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「最高のセックスをした後は、誰も戦争を欲したりしない」

ゆうがた恋人とルミネの前で待ち合わせて私のワンピースを見に行った。インターネットで調査したときにはイエナのもりもりにふくらんだパフスリーブのやつが可愛いと思っていたのだけれど、実際みてみるとそうでもなかったし、ブルーが売り切れていたので、さっそくあてがなくなった。彼は他の地味なネイビーのやつを推してくれたけれど、「なんかもっとこう、気分が華やぐようなやつがいいの」と言った。「ふうん、似合うと思うけど」と腑に落ちない感じ。いや、服がほしいんじゃないんだよね。私は服を着るときの気分がほしいんだよね。

いろいろ見たけどあまりピンとくるものがなく、もう今日は買わなくていいかなという感じになってきて、最後にビームスだけ見てお茶しようね、とエスカレーターをくだった。オレンジの首がつまったワンピースが半額になっていて、とりあえずこれ買おうかな~と思っていたら、その近くのくすんだペールピンクのやつを彼がごり押ししてきたので試着した。「オレンジはたくさん持っているんだから、少し高くてもこっちの方がいいよ」だそう。私は実はそういうのあんまり意味がわかっていない。同じ色をずっと着ていて何か問題あるのか? 

とはいえ着てみたら良い感じだったし、店員さんも「肌の色とものすごく似合ってます」と何度も言ってくれたので、気を良くして購入することにした。今日は久しぶりに髪を巻いていたし下瞼までちゃんとメイクしていたので、試着室の鏡にうつった自分を見るのはうれしかった。

ビル内のカフェは混んでいたので外に出ることにした。今月開催されるはずだった東京オリンピックを鑑みて、多くの公園が綺麗に生まれ変わり、そのへんにたくさんいたホームレスはどこにもいなくなった。いつも缶をひろったり仲間と将棋をさしていた爺さんたちは無事にやっているだろうか、と通りがかるたびに思う。いちおうインターネットで調べると、この駅前の公園で暮らしていた方は全員自分名義のアパートにうつることができた、と書いてある。それならいいのかな。彼はホームレスにも好かれていて、いつも挨拶をしあっていたので少し寂しそうにしている。

新しくできたカフェでジュースをテイクアウトして、公園のベンチで飲む。私のフルーツソーダはおいしかったが、彼の抹茶ミルクは微妙だったらしい。「もっとめちゃくちゃに甘いのが良かったのに!」と言うので「そんなに甘いの好きだったっけ?」と聞くと「いや、好きではない。甘い!!甘すぎる!!!!と思いながら飲むのが好き」と言っていた。意味がわからないが、私の服に対する態度と同様、気持ちに金を払うということだろう。

お気に入りのレストランに寄ってテイクアウト可のお惣菜を買い、彼の仕事用のマンションで食べる。おいしすぎて、「おいしい」「うん、おいしい」だけで会話が成り立つ。途中からは「我々は神に愛されている。みんなにも神のご加護があってほしい」「世界が平和になりますように……」と壮大な感じになった。村上龍が『すべての男は消耗品である』で言い放った「最高のセックスをした後は、誰も戦争を欲したりしない」というのを思い出す。最高のごはんを食べた後は、誰も戦争を欲したりしない。(たぶん)

久しぶりに買い物に出かけたから疲れてものすごく眠たかったし、彼も眠たそうだったけれど、お互いしたかったのでセックスをすることになった。彼は物理刺激よりも精神的興奮が優位のようで、私がどんなに一生懸命フェラチオをしようがイく気配はないのだけれど、私が気持ちよさそうにしているのを見るとほとんどノーハンドで射精したりする。そういう人とのほうが相乗効果で楽しい情事になるような気がする。

何度やっても発展途上という感じで、恥じらいなくいろいろと試すことができて楽しい。ワンナイトもいいよねとか、野外も楽しいよねとかよく書いてるけど、私は基本的には継続的な関係の人とベッドでするのが好きだ。だからこそ他のセックスの良さも比較して語れるのだけれど。事後、恋人の股間に重たそうにぶらさがったコンドームが愛おしくて何度もさわる。彼の背中にくっついた髪の毛をとる。これ集めて人形をつくろうかな、と言ったらマジで引かれて没収されてしまった。

「よーし、おいしいものも食べたし、セックスもしたし、明日からがんばる!何かしたい!」と彼が意気込んでいる。マジかよ。まったくもって信じられない。くちのなかのローストビーフが一生なくならなければよかったし、彼と私の性器が一生離れなければよかった。明日から本当に何もしたくない。

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