【小説】十話 おっさんえんでんべぇで再生か?

10.川瀬祭

 駅前の店の準備が終わり、古民家へ行ってから七海は大夢と話が合い、一気に意気投合した。お互い気さくなのもあて、昔からの友達かというほどに仲良くなっていた。
 七海と大夢は根が真面目というのもあり、祭の準備もそこそこに青年団や秩父の現状を話し出すと深刻な顔してうーん、うーんと困ったように二人で唸りだし、そうと思えば今後はこうするのはどうかと意見交換し始める、まるで子供みたいに目を光らせ話が盛り上がる。
 二人はどちらかといえば笑わないと強面な顔つきでしかも猫背である、一人はアフロヘア、一人はタオルを頭に巻いて二人は顔を突き合わせて腕を組んでいるのだ、側から見れば大のおっさん二人が何してんのかと奇妙に光景に映る。
 目が爛々と輝いているかなんて近くに行かなければ分からないし、あーだこーだと控えめな声で基本は喋って何の会話をしているか聞き取れない訳で、ごくたまに大きな声を出しては頭を抱え周りを少々驚かせているのである。それをずっと二人は真剣そのものでやってるのだから、そう思われても仕方がない。
 ついには二人はシンクロでもし始めたのか、七海が右に身体を捻れば大夢も左に身体を捻り、仰反ると仰反ると動きが一緒になってきて、写し鏡みたいである。こうなってしまうと、話は一向に尽きず終わらない。
 琉偉は空気を読んで特に何も言わず終始ニコニコ顔を崩さず、七香は二人を横目に、特に七海を睨んでは仕事しろと内心悪態付いていた。
 ただ、結局の所親子である、真面目気質で器用な七香は、七海が動かなくても特段作業するには困ってはいなかった。
 それもそのはず、いつでもニコニコと元気に笑う喜陽が、的確にテキパキと優しく指示していたから困ることは全くなかったのだ。
 大夢が惚気て、できた嫁、と度々いうのだが、まさにそれである。だから、七香と琉偉は役に立たない二人を尻目に、優秀が故にというべきなのか、その二人分は働いた。
 夜になる頃には筒がなく終わり、準備万端で川瀬祭当日を迎えた。

 古民家の方は喜陽と七香と琉偉で切り盛りすることになり、駅前の店の方は七海と大夢の二人だけだ。
 初めてここの店に訪れた時は堂々としていた大夢だが、落ち着かない様子で店の奥でうろうろしている。
 
 「やー、ソワソワするだんべぇ。俺、いつもは町会の手伝いで川瀬祭に参加してたから、こ〜う、店でお客さん迎えるのをただ待つって、始めてだんべ?いつもと勝手が違うから〜、ワクワクするけど、ちょっと緊張するべ」

 いつものアフロではなく、祭仕様といって七色の蛍みたいに淡くだが光続けるアフロを大夢は被っていた。
 川瀬祭は子供の祭とも呼ばれていて、子供に怖がられないようにと喜陽が助言したらしく、髭のないスッキリとした顔にはなったが実際緊張しているのか、普段の腑抜けた笑顔はそこになく、どこぞのスナイパーみたいな顔で眉間に皺が少し寄っている。さらにだ、頭が七色に昼間だから鈍く輝いて目立ってるのかいないのかで、気づくと不気味で逆に変な圧力があって怖い。アフロが思いの外派手なのでピエロのメイクをしたらどうかという意見もあったらしいが、この調子だとホラーだったなと七海は思ったが言わずにおいた。

 「そんな緊張しなくても、いつも店で接客やってるだろ?」

 「それはそうかもだけどよ〜、祭が盛んな秩父神社からもちょっと離れた場所だんべ?気づかれないかもしんねーし...だから、全く来なかったらどうしようとか、思うべよ!」

 「でも、秩父駅でも祭の催しはするだろう?それに、サイトでもSNSでも宣伝したし、広告のチラシやポスターも駅や道の駅や色々な所に置かせてもらったから、全く来ないこともないだろ?それに、青年団の仲間とか、その子供とかも仲がいいんだろ?そういうのが、顔出しに来るんじゃないのか?」

