溢れんばかりの情熱によって作り出された映像だからこそ観た人の心を動かす。私はそれに強く感動する。

私は趣味でイラストを描いているが、はっきり言って制作には苦労が絶えない。自分の表現したいものを伝えられる構図やポーズなどを考えるのに数日かかることもしょっちゅうあり、納得のいく表情が描けるまで何度も何度も描き直すこともざらにある。一枚の絵に数十時間以上かかったときは途中で心が折れそうなほど辛かった。
作品を作るのにかかった時間や苦労は個人差があり、それを知るのは本人のみだが、苦労は必ずと言ってもいいほど付き纏うものだ。それでも作品を作り続ける人たちは本当に凄いし美しく見える。
かけた時間に対して作品を観るのにかかる時間はほんの短い間という場合が多い。しかし、例え一瞬でも見た人の心がときめく星のような存在になれたら、苦労が報われた気がする。もしその作品が誰かの心に刺さったのなら、その人の心を照らし続ける太陽のような大切なものにもなり得る。それはこの上なく素敵なことだと思う。

怖かわいいアキャンバー

アキャンバーの魅力はかわいさと怖さのギャップだと思う。
まずアキャンバーを演じるスーツアクター 蜂須賀祐一さんの一挙一動にかわいさが溢れていて見入ってしまう。ナーガと戦うと決意したバランスたちがダークナーガと再び会った際、ステッキを後ろに構えながら楽しそうにくるくる回る、ダークナーガが変身するときに横で楽しそうな動きをするなど、見ていて飽きない魅力がある。特に好きなのは一度解放した感情は何があっても絶対に戻らないと告げる時、キュウレンジャーの方を指さしているところだ。その指差す方向がカメラ目線だからこそ視聴者にも「そこにいる"お前"に向けて言ってるんだよ!」と訴えかけるようで、傍観者から急に当事者へと引き込まれるような迫力がある。さらに、そのときのセリフの恐ろしい内容もあいまって背筋が凍りそうになる。
セリフを話す時はもちろん、それ以外の場面でも常にそのキャラの個性溢れる動きをするのは相当大変ではないだろうか。
このキャラはこういう場面のときどのような動きを見せるだろうと深く向き合う。そして立ち方、指先の仕草ひとつひとつまで神経を張り巡らせてキャラの個性や感情を表現する。
私はイラスト一枚のポーズを考えるだけでもかなり時間がかかるが、映像作品となると数えきれないくらいそのキャラの動きを考える必要がある。回によってそのキャラの出番の尺は異なるが、長いときは数十分もの間そのキャラらしさを貫いて演技するのは想像を絶する苦労が伴うと思う。一分一秒気を張り続けそのキャラを体現する。それだけ魂のこもった演技だからこそ見入ってしまうほど惹きつけられるのだ。
また、CVを担当されている小宮有紗さんの楽しさが溢れ出ているかわいい笑い声が好きだ。印象的なのはアキャンバーがよく笑っているということだ。それは楽しさを体現していると同時に、シリアスな場面でも愉悦を感じているという恐ろしさを表している。
特に印象に残っているのはナーガを元に戻すには全て忘れるくらいの激しい痛みを与えるしかないとキュウレンジャーに告げたときに笑いが溢れているシーンだ。もしそれが実行された場合、ナーガが無事でいられる保証はない。キュウレンジャーをバラバラにするために、そのような提案を平気でする上、楽しげに笑っている様に血の気が引く。「もしかしたら死んじゃうかもよ〜?」という発言から、間違いなく確信犯だと伺える。
イテキュータマの攻撃を受けダークナーガが満身創痍になったときも、彼女は笑っていたのだ。そしてすぐさま駆けつけて「大丈夫?」と心配するのではなく、連れ帰って手当てをすると言っていた。目的達成の前に倒れられたら困るからだろう。
アキャンバーは例えるならプリンのような存在だ。黄色い部分の甘さとカラメルのほろ苦さ、それぞれ単独でも美味しい。しかしその二つが合わさることで生まれるハーモニーは唯一無二の美味しさだと思う。

激しい痛みを与えれば元に戻るというのが嘘だと分かり、頼みの綱が消えてしまった今どうやってナーガを取り戻すのか想像がつかない。しかし、バランスの決して揺るがない大地のように硬い意志を見ると、きっとナーガを取り戻せるのではないかという気持ちが湧いてくる。彼らなら奇跡を起こせると信じている。

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