【ファフナーTBE】マリスの思想について【考察】

※注意
今考察では先行上映版「蒼穹のファフナー THE BEYOND」の1~9話までの情報が含まれております。
視聴前の方、またはネタバレを気にされる方は見ないことを推奨いたします。





◆序文
表題の通り、ここではマリス・エクセルシアに関しての解読をメインに据えた考察を記載いたします。
この解説ではマリスについてまとめながら、マリスの周りのキャラ関係などをまとめていこうと思います。
なお、「蒼穹のファフナー THE BEYOND(以下TBE)」の1~9話までの情報をもとに作成されている考察のため、以降の話次第では最終的にひっくり返る可能性があるので十分注意ください



◆マリスについて

マリス・エクセルシア。エスペラントの男性。年齢不明。
(ルビィの回想の海神島への大行路で少年姿。TBE一話で身長が伸びてたので、その時期を第二次成長期だとすると、TBE2話以降は13~16歳が最低年齢と考えられる)
ファフナーTBEにおける悪役ポジションの青年。

ファフナーEXでエリア・シュリーナガルで生活していたが、ミール:アショーカが倒壊したことにより避難。長き旅を経て第三Alvis・海神島にたどり着く。第四次蒼穹作戦後に海神島に移住したエスペラントの一人。
その二年後、プロメテウスミールからの勧誘を受けてエレメントの一人である皆城総士とエスペラントの子供二名、そしてファフナーMarkⅠ改:スペクターを奪取し海神島から離反。
ハワイにてプロメテウスミールのコアが宇宙に打ち上げられるついでに北極まで飛ばしてもらい、そこでプロメテウスミール:マレスペロの命令のもとフェストゥム達と仮初の竜宮島を作る。
後に総士が育つまで平和な島でフェストゥム達と静かに暮らしていた。
が、エレメントの一人である真壁一騎の襲撃により偽竜宮島は粉砕。総士も奪還され、以降はプロメテウスミール:マレスペロの群れに参加して海神島を滅ぼす作戦に参加する。


マリスの経歴を分かる限りでざっと洗うとこんなところです。
彼に関しては表面的に見るだけなら「海神島/エスペラントの裏切り者」とみることができる。
作中で彼に関して評価を話しているのは海神島のコア:ルヴィ・カーマの言葉を借りるなら、「未来を恐れて逃げ出した、ただの人間」である。
さて、ここではそういった文面以外から読み取れる、マリスという青年の思想や考え方を考察していこうかなと思います。
そして何故離反したか、その真の目的は何かを考察していきたいと思います。



◆マリスの思想について

先に結論だけで言えば、マリスの離反は海神島と思想の相違が原因かなと。
そしてそのマリスの思想は、「優良種の選民思想」ではないかなと思われます。
ちょっと遠回りな話から始めますがお付き合いください。

マリスは偽竜宮島で総士たちと暮らす。その時総士が島の外に関して興味を示すと「平和以外に何が知りたいんだ?」と質問をする。
一見して穏やかなセリフですが、偽竜宮島以外の人間が聞いたら憤死しそうなふざけたセリフでもある。

マリスはプロメテウスミールのコアを宇宙に打ち上げた。結果大気圏外にあったアザゼル型ベイグラントが育てていたゴルディアス結晶と同化し、巨大な赤い月が生まれた。赤い月の力「
絶対停止領域」。ありとあらゆる自然環境の全てを停止させ、人類を滅ぼす環境が生まれました。
こういった人類を虐殺する状況を作りながら、自分たちは安全な場所で「ぼくたちは平和です」とか言っている。随分と身勝手な話である。

一騎「大勢から大切なものを奪って作った、お前たちだけの平和だ」(TBE二話より抜粋)

そりゃ他人の感情の機微がショコラよりも読み解けないという自己評価をする一騎にもこう突っ込まれます。
そんな世界を作って、それをわが物顔で享受するマリス。
この事からマリスには「自分さえよければいい」という身勝手な考え方が最初に視聴者にイメージされます。

マリスはTBE第4話にて海神島に連れ去れた総士を奪還するために、エスペラントの力を使って無理やり眠らせようとする。ここにも総士を対話して連れ出すといった相手を慮る態度は見られず、ただエスペラントの力を用いて自分のために相手を従わせようとする姿が見られます。
そういった「自分さえよければ、他の存在はどうでもいい」という自己中心的な思想がマリスの側面の一つと考えられます。
しかしそうかと思えば、一点だけ違和感のある発言があります。

