雨木しずく

気ままに回りくどい文を書きます。 書くだけじゃなくて読みもします。 お酒と美味しいもの…

雨木しずく

気ままに回りくどい文を書きます。 書くだけじゃなくて読みもします。 お酒と美味しいものが好きです。

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だから、今はここから動かない。《2000字のドラマ》

 みなみは、綺麗な子だ。人混みの中でもすっと目を引くような美しさ。染めなくても栗色の髪。色白の肌。アーモンド型の、意志の強そうな瞳。背筋をぴっと伸ばして、颯爽と歩く。  見た目だけが素敵な訳じゃない。頭も要領も良くて、友人が多くて、人望もある。魅力的な子。  何故わたしが、友達である彼女のことを語る時に、視点を引いてしまうかといえば、彼女があまりにも主人公で、わたしが背景のようなものだからだ。  出会いは高校の頃。同じクラスになった目立たないわたしのことを、彼女は何故か

    • SNS上でも人見知り

      みなさんは、SNSを利用していますか。 今これを読んでいる以上、「している」という方でしょうから、まあ愚問なのですが。 わたしは知人、友人に勧められてTwitterや LINE等のアカウントは持っています。ただ、Twitterはほぼ公式アカウントのチェック用ですし、LINEはすすんで友達を増やさないばかりか、ほとんどやりとりをしない人は非表示にしてしまう有様です。 また、大昔にいわゆるチャットルームを使用していたこともあります。当時は高校生だったのですが、何故か同性に粘着

      • 朝ごはんのこと

        美味しいものが好き。 特に、美味しい朝ごはんをゆっくりつくって、ゆっくり味わえる朝が好き。 白いご飯、油揚げのお味噌、ネギ味噌、きゅうりの唐辛子漬け、海苔、卵焼き。 少し手を抜くと、どんぶりご飯に海苔、しらす干し、温泉卵をのせて、胡麻と胡麻油と醤油をたらしたやつ。スープが付いたら最高。 コンソメスープにキノコを入れて、お米にたっぷり吸わせたリゾット。チーズと黒胡椒もたっぷりかける。 とろとろのベシャメルソースと香ばしいチーズのパングラタン。ベシャメルソースなら、クロッ

        • 祖母が携帯会社に騙されてお金を取られていたのを取り返しに行った話②

          【前回のあらすじ】 コロナ禍で会えなかったおばあちゃんが、docomoショップで騙されてたよ! 〜つづき〜  問い合わせの電話では、加入サービスに疑問があることと、明らかにいらないSDカードを買わされていることを告げた。まともな感覚をもっているならば、その時点で身構えてくれると考えたからだ。これで納得いく説明をしてくれよという意地の悪さ半分、言い分(ぶん)の準備ができるようにという優しさ半分。 「電話だと分からないので、お手数ですが来店してください。」と言われたため、こ

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        だから、今はここから動かない。《2000字のドラマ》

          祖母が携帯会社に騙されてお金を取られていたのを取り返しに行った話①

           話が長くなるので、一番最初に概要を書いておく。これはうちの田舎で独居の祖母が携帯会社に騙されていたので文句をつけにいったら、約25,000円の返金と不必要なサービスの解約、という次第となった話である。人によっては大した金額ではないと感じるかもしれないが、年金暮らしの祖母にとっては大きな金額であるし、不必要なサービスについては、止めなければ毎月1,600円程請求され続けていたこととなる。年間19,200円の計算だから、わたしの感覚からすれば小さくはない。  身内に高齢者のい

          祖母が携帯会社に騙されてお金を取られていたのを取り返しに行った話①

          東京生まれ、東京育ち。だけど『東京』が分からない。

          東京、と一口に言っても、いろいろとあると思う。 東京と聞くだけで都会、なんて思う人もいるらしいが、東京都という狭い括りの中で、西の方はかなり山だし、中央あたりもあまり都会という感じではない。住宅地、ちょっと不便、なんて場所もたくさんある。東の方のほんの一部がイメージされる「都会」であって、東の端の方はといえば、今度は別の県の色味が出てくる。 わたしはと言えば、23区の西の方で生まれ育ったので、あんまり「都会」を意識してこなかった。中央線万歳人間なので、山手線への乗り換えす

