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【海と山の境目】 第6話 壊れた氷

隆志は、顔に大きな傷跡を負う前、数人の同級生たちから、ひどいイジメを受けていた。ただただ、そのイジメに対する恐怖と、誰にも打ち明けられない苦しみを抱えながら、毎日学校へ通うという、地獄のような日々が続いていた。やはり、当時から、その場を穏便に切り抜けることばかりを考え、立ち向かうことを避けていた。

灼熱の玉を受け取れなかった自分を憎むことなく、そんなカタマリを投げつけた相手に怒りたかった。でも、その場を乗り切るために、相手を怒らせないために必要なことは、燃え盛る火の玉の影を正確に受け止めるために、氷より冷たいニンゲンになる潔さだった。殴られようが蹴られようが、叫ばない。怒鳴られたら、ほほ笑む。

粉々になった心を嘆かないで、ひたすら集めてくっつければ、光側面は、必ず増えている。必ず、いくつもカットされたダイヤモンドのように、自分の思考は一回り大きくなって、美しい状態となって返ってくる。顔の傷跡も同じ。そう考えること以外、自分を納得させる術を知ることはできなかった。そして、奇跡的に雨音と出会うことができたことも、そのイジメが、彼女との時の流れを一致させたプラスの要因であると考えられるようになっていた。

追い風の快感。大地に溶けていく雨の音。輝く砂と、光る波との触れ合い。重なり合うリズム。白波は、濡れた砂と共に、再び海へと吸い込まれてゆく。眺めが良くて晴れやかになる景色は、好きなだけ眺めておけばいい。遠慮することはない。晴天の自然が織りなす風の音に感動し、涙を流して砂漠をうるおす鏡をつくる。顔の火傷は、凍っていた。光水の流れが必要だったことに、「あの時」、気付く。

小鳥の取りのさえずりを聞きながら、眠りに落ちる。またいだ夜の贅沢さを感じながら。

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