 「まー、まー、そうかもしんねえっけど、初めてだから、もしかしたらって不安だんべよ〜。しかも、オープン初日なんだべよ?喜陽ちゃんの方もやってるから、こうアチいとあっちにいく可能性もあるべぇ?川瀬祭で親が休みの所も多いからなぁ〜。それにさぁ〜、あっちでも縁日っぽいのを設置したから〜、親が車出せればみんなで涼しい方へっていうのはありえるだんべよ。実際、青年団の家族はあっちの利用多いんしなぁ〜」

 大夢がそう言った通り、今年はやけに暑いというのもあってか、午前中からまだ日が高い二時頃までは人っ子一人客は来なかった。

 「マジか!」

 七海は頭を抱えて、思いの丈を地面についつい大声で叫んでしまう。駅前での催しで秩父囃子の演奏と客のざわめきが遠く聞こえたような気がしたのだが、経験上あれだけ宣伝して来ないのもおかしいと余裕な態度であった七海も少し顰めっ面で唸るしかなかった。
 この店が駅から少し離れた小道を少し入った場所にあるから知らない場合は確かに見落とすのかもしれないのかと、仁王立ちで腕を組み眉間に皺を寄せ口をアヒルのように尖らせ、納得いかないながらも思い始めてきた矢先だった。

 「すみませーん...やってますか?」

 お店の出入口の引戸が開いて、一人の若く少し汗をかいてはいるが青い海のプリントTシャツと青の短パンのせいか涼しげに見え、黒々した髪を七三分けした学生のような青年がその引戸からひょっこり顔を出した。
 準備を手伝ってる時に青年団の仲間という面々には数人会っていたが、その顔ぶれとは違う。その面々は川瀬祭の実行委員を任されていて、祭の行事で手が離せないだろうからこんな真っ昼間から来るのは難しいかとふと思い直す。

 「はぁ〜い!!いらっしゃいませぇ〜!!」

 ずっと落ち着くなくウロウロしていた大夢は直ぐに全開に笑顔になって、両手を胸の前で上下に重ねてごますりするように小刻みに擦りながら客の前に立つ。七海とは違い言うより早く、身のこなしが早い。

 「あ...え...と...」

 満面の笑みだが、鈍く七色に光ってるアフロ、昔プロボクサーだったこともあり大きながっしりとしたガタイが、背を丸め御用聞みたいに立ちはだかったのだ、慣れない人には少々不気味で怖かろう。
 
 「あー...チラシ、見て来てくれたんですね?」

 二人を少し観察したのち青年の方がチラシを持っているのが目に止まり、すかさず小走りで大夢の横に並んで微笑みながら声を掛けた。

 「あ!はい!このチラシ可愛くて...あ、いやその」

 「そーだんべよ。オレと奥さんの友達が、協力して描いてくれたんだべ〜。へんちくりんな性格だから〜、普通はそうそう簡単に描いてくんねぇのに、地元のよしみで描いてくれんだべぇ〜」

 「あ!そうなんでね!え!地元...もしかして、雨月先生ですか?」

 「お!君、よく知ってんベェ!そうなんだべよぉ〜」

 「うわぁ〜...そうなんだ。先生の小説が特に好きで、先生が行く秩父の先々へ聖地巡礼に来てるんです。わぁ〜...チラシ持って帰ろうっと」

 丸眼鏡をしたひょろっと痩せ気味で少し背が小さい気の弱そうな青年なのだがオドオドした様子もなく堂々と言葉にし、堂々と目の前でチラシを大事そうに見つめてから背負っていた黒のリュックサックの中へと大事そうに閉まった。

 「いんや〜、嬉しいっべぇ〜。ささ、あちーいから早く中入った、入ったぁ〜」

 「あ、はい、お邪魔します」

 礼儀の正しい青年で、頭をぺこぺこ小さく下げながら中へと入って来た。
 終始、だらしなく嬉しそうに緩んだ笑みで大夢は、嬉しいべぇと何度も繰り返しながらカウンターの席へ通す。