          東京生まれ、東京育ち。だけど『東京』が分からない。

          思い出と変遷 夏の色 6(終)

           家に帰り着いて、わたしと楓は縁側で飲み直すことにする。祖母は先にお風呂を溜めて入るという。わたしは、さっさと着替えてしまうのがなんとなく惜しかったのだが、楓の方はどうだろう。 「・・・・・うひゃっ!」 ぼんやりと縁側で座っていれば頬に冷たいものを当てられる。何かと思えば、先程買ったアイスキャンデだった。 「やめてよ!びっくりした。」 「いや、なんかぼーっとしてたから。」 笑いながら言う楓を睨みつけるが、全く気にしていない様子に、楓の弱点である脇腹を小突く。 「ち

          思い出と変遷 夏の色 6(終)

          思い出と変遷 夏の色 5

           わたしはといえば、楓が去ったあとに、顔を洗ってメイクして髪を簡単に結い上げた。着付けは昔、祖母に教えてもらったので、自分でできる。浴衣を取りに行くと、すでに着替え終わった楓が浴衣姿で寛いでいた。背中を見て、祖父とはまた違うなと感じる。 「おばあちゃんに着せてもらったの?」 「ううん。」 「着方知ってたんだ。」 「ううん、調べた。」  敢えて何もなかったように声を掛けると、楓も特に蒸し返すようなことはせず応じてくれた。スマホで調べただけで、初めてでも自分で着付けでき

          思い出と変遷 夏の色 5

          思い出と変遷 夏の色 4

           目を覚まして時計を見ると、一時間と少し経っていた。短い眠りだったはずなのに、やけにすっきりしている。思えば、こんなに深く眠ったもの久しぶりだったかもしれない。このところ忙しさにかまけて、睡眠を疎かにしてきた自覚はある。  ぼんやりする意識は徐々に覚醒していく。ふと、隣を見ると、楓はまだ眠っていた。幼く見える寝顔に笑みが溢れるが、とは言え記憶の中の寝顔よりも余程成長している。大きくなったなあ、なんて、どこからの視点なのか分からないことを思いながら、楓を起こしてしまわぬように

          思い出と変遷 夏の色 4

          思い出の変遷 夏の色 3

          「かおるちゃん、見て見て。」 「なにそれ?」 「ちょっと出してみたんだけど、着られないかしら。」  祖母が開いた箱から出てきたのは、渋い濃紺の男物の浴衣だった。どことなく見覚えがある。 「これねえ、あの人の浴衣なの。」 「あ、だから見覚えあるんだ!」 「あの人、とても大きかったけど、かえでちゃんなら、ちょうどいいんじゃないかしらって。」 「たしかに!」  さっき、なんとなく祖父と楓とを重ねてみてしまったが、祖母も同じだったのかも知れない。嬉しそうな様子の祖母に

          思い出の変遷 夏の色 3

          思い出と変遷 夏の色 2

          「っあーー、終わった!」 「おつかれさま。」 「お互いにね!」  十二時を少し過ぎた頃、ようやく作業が終わった。長身の楓には草むしりだけではなく、庭木の剪定も頼んでしまった。伸びすぎたところを高枝ばさみで切ってもらうだけだが、身長がないと意外にきついので、楓がいて助かった。抜いた雑草や切った枝葉をゴミ袋にまとめてから、汗を拭きつつ屋内に入れば、ふわりと漂うのはかすかな酢のにおい。 「二人とも、おつかれさま。お昼にしましょうね。」 「やった!おばあちゃんのいなり寿司だ

          思い出と変遷 夏の色 2

          思い出と変遷 夏の色 1

          ジジジジジジッ、ジジジジジジジッ・・・・・  汗を拭うために顔を上げると、響くアブラゼミの鳴き声に気付かされた。熱さにゆだった頭が更に掻き乱される。これがせめてミンミンゼミだったらなあ、なんて思いつつ、元来それほど繊細でもないわたしは、意識せずとも作業に没頭すれば、頭の中からその音はすぐに排除されてしまった。  炎天下、真っ青な空と容赦なく照りつける日光のもと、齢四半世紀となんなんとするいい歳した女が何をやっているかと言えば、それは、一人暮らしの祖母宅における草むしりであ

          思い出と変遷 夏の色 1