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【架空文通】三島さんのお手紙に対する返事(作話して、中に返事をまぜてみる)

三島さんへ

 お元気ですか。こちらは毎日が単調でして、何か面白いことないかな、できないかな、と悶々としています。そこで、今回は、ちょっと小話でも作って、中に返事を織り交ぜてみますね。

【日中】
 机に向かって手紙を書いていた。ふと、左横の窓から外を見ると、通りをはさんで斜め向かいのベランダに若い女性が現れた。彼女は空を見上げて、数分間そのままでいて、また中に入った。
 あの人は、今日が休みなんだろうな。
 ベランダのエアコンの室外機が朝から動いていたからだ。普段は、微動だにしない。それが分かるほど、私はいつもここに座って外を眺めている。
 私のエアコンからはかび臭い冷気が降りてくる。そろそろ、本格的にクリーニングをしないと健康に悪そうだ。
 手紙を書かないと。
 そうはいっても、書くことが無く、また窓の外を見る。ベランダの柵の向こうに彼女の横顔の上半分が見える。テレビでもみているのか、ときどき笑っているようだった。
 女性とはテレビが好きな生き物だ。基本的に静寂に耐えられないようだ。家に帰るとまずテレビをつけるという女性が多いし、ドライブでは運転するなり、「ねえ、音楽かけて」という女性が多かった。
 そうだ、窓から見えたことでも書くか。
 彼女はテレビを見るのをやめたようで、今度は、下を向いて何かをしている。ときどき、思案しているのか顔を上げる。手紙でも書いているようだ。

【夕方】
 日が暮れ始め、外より室内の方が明るくなるとますます彼女の様子が見て取れるようになった。日中よりも顔が曇っていた。明日が出勤日だからだろう。これも、いつも外を眺めているから分かる事だった。
 起業して二十五年たつが、会社に勤めて、決まった日、時間に出勤して帰ってくる人生を送れる人は幸いだと思う。その正常さを見るにつけ、異常な頭の持ち主は「よく、そんなつまらない人生を送っていられますね。」とケチをつける。しかし、どちらが幸福な人生を送っていることが多いか、を調べれば、軍配は前者に上がるだろう。起業とは、リスクだらけの中で生きることであり、スリルと生きている実感はあるが、安全ではない。ジャングルでテント暮らししているようなものだ。

【夜】
 夜になり、彼女がまたベランダに出てきた。こちらとは逆の方向を眺めている。そこからその方向だと海が見えるはずだった。空想しているようだった。エッセイストに向いているかも。根拠は空想している顔が向いていそうだったからだ。ただ、それだけだ。流行りのnoteに何かを書いてみることを勧めてみようか。そのことを手紙にして紙飛行機で投げ込もうか、それとも、ポストに匿名で投函しておこうか。いやいや、赤の他人だし、それよりも、目の前の手紙を書かないといけない。

 彼女がベランダを行ったり来たりしていて、現実と空想を行き来しているようだった。明日からの仕事が面白くないのかな。
 メガホンを持ち出して、言ってあげたくなった。「ストレスがたまる高給な仕事より、ストレスがたまらない薄給な仕事の方が幸福感が大きいぞ。」と。
 それと、気力のある若いうちにチャレンジをした方がいい、という事も。年を取ってから何かをするつもりだ、なんて言うのは、年を取ると気力がなくなって、何もする気が無くなってしまう事実を知らない若者が言う言葉だからだ。