マリス「君達が願っていた家族を作ったよ、美羽。君もおいで…この平和な島に。」(TBE第二話より)

そう、ここで違和感があるのはマリスは「美羽も偽竜宮島に来ることを望んでいた」ということ。
自分さえよければいい、という考えならそもそもこれ以上人を入れると考えるのには違和感がある。
しかもこの偽竜宮島で作ったのは美羽の両親である。厳密に確認できてはいないが、丘の上の家というのも遠見家の再現である可能性も高い。
マリスがマレスペロの命令通り、ただ総士をフェストゥム側に教育するための家族を作るなら、総士の両親をコピーすればよかった。でもそうしなかった。(まぁ子総士は両親の記憶とかないんで、美羽の両親しか分からなかったという可能性はあるが。というか美羽から記憶を抽出できるくらいなら、海神島のだれでも見ることはできる筈。なら総士の親の見た目位探せそうなものだが)
わざわざ美羽の家族をコピーしたこと。さらに美羽も偽竜宮島に来るように発言してたことから、マリスはいずれ美羽もこの島に来させる計画があったのかもしれない。と考えられる。


両親の形をしたフェストゥムがいる程度で美羽は島を裏切るか? という意見に関しては、五分五分かなと考える。
考えてみて欲しい。美羽ちゃんは肉体年齢は16~19程度に成長させられたが、彼女は生まれてから10年程度しかたってないのです(一騎達が14歳の時に受精したんで、15歳の時に誕生。現在一騎達が25歳なので、年齢的には10歳程度である)。
そして幼くして両親を失い、竜宮島に帰ったらミールと同化して死ぬ定め(後述)まで背負わされている子である。彼女の辿ってきた人生とこれからの運命を鑑みれば、彼女が安寧を求めて逃げ出す可能性もゼロではない。というか、普通の人間ならすぐに逃げるレベルである。
という意味で、美羽自身も偽竜宮島に来る可能性があった。しかしとはいえ、マリスがその環境を整えていることに違和感がある。先ほども書いたように、自分さえよければそれでいいのなら、美羽が来る環境を整える必要はない。


ではここでマリスの根本に根差しているものに関して、もうちょっと掘り下げてみる。



◆マリスの根本思想の考察

マリスの思想を知る上で重要なのは「マリスの力」であると考える。
マリスは作中ルヴィにも言われている通り「人を操る力に長けたエスペラント」である。
該当する力は下記である
・他人に偽りの記憶を植え付けること
・他人の記憶を読み取ること
・他人を眠らせる力
全部作中で行った力であるが、一言で言えば「洗脳」である

ここで一般的な想像力の話になるのだが、エリア・シュリーナガルで10歳前後の幼い少年が洗脳の力を持っていたらどうなるか?
シュリーナガル自体は人類軍が守っているが、人類軍のトップの新国連はフェストゥムやそれに近しい人間を皆殺しにしてきた実績がある。そんな奴らに守られてる、というか管理されれば、人間不信になってもおかしくない。事実シュリーナガルにたどり着いた竜宮島部隊は、人類軍ファフナーがフェストゥムではなく人から守っていることに驚いている(この時はパペットのスパイ疑惑も表層化していたわけではないため、本当にただ住民と人類軍に軋轢があったと考えるのが自然である)。このことから人類軍と現地住民に何かしらの軋轢があったと考えられる。
さらに人類軍とだけじゃなくても、住民同士がギスギスしてた可能性もある。というかそもそもエスペラントという超人と普通の人類に軋轢が生まれるのは必然かなと思います。
さらに根拠無しの妄想ですが、恐らくマリスの親は一般人だったのでしょう。(エスペラントが発生した時期から鑑みて、親がエスペラントであった可能性は薄いと考察できる)一般人の親が超人の子を持った時、どう接するか。
美羽の母親である日野弓子でさえ、苦悩と共に育てていたことがEXのドラマCD「THE FOLLOWER」で明かされている。日野弓子は竜宮島第一世代のファフナーパイロット候補である。つまりフェストゥム因子を埋め込まれた、一般人よりもフェストゥム関係に偏見がない人物でさえ苦労するのである。
では普通の親がマリスを産んだらどうなるか。正直不気味がるのではないのかなと思います。少なくとも正しく愛されて育ったかは怪しい。愛していたとしても、マリスがそれを正直に受け止められたかはもっと怪しい。
そんな身近な人間を信頼できない世界で、他人を洗脳する力をもった少年がどう成長するか。想像するなら、基本的に他人を信じず、洗脳できる普通の人類を道具として扱って自分だけでも生き残るように立ち回るでしょう。間違っても他人のために生きようとはしない筈。

