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ハロルドとモードを観劇して


10月6日、EX THEATER ROPPONGIにて、黒柳徹子さん主演「ハロルドとモード」という朗読劇を観劇いたしました。
今回は、その観劇前後の話と、感じた事などをまとめるため、この文章を書き始めました。
現場レポというよりも雑文に近いため、詳細なレポを求めてこの文章に辿り着いた方のご期待には添えないかと思います。予めご了承下さい。

この朗読劇を知ったきっかけは、Snow Manの向井康二くんがハロルド役で出演する事が、6月21日、彼の誕生日に発表されたからです。


公式HPより、舞台概要はこちら。

【1971年にアメリカで公開された映画『ハロルドとモード』を舞台化した本作は、ブラックユーモアを随所に散りばめながら、年齢差のあるちょっと変わった二人のラブストーリーと生きることの楽しさをコメディータッチに描いた作品です。

主役の79歳のチャーミングな女性モードを演じるのは、黒柳徹子。1977年の来日公演を観劇して以来、出演を熱望していた黒柳は、2020年の公演で長年の夢を実現させました。以降、黒柳にとってライフワーク公演として上演を続けており、今年で4年目の上演となります。

また、黒柳が演じるモードに恋する19歳の少年ハロルド役は、Snow Man向井康二がフレッシュさたっぷりに演じます。2020年公演の生田斗真、2021年公演のジャニーズWEST藤井流星、2022年公演のSexy Zone佐藤勝利からバトンを受け継ぎ、新たなハロルドを作り上げます。

さらに、桜井日奈子、片桐仁、渡辺いっけい、戸田恵子といった豪華キャストが顔を揃え、二人の生き様と恋模様を脇で支えます。

脚本・演出は、これまで数多くの舞台作品の脚本・翻訳・演出を手掛けてきたG2。2020年公演時に新たに朗読劇として脚本を書き下ろし、舞台セット、衣裳、照明、ピアノの生演奏など意匠を凝らした作品を作り上げます。】

公式HPより引用 https://haroldandmaude.jp


発表された日のトレンドには、「ハロルドとモード」の他に、関連ワードとして「狂言自殺」という不穏なワードが並んだ事を覚えています。
それについて知るにはまず原作を、と書籍を検索すると、既に売り切れている所も。
入手に些か時間を要しました。
流石、ファンさんは考える事が一緒!

読み進めていくと、ハロルドは何度も何度もショッキングな方法で狂言自殺を繰り返すではありませんか。
しかも、誰もハロルドの話を聞いてあげもしない。救いようがない。
初めから、「ハロルド=向井康二くん」という図式で読み進めていた私は、途中からこの状況を簡単には受け入れられず、読み進めることができなくなってしまいました。
どんな風にストーリーが開けていくのかを知らずに、観劇当日を迎えました(本末転倒すぎる)…。

10月6日午後、秋というには少々暑い、強い日差しが照りつける六本木に着きました。
可愛らしい徹子さんのぬいぐるみと、康二くんのチルぬいを持ってきているファンさんを、沢山お見かけしました。
この日の私はというと、完全に緊張しきっておりました…。
足下がおぼつかず、階段ですっ転げそうになり、近くにいらしたファンさんに「大丈夫ですか!?」と心配されたり、入場口前でひまわりモチーフのイヤリングを落とし、「これ、落としましたよ。きっとこれ大事ですよね。」と、優しく声をかけて頂いたり、とにかくヨボヨボでした。
声をおかけ頂いたお二方、どこかしらにオレンジ色の差し色が入ったものをお持ちだったので、康二くんのファンさんかな、と思います。
とても優しいファンさん達で、泣きそうになりました。

開演前にほろりとしたところで、いよいよ開演。

幕が開いたと同時に、徹子さんのあまりの神々しさに眩しさいっぱいになりました。
そして、そのレジェンドの隣に立つ、スタイル抜群の抜きん出て背が高い康二くん。
伴奏のピアノのクレッシェンドと共にお辞儀するキャストの方々に、拍手が贈られました。

唐突に始まる、カウンセリング。
そこで、初めてハロルドの声を聴いた訳ですが…。
抑揚のない、覇気のない、角も芯も全くない、おおよそ向井康二という人から程遠い、聞いたことのない小さな声、だけど劇場にはしっかりと届く声。
芯がはっきりとしていて、輪郭がやや大きめの声をしている康二くんにとっては、めちゃくちゃ難しい発声、発音をしているのでは…というのが、最初の感想です。
そこから、舞台への没入感が深まると、「これは誰だ?」という混乱も。
確かに目の前にいるのは康二くんなのだけど、19歳のハロルドがそこにいました。
本人は可愛い感じになるんじゃないかな、と雑誌で言っていたけど、可愛いというよりはほっておけず庇護欲を駆り立てるタイプのハロルド。
誰か、このハロルドの話を聞いてあげて欲しいな、と思う、そんな感じ。
透明で消えてなくなりそうな、儚い少年でした。

モード役の徹子さんは、モードそのものでした。
小説を読んでいる時からこの破天荒な女性の声は徹子さんでした。
とってもキュートで、どこか悲しみを含んでて、でも明るくて。
声の重みは人生の重みかな、と。