 「さてぇ〜、何にすんべぇ?」

 大夢はキッチンの方へ入りカウンターの方へ顔をひょっこり出す。アフロが先に出て来たので、一瞬七色毛玉が喋っているように見えた。

 「あっ...えっと、あの...チラシのかき氷を頂けますか?」

 急に目の前にドアップでアフロが出て来たので、青年は少々驚きつつ少し戸惑って口を小さくパクパクするも、先に決めていたようできちんとそこは迷わずはっきりと注文した。

 「目玉商品だんベェ!!流石、だべなぁ〜。味はどうすんべ?」

 「宇治金時のお汁粉太白芋添えで、お願いします」

 「さっすがぁ〜、いいチョイスだんベェ〜」

 二人はそこで何か通じるものがあり意気投合したのか、はたまた大夢の勢いに飲まれたのか、同じに拳を握ってグッと親指を立ててニコニコしている。

 「じゃ〜、ちょっと待っててなぁ〜」

 「あ、はい」

 キッチンの奥へと消えていった大夢の背中を見送りながら、青年は座ったまま小さくぺこりと頭を下げた。

 ここまでくれば、気づいていると思う。
 当初の計画のメニューと、ラインナップが全部変更になったのである。

 昨日のこと、七海と大夢がわんやわんやと面と向かって話し合ってる時である、七海はふと今年の夏がやけに暑いと感じたのである。暑いとキンキンに冷えたビールが飲みたくなるなぁと思い浮かべながら、大夢の顔を見た。

 こう近いと、暑苦しいなと。特にアフロ。

 そこからずっとひっきりなしに喋っていた七海は、ぱたっと黙り込んだ。

 アフロ、アフロ...わたあめ...わたあめ?

 「わたあめ!!」

 「黙ったかと思えば、どうしたんだべ?わたあめ?」

 「大夢の頭だよ!!」

 「はぁい?」

 大夢はじっと七海が喋り出すのを待っていたが、急に変ことを口走るので暑さで頭でもイカれたかなと怪訝そうな顔をして首を傾げる。
 ただ冷房完備はしっかりしているので、部屋が暑いというはずもないのである。
 
 「違う、違う...すまん。わたあめってさ、祭でよく売ってるし、なんか子供めっちゃ好きじゃんな!」

 腕を組んでいた片手をひょっこり出してブンブン横に振った七海は苦笑して謝った後、ニヤっと悪巧みしてるように笑う。

 「あーまぁ...そうかもしんねぇべなぁ...それがどうかしたんだべ?か」

 「そうなんだよ」

 「そうなんだよ?」

 「...すまんすまん。川瀬祭は、子供の祭だろう?だから...今更言いにくいんだが、あのメニューは今回の川瀬祭では出さずに、別の、子供が好きそうな感じのものに変えた方がいいと思うんだ」

 大夢はすぐに返事はせず、自分のアフロを眺めながら一時の間黙っていたが、すぐに無邪気な笑顔になって七海を見る。

 「で、七海さんは、どういうのがいいんだべ?」

 七海は少しホッとした顔をして、同じく無邪気な笑顔になる。
 この二人を見れば、大の大人が子供みたいにと思われるだろうし、実際、七香には思われていた。ただ、喜陽と琉偉は微笑ましそうにしていた。

 「子供の頃、夏祭りといえばさ、かき氷やわたあめやりんご飴だっただろう?デザートって言えばさ!」

 「後、チョコバナナも、はずせねぇべ!!」

 「そうそう。で、今もそのラインナップは変わらないような気がするだろう?」

 「確かに、そうだんべ。韓国の今はタンフルっていうフルーツ飴が流行ってんだべよね。結構、デザート系は韓国のを参考に見てるんだべ。だから、韓国風かき氷も取り入れてたんだべ」

 「なるほど。確かに、韓国のかき氷は美味い。けど、やっぱりオーソドックスなかき氷も、美味いんだよ。それに安いしな」

 「あー...でも、うちの店でただのかき氷を売るっていうのも...子供達に安く売るのに出すのは構わねぇべ。でも、それじゃーあんまりインパクトに欠けるべ」

 「もちろん。けどオープン初日なんだから、今回は店を知ってもらう方が需要だろう?だから大夢の腕は確かにすごいのは認めるが、通年流行ってて親しみのあるかき氷と市販のアイスをドッキングして使うっていうのはどうだろう」

 「ん?まぁいいけど...インパクトあるんべか?んー?どういうことだべ?」

 「まぁまぁ。最近な、テレビをまた見るようになって、朝ドラを見てたんだよ。で、ご婦人方がさー、お汁粉を食べてたんだ」

 「お汁粉?急に話が飛ぶな。ていうかぁ〜、夏にお汁粉食べても暑いべ」

 「いやいや、なんか冷たそうな感じだったんだよ。多分、お汁粉が冷たいんだと思うんだ」

 「お汁粉が冷たい...ほう...なるほど...で?」

 「すまん、急に思いついたから話がごちゃごちゃだがな、つまりだ、ベースは普通のかき氷。そこにわたあめやりんご飴とかお汁粉をトッピングしてよ、更に市販のアイスも入ってれば見た目豪華で美味しんじゃねーかなと思ってな」