他人を利用して、出し抜き生き残る。マリスの基本思想はここにあるのではないかなと邪推できる。
そう、マリスにとって、自分以外の人間とは、基本的に道具、もっと言えば自分より劣る存在と考えても不思議ではないのである。

さて、そんな存在が海神島で生活したらどうなるか?
マリスは自分が優れていることから、他人を操って生きてきた。「他人を犠牲にして自分だけが生きてきた」という人生を送ってきた。
海神島、というよりAlvisは、力があるものがより多くの人々を守るために死んでいく。「多くの住民のために命を捧げる」という文化が育ってきた。
一人のために全体を犠牲にする思想と、全体のために少数を犠牲にする思想。
マリスと海神島の思想は根本から異なります。
文字通り異文化との交流である。それを受け入れた者は島で生活をし、それを受け入れられなかったマリスは島からの逃走を図った。

こんな場所にいたらいずれ自分は死ぬ。わけもわからない自分より劣る人類なんかのために犠牲になってたまるものか。
マリスが離反したのも、こういった認識の違いからかなと思われます。
だからこそマリスは憎んだ。海神島のシステムを、生き方を。自分が犠牲になるなんてさんざんだ。自分のように優れた人間こそが生き残るべきだ。
こういった「優良種の選民思想」がマリスの根本かなと。

だからこそマリスは、人類を嘲笑する。
TBE第8話でマリスはわざわざ海神島を煽るように停戦を交渉する。

マリス「生きてたんだ。何人犠牲にしたの?」(TBE第8話より)

彼は「誰が死んだか」ではなく「何人死んだか」という数字で語ります。自分より劣る人類のどこの誰が死んだかなんて重要じゃないからですね。
そしてその嘲笑には、「いつも通り誰かを犠牲にして大勢の人が生き残った」という海神島の生き残り方に関する嘲笑も含まれているようにも取れます。

そしてマリスは直接的に自身の思想を海神島に語りかける。

マリス「あなた方古い人類が僕たち新しい人類を犠牲にするからだ、あなた方こそ僕たちの為に犠牲になるべきだ」(TBE第8話より)

この言葉も煽りの中に含まれているから目立ちはしなかったが、マリスは「僕たち」と言う。僕ではなく、僕たちという複数人物を対象としている。これは考え方としてはフェストゥムサイドを「僕たち」と言っているようにも見えるが、ここはエスペラントを「僕たち」と言っているのが適切かなと思う。

ルビィ「彼は裏切り者ですらありません。両親が命を懸けてたどり着かせたこの島で、彼は未来を恐れて逃げ出すしか無かった、哀れな人間なのです」(TBE第8話より)

この会話の時にルビィはわざわざマリスと「人間」と定義している。明確にここで人間側に属するという区分を成された会話なら、マリスがフェストゥム側として「お前たち旧人類が犠牲になるべきだ」と言っているのではなく、「エスペラントという新人類のために、旧人類は犠牲になれ」と言っていると考える方が適切だと思われる。


ここまでの話をまとめると、マリスの思想とは
海神島の思想である「全体のために少数が犠牲になる」というルールの反逆者。
「優れた少数のために、大勢の人が犠牲になるべき」という
一番最初に考察として掲げた「優良種の選民思想」が根幹に根差しているのではないかと考えられる。

だからこそ、自分より下の旧人類は見下しますが、自分と同等の力をもった人間は認め、そして対等の存在とみなしたのかもしれない。美羽を特別視するのはそういった理由からかなと。
偽竜宮島を美羽の記憶を参考につくり、美羽も来させようとしたのもマリスにとっては、美羽だけは「他の人類とは違う」「唯一自分と対等の存在」からだったのかもしれないと考える。


