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【海と山の境目】 第1話 あること

暗くて少しせまい空間で寝そべりながら、隆志は目を回しながら呟いた。

「誰かもそんなこと言ってたな。」

大都市の摩天楼まてんろうに灯された光は、縛られた身体を強引に振りほどこうとする自分の動きで周っていることに気付く。流れる星の光波(ひかり)は、摩天楼のそれとは違うことが、彼にはハッキリと理解できた。目を閉じても眩しかった。

人工の光など、自然が創り上げる光に比べれば、何と醜い輝きなのだろう。「あの時」、あの浜辺で、彼の脳の中枢から理性が飛び、燃えさかる本能が溢れ出たとき、現代の不自由さを真に理解する能力を得たのだった。

身体は左右にゆさぶられつつ、何かの反作用で喰止まり、自分の肉体がそこにあることを実感し、酷くそれを憎らしく感じていた。

そして、彼は気づくことになる。自分は、両手を手錠で固定されたまま、警察官の顔に脚を投げ出した状態で、護送車の中で絶叫していたことを。そして、悟った。今は確実に終わるけど、「あの時」は、絶対に終わらないということを。

そこに居ながら、「あの時」を経た隆志は、もうそこには存在していなかった。触れ合い、抱きしめ合い、射精をした後の彼は、これからも継続して、雨音(あまね)の存在を頼りにできるのかということを、ひどく不安に感じていた。

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