 大夢は真顔になってまた黙り込んで、暫し考える。ふんふんと何か小声でシュミレーションしているように目が忙しく上下に動いている。

 「よし!!いい案、浮かんだべ!!」

 「お、おう...」

 ガタっと急に片手を上に突き出して、まるでどこかの特撮ヒーローのように立ち上がった。

 と一気に決まったのである。

 今回は、うささんかき氷とキンキンチョコバナナの二種類で行くことにしたのである。
 かき氷は、大人も食べると踏んで、四種類にした。
 一つ目は、さっきの青年が頼んだ、宇治金時のお汁粉太白芋添え。冷やしたお汁粉にもちもち白玉を浮かべその上にかき氷を山のように乗せて、市販の一番美味しかった宇治金時の氷カップアイスを半分乗せ、狭山茶と太白芋のソースを掛けて更に練乳を掛けてから、半分チョココーティングした揚げチップスの太白芋を二枚差し込んだものだ。
 一見ウサギの耳みたいで可愛いとなって、ウサギの顔みたいになるように白玉を二つ上に乗せたものである。
 二つ目は、果物の宝石箱。秩父産イチゴで作ったあまりんとかおりんのジャムと巨峰ジャムと青森のりんごジュースをミックスしたソースを入れ、タンフルにしたラズベリーとブルベリーを二層に分けて挟みながらかき氷を山盛りにし、揚げチップスにした太白芋を二枚差し、市販の丸い果実の実の形をしたマンゴーアイスでうさぎの目のようにし、冷凍しておいたフルーツわたあめをウサギの前髪みたいに乗せたものである。
 三つ目は、わたあめかき氷。かき氷山盛りの上に満遍なく冷凍したフルーツわたあめを乗せて、揚げチップスにした太白芋を二枚差し、丸いチョコレートをウサギの目のようにして、ブルーハワイ、イチゴ、メロンの好きなシロップを選んで、ボトルから自分で掛けてもらうものである。
 四つ目最後は、かなりシンプルにかき氷に冷ましたお汁粉を入れ、白玉を入れたものである。ただし、市販のバニラの餅アイス、溶かしバター、ホイップの三種類をプラス三十円で各々トッピングできる。
 それと、全種類にプラス五十円で、キャラメルソース、チョコソース、みかんジュースと紅茶のゼリー、角切り桃、白玉の中から一品トッピングできる。二百五十円出せば、全部乗せも可能となる。

 それともう一品。すぐに出して食べれるようにと、キンキンチョコバナナも用意した。
 バナナ多めで秩父産の牛乳をミキサーしてバナナの形の容器に一旦流し込んで丸いアイス棒を刺し凍らせて成形し、固まったらチョコレートを潜らせてた上に小さく角切りにした桃のタンフルとスプリンクルを乗せて凍らせて、チョコバナナの部分だけ袋詰めしたものである。

 これに行き着いたのは、子供が好むもは何かもあるが、前のメニューだと大夢一人でする作業時間が多く大量には作れず、子供達が仮に沢山来ても対応が難しいと七海は話している最中に思ったからだった。今回のメニューであれば事前に準備しておくことができるし七海達も手伝え、かき氷だけ削れば後は乗せてたり掛けたりと単純な作業だけ。かき氷も自動機があるので、当時も七海は手伝えるというものである。

 注文したかき氷ができ、青年は終始ニコニコして堪能しながら美味しそうに綺麗に平らげて、最後まで礼儀正しく帰って行った。
 その後である、どうもその青年がSNSで宣伝してくれたようで沢山お客が入って来た。
 外も暑かったせいか売れ行きが良く、準備してた在庫がほとんどなくなってしまった。特にキンキンチョコバナナは持ち帰り可能だったため、夕暮れ時には完売であった。
 空も茜色から紫、濃い青、そして闇色とどんどん夜へふけって、すっかり真っ暗となった頃。