◆余談:人間の凄みを知るマリス

余談なので本筋から離れるので読み飛ばしてもらって大丈夫です。

人間を見下していたマリスだからこそ、TBE9話で御門零央に追い詰められたことに意味がある。
第二次L計画を見透かされた海神島陣営は作戦中止を決断する。グリムリーパーによる妨害を打開するために零央はマリスに突撃する。しかしグリムリーパーのSDPによりスサノオのSDPは封じられ、スサノオはただの電池切れ寸前のファフナーに成り下がる。しかしスサノオはSDPなしでフェストゥムをなぎ倒し、マリスの首に手がかかる近さまで肉薄する。

SDPを無効化されたただの人間が操るMarkⅩⅣ:スサノオ。
対してマリスはSDP持ちのMarkⅡ:グリムリーパーにエスペラントとしての力、さらにフェストゥムも操っている。
そんな超人が、ただの人間に殺される一歩手前まで追い詰められたというのが本当に大きい。

マリス「SDPなしだぞ……ちゃんと止めろよ!」(TBE第9話より)

マリスはこの時ようやく「ただの人間」の凄みを知った。これがマリスにどういう変化をもたらすのか。変化しないのかもしれないし、変わっていくのかもしれない。10話以降の流れに注目です。


◆日野美羽について

さて、ここまででマリスを考察してきましたが、この後はマリスを知るために外堀から見ていこうと思います。
この考察でも何度も話題だけはでており、彼の真逆に存在するキャラクターがいることがわかるかと思います。

日野美羽です。

美羽とマリスはお互いにエスペラントとしての大きな力をもっておりますが、あり方は真逆と言っていいほど異なります。

マリスは個人のために他人を利用し、自分の意思で島を出た
美羽は人類のために死ぬ定めを持ち、自分の意思を殺して島に残っている。

マリスは他人を従える力を持ち、
美羽は他人と分かり合える力を持っている。

ファフナーという作品において、この二人は対になるように造形されていると推測できます。(両方とも一騎(全能)の機体を譲り受けた(奪った)という共通点も面白い)

美羽に関して改めて彼女の境遇と、彼女が背負わされていることを記載します。
美羽は6話にて下記のような発言をしている。

美羽「島に帰れたら、ママやエメリーがしたこと美羽もするだけだもん。一人で大丈夫」(TBE第6話より)

島に帰ったら命をミールに返す、あるいは同化することを自ら告白する。
なぜこうなるのか、推測はできますが、何にしろ彼女は島に帰ったら死ぬというのが決まっているというのが明言されている。

そしてそれ故、彼女は度々自分の感情を殺して、自分以外の誰かのため、全体の為だけに行動することがある。
TBE第6話にて死の運命に迫られた来主操に片腕を渡すことを承諾する。死が決まっているなら、この命を有効活用してより多くの他人が幸せになるのなら。そういった考えだったのかもしれない。

TBE第7話にて追い詰められた海神島。美羽はみんなを守るために、即座に引き金を引く。
美羽はこの時までフェストゥムを一度も殺したことがなかった。第五次蒼穹作戦の時でさえ、彼女が攻撃したのは壁だけである。彼女はフェストゥムと対話できる力を用い、いままで「おはなし」をしてフェストゥムを退けていた。
美羽はフェストゥムを殺したくなどないのだ。だが……

美羽「ごめんね……止めてあげられなくて」(TBE第7話より)

フェストゥムを大量虐殺するルガーランスの光を掲げながら、美羽は小さくつぶやく。
会話できる相手を殺したくはないという、自分の意思を捨てて、全体のために最善の行動をとる。
この思想はTBE8話にて総士に突っ込まれる。総士は美羽に対して「フェストゥム人間」という評価をする。この評価はここまでの美羽には妥当であり、彼女はフェストゥムと同じで、自分の意思は確かに無いといえる。

すべては島の住民、ひいては全人類のために。この力をもって生まれた責任として、全体のために生きなければいけない。
それが美羽の基本思想である。
(また、EXのドラマCD「THE FOLLOWERS」でもアザゼル型:ロードランナーの襲来時に「なにかをしたい」ではなく「やらなければいけない」という義務感から動いていたことがうかがえる)


◆皆城総士について

前回の話の続き。マリスと美羽は全く真逆の思想を持っていると考えられる。
しかしてこの二人が直接対話したことは少ない。
この二人が対話しているのは、この二人の間にいる存在。
それが皆城総士である。