モードに出会う教会のシーン、お葬式なのだけどモードの破天荒さに呆気に取られるところ、そこで初めて感情らしい感情が出てきて。
ちょっと面倒、関わり合いたくないけど邪険にもしない、原作のハロルドがそこにいて、「うわぁ…!」と感激!
そこで印象的なシーンの一つは、運転のシーン。
大好き。
危ない運転に振り回されるハロルドの慌てっぷりが可愛らし過ぎて。時々、声を張ると「あ、ハロルドは康二くんだった…」と、入り込み過ぎるのをふと和らげてくれて。
ただ、リアクションが少々大きめなのは、向井節だろうか?と思ったり。笑
とにかく、ふと笑わせてくれるのが、演出の妙というか、上手いなぁ…と思う場所でした。

ハロルドママの戸田恵子さんは、素晴らし過ぎて、演技をこんなに間近で観られて嬉しかったです。声も、間合いも、雰囲気も。
原作のママそのもののキャラで舞台に現れて、身震いしました。
ママのテーマソングがとてもキュートでポップで、その曲が鳴るとちょっとホッとしたり笑いが起きたりしていました。

そして、桜井さんとの掛け合いはとてもコミカルで、愛すべき結婚相手だな、と思いました。
切腹の偽装自殺をやってみせる部分では、いきなり上着を脱ぎ「日本式ではこう!」とテーブル壇場に上がり正座し、明らかに官兵衛様の声で末期の叫びを響かせます。
口調もプチ官兵衛様で、脳内パニック。
それを見た女優の結婚相手がロミオの演技(茶番)をし始めます。
さぁ、声出しから。
女優「Moーーーーーーーー!!!」
ハロルド「え、、も…?(動揺)」

(会場、笑い)

みたいな部分がとてもコミカルでした。
素晴らしい掛け合い。
そして、ナイフが本物ではないことを確かめるシーンも喜劇らしいやり方でした。

モードと逢瀬を重ねるごとに、次第にハロルドは本気で笑ったり、本気で困ったり、本気で泣いたりします。
その過程がとても丁寧で、引き込まれました。

モードの家にある「身を守る傘」の話で、モードは活動家であった事が語られます。
昔々、「何のために戦ったんですか?」とハロルドは聞き、日本語訳原作ではモードが「自由、権利、正義」と言うのですが、朗読劇では三つのうち一つだけ違うワードになってて。

記憶が正しければ、モードが言った言葉は

自由、【人権】、正義

だったと思います。

変更になったのかは分かりません。
ただ、人権というワードの前、ほんの少し含むような間があったのは、恐らく間違いありません。
凄く刺さったセリフでした。

今、この演目をSnow Manの康二くんがやるという事。
刺さるセリフが、沢山あっただろうと思う。
自分自身になるという事。生きるという事。
「だったら、僕はまだ生きてない」というハロルドの回答は、今また新しい第一歩を踏み出そうとしている彼らの運命と重なります。

そんな中で、ほんわかするのはやはりママとのシーン。コミカルなピアノと共に。
ママとのやりとりで好きなのは、「僕、結婚する!この人と!」と写真をママに見せ、「ふざけないでちょうだい、これはひまわりじゃないの」とママが言い、「あっ、間違った…💦」と可愛くそれを取り戻すハロルド。
あれはとても良かったです。

あのシーンだけで、ハロルドがモードに向ける愛が見える。
母親に想いらしい想いや考えをこんな風にぶつけるのは、これが初めて事。
愛に生きているのが伝わってきました。
モードは、ハロルドをここまで激変させるんだな、と思いました。

ラストの前段階、病院に付き添い待合にいるハロルドとその時間経過を淡々と語るシーン、ピアノは秒針のような表現をします。
それはモードの鼓動なのか、それともハロルドの生きている鼓動なのか、聴こえた通り時間の表現なのか。観客が誰に感情移入しているか、その没入感によって聴こえ方が変わるだろうと思います。

時間経過を丁寧に告げられる中、その中で受け入れられない表情から、諦め、閉じていってしまう表情まで表現し切るハロルドは、見ていてどうしようもなく「抱きしめたくなる」。
佐久間くんが終演後抱きしめたのは、ここからラストまでのシーンが理由であろうと思います。

ハロルドとモードの原作に添えられた解説を読むと、モードの腕にある識別番号から何故このような生き方になったのかのヒントがあります。
モードは、命懸けで戦ったことのある人。
そして、全てを失い、ゼロから今を築き上げた人。
それこそ、自由、人権、正義のために。
トットちゃん続篇記者会見で、「戦争は嫌だ。」とお話しされた徹子さん、モードに対する想いはどれほど深いのだろう、と想像するだけで涙が出てしまいます。
今のこのタイミングでハロルドとモードが上演される意味が、とても重いと感じます。
徹子さんのモードは、ユーモア溢れる魅力的な女性。
でも、そこに至るまでを何があったかを想像させられる。
心にグッと迫ってくるものがありました。

そんな、レジェンドと隣り合わせで演技をするってどれくらいのプレッシャーなんだろうか。
康二くんの持つピュアさ、真っ白さ、たった19年の歴史しか持たない辿々しさが、2023年版ハロルドの良さなのかな、と思いました。

ラストシーン、ハロルドとモードの歌を、目を閉じたモードの隣で、泣きながらハロルドは歌う。俳優陣全員がコーラスに入る。
2人だけの歌に、誰かの声が入る。
それはハロルドの未来にも通じ、モードの「他の誰かを愛して」という願いにも、通じるのかもしれません。

幕が閉まる前に、ゆっくりとハロルドとモードが目を合わせるところで終わります。
そこで、涙が止まらなくなってしまいました。
観客は、きっとこの物語で、何かを感じて、何かを考えたと思います。
これからも、この時感じた事を大切にしたいと思いました。

素敵な朗読劇でした。
また観たい、と切に願うくらいとても素敵だった。
康二くんの「またやりたい」が叶いますように。

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