 「あらら...もうちょっと、作っておけばよかったべ」

 「そうだな。まさかあんなに売れるとは思いもしなかったな」

 「うーん...氷とシロップはどうにかなるけど、後は売れ切れちまったんだべ。まさか〜、お汁粉が人気あるとも思ってもみなかっただべよ」

 「そうだな。まぁ、子供が多いというよりは家族連れやお年寄りのお友達集団やカップルが多かったからな。一人が頼めば一緒に来る人間も頼むし、誰かが頼んだのを見てしまうといいなって思うこともある。そういう相乗効果が重なった嬉しい悲鳴ではあるが...さっき、琉偉から電話を貰った感じだと、青年団の子供達はこっちに帰ってくるついでにここへ寄るみたいだしな。どうする?」

 「あー...うーん...フルーツわたあめは地場産センターで売ってたと思うんだべ。フルーツもこだわらなきゃ、公園橋のベルベルで買えるけどぉ...でも、夜に来たいって言うてたんだべ?」

 「そうだな...あっ...」

 「...多分同じこと思ったと思うんだべ。多分、これから、アロマキャンドルと光るカプセルトーイと電池式ランタンを付けて、店の照明を全て消すからだベよ」

 「それにあれか、使い終わったカプセルトーイはプレゼントするからか」

 「そうだろなぁ。秩父じゃ買えないカプセルトーイを、七海さんの会社が在庫持ってて町おこしに協力って感じで大量にくれたからな。多分、それ目当てかもしんねぇな。しかも限定品だったんだんべ?」

 「限定品というか、特典であげてたやつがまだ残ってたんだよ。まぁ、うちのイベントで小さい子供へプレゼントする用にストックしてたやつで、会社名も入っちゃてるからな頭の後ろに。英語表記だからデザインの一部かと言えば、そう見えなくもないが...普通には出せないからな。まぁ、簡単に言えば思ってたほど数が減らなかったやつなんだよ」

 「でも、あの元のカプセルトーイは人気で品薄とか完売で手に入んないって、青年団の子供達が騒いでたな」

 「風呂に浮かべる、アヒルの形したやつだろ?なんでかね。まぁ、俺も不思議なんだがな。会社に聞いてみたが、会社にも在庫ありますかとかイベントの事を知って問い合わせ来たらしいとは聞いた。けど、うちの会社で売っている製品じゃないし、ましてや問い合わせあったからと渡せるもんでもないしな。まぁそれが原因で、イベントで一回揉めたらしくてな。アヒル出さないようになって、在庫が余ってたらしい」

 「揉めた?子供が、わんさか来過ぎたとかだべか?」

 「違う違う。大人だよ。子供には渡すのに、大人にはなんでくれなんだってね。まぁ一部のタチの悪いやつだよ。多分、転売とかしてるやつかもしれんし、単純にオタクだったんかもしれんし、それは正直わかんねぇけどな。先に、ホームページやSNSでも知らせてたし、広告のポスターにも小さなお子様限定ですって、書いてあったんだがな。まぁ、そういうのは少なからず、いるんだよ」

 七海は過去に自分も同じような経験に遭遇したことを思い出しながら、苦笑いして仕方なさそうに話す。

 「うわぁ...都会は、めんどくさいんだべな。あぁ...でも、似たようなことがたまーに、あるから、まぁ全く何事もないってこともないんかもしんねぇべな」

 大夢も何か思い出したのか、少し苦笑した後にニパっと元気よく笑う。その笑顔を見れば、七海は少し草草した気持ちも晴れて笑みが戻る。

 「さぁ〜て、子供らが来る前に準備終わらせますか」

 「うんだ」

 二人はお互いの顔を見ると小さく頷いて、作業に取り掛かった。準備は大方してあったので、アロマキャンドルに火を灯して安全な場所へ置き、カプセルトーイとランタンにスイッチを入れ、電気を消した。

 「予想以上に、案外明るかったな」

 「だべな。七海さんが、急に夏は電気不足かもしんねぇっからって節電イベントもする言った時はどうすんべ思ったけどなぁ。暗すぎて、お化け屋敷になるべなんて思ったけどヨォ〜、心配いらんかったんべな」

 「まぁ、表の沢山釣るってあるランタンが、LEDってこともあって明るいからな。あれもうちの会社で使ってたやつで、キャンプイベントの時に貸し出してたんだよ。元々うちでプロデュースしたやつだったから、売るにしても現物がないとって色々な色のをストックしてたのが、こうして役に立ったな」

