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aikoサブスク解禁

駅からの帰り道、そういえばとApple Musicでaikoを聞く。サブスク解禁日だ。

赤紫のスケルトンのMD、ついでにスピッツを入れてた水色のスケルトンのMD、歌詞カード、地元のTSUTAYAのだだ広い駐輪場、カラオケで幼なじみの男子の右膝と当たったまま静止している私の左膝。

すべてがありふれていて、ほんとうにあったことなのかさえ怪しい、aikoに紐づく記憶。

今この瞬間のことって、いつ忘れてしまうんだろう。昔は毎日のようにそのことを考えていた。よし、今だ、と湯船に浸かりながら、脳を力ませて、この瞬間をいつ忘れるか観測しようとするのだけど、忘れるときって気づかないから、いつまで覚えてたか分かりようがないんだな、ってことに気づいたころにはもう20歳くらいだった。

今、今を覚えてなくちゃ、という瞬間ってたくさんあるのに、全部を覚えてられないんだから、人生はくそだ、まあだから最高なんだけどねっていつもは付け加えるけど、今日は言わないでおく。

「花火」を聞きながら、大通りを曲がって、住宅街に入ると、歌声がきわだって、脳にしみてくる。そういえば、イヤホンを初めてつけてみたときも、aikoを聞いていたような気がする。それまでのCD/MDプレーヤーとはちがう、脳で音楽がふるえる仕組みなんだ、とビックリしたのだった。

夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして
たしかに好きなんです 戻れないんです

戻れないんです、と聞いて、あ、と思う。今この瞬間のことって、いつまで覚えてるんだろう、と実験しようとした瞬間のうちのひとつを、急に思い出した。

九月の、旭川のスナックで、そのとき好きだった男と泥酔して、天井を見上げて、うたった歌だ。なんか酔っぱらってるから歌詞もおぼろげで、誰かが突っ切って画面見えなかったりして、でも「たしかに好きなんです 戻れないんです」だけ、やけに気持ちよくうたえて、鼻がツンとして泣きそうになった。戻れないんです、ってなんだよ。くそう。

あのとき好きな男は終始笑っていて、バンドマンだから歌うまいはずなんだけど全然へたくそだった。ちなみに私はもっとへたくそだった。次のサビのリピートで「こんなに好きなんです 仕方ないんです」とその人の目を見て言うと、彼はマイクをはずして、仕方ないな、と小さく言った。仕方ないな、ってなんだよ。くそくそ。

歌い終わってから立ち上がったら突然めっちゃ気持ち悪くなって、速攻トイレに入って吐いた。吐いたわ!!って彼に言ったら笑われた。心配しろ。帰り道、たぶんふつうに吐瀉物の匂いのする私にキスしてくれて、ほんと、なんだよ、って思ったし、今この瞬間のことって、いつ忘れてしまうんだろう、って思った。そんで案の定すっかり忘れてたけど、aikoのサブスク解禁日に思い出したよ。たしかに好きだったし、戻れないけどさ。もー。人生。

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