連載小説「ぬくもりの朝、やさしい夜」5

投稿5 佳奈ー朝

朝5時、アラームが鳴る数秒前に起きられた。

4月に入ってから急に暖かくなったように思う。
小花柄の羽毛布団がベッドから落ちていた。
立ち上がり、布団を元に戻してついでに少し整える。
カーテンを開ける。2階のこの部屋から見える景色は小さな庭園だ。

凛さんはこのお屋敷をいつも美しく保っている。
でも大きなお屋敷は凛さんだけでは手に負えないため、
庭師さんやお手伝いさんの力も借りている。
昨日は庭師さんが来ていた。
今朝、窓から見える庭園はすっきりと整えられていた。
こころまで整えられるようだ。

私は3年前から凛さんの家に住み込みで働いている。
凛さんの家は大きなお屋敷である。
先祖代々続くこの屋敷は昔は病院だったそうだ。
凛さんのお父様、お祖父様は内科医だ。
しかし訳あって、今はこのお屋敷は病院ではない。

「文化教室」という名のもとで、毎週決まった曜日に講師がやってきて
楽器や絵画、お裁縫やフラワーアレジメントまで様々な教室が開かれている。
生徒は子どもから大人まで幅広い。

また文化教室とは別に放課後の託児所もお屋敷内に併設している。
近所の小学生から高校生まで、放課後このお屋敷にやってきて
親御さんの帰りを待つ。規模はごく小さいため子どもたちも少ない。
今年の春、卒業した子と入れ替わるように入ってきた新一年生を含め、
今年の生徒数は9名になった。

私の仕事は主にその託児所での子どもたちのお世話だ。
私の他にもうひとり、八木卓也というスタッフがいて、
毎日2人で託児所を担当している。
卓也は私のひとつ下になる。子どもの扱いがうまく勉強も得意だから
子どもたちからは「卓也兄ちゃん」と慕われている。
私はというと、慕われているかは分からない。
託児所で働き始めてもうすぐ3年になるけれど、まだその部分に自信がない。

「ここにいていいのかな」

私は視線を庭園から枕元のテディベアに向け、そっと呟いた。

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