 「ほんとだべ。あぁ!!!そうだ、そうだ。夜は、子供限定で百パーセントジュースタダだったんだべ」

 「は?聞いてねーぞ?」

 「いや、知り合いがよ、おもしれーことすんなぁって言ってな、ブドウとリンゴとミカンジュースくれたんだ。まぁそいつンチ、農家でな、でっけー果樹園持ってる金持ちなんだぁ」

 「へぇ〜...そんな太っ腹な人が、秩父にもいるんだな」

 「違うべ、山梨のやつだべ。昔東京おった頃にー、知り合ったんだべ。酒が好きで、よく秩父産のウイスキーやらビールやらワイン贈ってやってるんだべよ。こないだなんて、店で試しに使おうと思った日本酒一升瓶開けやがったんだべ。ほんとに、酒となると目がなくだらしないんだベェ〜」

 「そ、そうか」

 流石に店のものは手を出さないものの、七海は毎晩一升瓶とはいかないがかなり酒を飲んでいて、そんな身としては肩身が狭い思いがしていた。

 「だからていうのもあって、自分家で作ってるジュースくれたんだべ。あいつ、ジュースは飲まないんだべ。だからだろうけど、気に入ったら店に置いてくれ言うてたから、販売規模を拡大しようとしてんかもしれないんだべよ」

 「へぇ...商売上手だな。で、どれくらいあるんだ?」

 「ん?とりあえず各三十本ずつで、九十本だな」

 「は?...上手いんだか、下手なんだか...まぁ...でも助かるな」

 「そうだべ。で、更に思い出したんだべよ」

 「何を?」

 「午前中暇だったらからさぁ〜、そのジュースと今日残ってた果物で、氷玉作ったんだベェよぉ〜」

 「え?いつのまに!」

 「まぁ、適当にだベェ。話題のさ、まん丸い玉みたいな氷が作れる容器が売ってたから、気になってネットで買ったんだべよ。昨日の夜に家に届いたから、折角なんで作ってみようと思ったんだべよ」

 大夢はそう言って、キッチンの中へと消えていった。暫しして戻って来た大夢の手には、光るコップに光るストローを刺したものを両手に持っていた。ゴロゴロ入った丸い氷も影に映って見える。

 「ま、試作品だべよ、まずはオレ達で飲んでみんべ」

 「すまんな」

 大夢から手渡されたのは黄色に光るコップで、ストローは緑に光っている。中を覗けなオレンジ色で、浮かんでる氷を見るとミカン色をしているように見えるが、なんの果物が入ってるかは分からないので、喉も丁度乾いたと思いズズっと飲んだ。
 コップがやや小さめで氷も多くそんな大量にジュースは入っていなく、喉を潤した頃にはジュースは無くなっていた。コップの中をもう一度覗けば、氷の中に桃らしき四角いものが氷の中に見えた。ただ、すぐには解けそうにはないのでカウンターの上にカップを置く。

 「どうだべね?」

 口の中で氷をゴリゴリ砕きながら、大夢は真剣な目で見てくる。

 「ん?濃厚で美味いよ。ただ、氷は硬そうだから少し溶かしてから食べようかなと思って、まだ食べてない」

 「そうだべか。まぁ、でも美味しかったんなら、問題ないべ。オレも、ブドウジュース飲んだけど、普通に美味しかったしな。それに氷もリンゴジュースとブルーベリーが入ったやつ食べたが、美味しかったべよ」

 「そうか。なら、よかった。それに、この光るコップとストローもいい感じだな。そう言えばコースターもあったよな?」

 大夢はハッと思い出したようにキッチンへ戻ると、ピンクと水色に光るコースターを二つ持ってきて、水色を七海に渡す。

 「...なんだか、すごい配色だな...まぁでも、子供とか若者が好きそうな感じだな」

 「七色集めたかったんだけどなぁ、ネットで売ってなかったんよ。まぁ、また探してみよー思うんだべが、まぁ夜しか使わんし、徐々にでもいいだんべね」

 「まぁ...そうだが、七色揃える必要もないとは思うがな」

 「ダメダメ!虹色は、虹!虹の架け橋は夢に向かう橋だべ。ここは、譲れないべよ。それに、カウンターの上に酒置くより、七色のコップが並んで置かれてた方が綺麗だべ」

 「...そか...そうだな」

 七海としては、色んな酒が置いてあったら目でも楽しめていいなと思ったが、口には出さなかった。

 「にしても、遅いべなぁ〜」

 口の中で氷を砕きながら大夢が外を見やると、呼ばれたように急に外が明るくなって騒がしくなった。

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