総士は二人のちょうど中間に存在するキャラである。
マリスと育ち、美羽と一緒に暮らす。
お互いのことをもっともよく分かっているのが総士である。

ファフナーTBEでは総士の成長に伴い、美羽との交流が増えていく。そして美羽はだんだんと心を開いていく。
下記のような交流があった。


5話:親友の遺品を捨てられても涙を流しながらも総士の気持ちを分かるという

状態:美羽はエスペラントの力で総士の苦しみを理解。対話はしてない。対話放棄の一方的な理解。総士の怒りに対して美羽は全く取り合わない。

     
6話:来主に腕を渡そうとしたときに総士に指摘されたことに関して反発する
状態:思考の違いからの反発心。罵り合い。ここで総士が美羽がもっとも触れられたくないところに触れてきたからか美羽がようやく総士に対して反発する。「なんでも出来るから何をしてもいいのか」と言われる。多分真実は逆で「本当は自分の意思では何にもできないのが美羽」だからこそ、総士の発言は的外れで怒りを買ったのだと思われる。

8話:フェストゥム人間と言われたことに関しての明確な嫌悪感
状態:明確に「嫌な人」という感情を抱く。これも恐らく図星を突かれたからだと思われる。6話の喧嘩よりも、言い返しにくい事実を言われたからの反応か。美羽が総士に対して明確な「感情」を持つようになる。

9話:零央達を救おうと独断専行に走る総士に対して「助けられなかったら怒る」
状態:総士を信じることと、感情をぶつけられる相手になる。美羽の本音がようやくもれた瞬間。誰も死んでほしくはない。美羽がようやく「自分の本当の気持ち」を「適切な言葉」で総士にぶつけた瞬間でもある。

フェストゥム人間だった美羽は、総士に対して怒りや嫌悪感を持つことによって、
どんどん人間らしい感情を引き出されていく。
総士が島の人々と触れ合うことで、自分を見出していくように、
美羽は総士に触れ合うことで、変わっていく。

閉鎖された島の環境は、新しい思想が入ってくることは少ない。
島には島のルールがある。積み重ねてきた命の重みがある。
美羽の宿命を変えてやれる人など、島にはいないのだ。
何故なら、「誰かの犠牲によって未来が開かれる」と言うのが島の在り方だったから。
それを今更変えることはできない。
それから逃げることは、美羽にとって、父が、そして母が紡いできたものを捨てることだった。
それは、少なくとも美羽にはできない。
だからこそ「その島のルールの外側」に居る皆城総士にしか、美羽を変えさせることはできないのだ。
多分今の総士なら言える。美羽が犠牲になる必要などないのだと。
例えそれしか方法がなくても、そう言ってくれる人がいるだけで救われるものはある。

総士は超克する。
かつての皆城総士を。

L計画で沈む二人を、島のために見殺しにせざるを得なかったかつての総士。
第二次L計画で、殿を務める二人を見殺しにせずに救った今の総士。

そして、死ぬことが定められても意思を持ち、その宿命を変えさせられなかった皆城乙姫。
ならば今度こそは、死が定められた美羽の運命を変えるのも総士の役目なのかもしれない。

……だがそれは、一期のオマージュとして
総士(一期)=総士(TBE)、乙姫=美羽
という配役がなされている場合には、
美羽を止める役は総士が担うべきだと考える。

しかし別側面から、考えると美羽を止める相手は
マリスなのではないかと考えることもできる。


◆一期セルフオマージュの配役について

美羽とマリスと総士。
この三人、立ち位置だけ見たら初期の一騎と総士と真矢にそっくりです。
というか、ここまでそっくりだったからこそ、この三人の関係性に関して考察できたというのもあります。

総士の考えが分からずに島を出ていった一騎と、自分の思想のために島を出ていったマリス
島を守る重責につぶされそうになりながらも一度は自分を見失った総士と、自信のこれからの宿命に耐えながら自己が希薄になった美羽
そんな二人に話合えといい続けた真矢と、自分の感情をしっかり出せと言う総士

また、美羽はエスペラントの力他人の心が読めるっぽい。(TBE9話より、総士の「心を読むな」という発言からそういう力もあると読み解ける)
このことも、マリスと美羽の関係は、一期の総士と一騎に似ていると考えられる。
総士と一騎は、総士がジークフリードシステムを使って一騎の感情を追体験することによって一騎を理解したと思っている状態。
美羽とマリスも似たように、美羽のエスペラントの力でマリスを一方的に分かったと思っている状態とも考えられます。

境遇と立ち位置がそっくりです。
恐らく意図的にそういう風に作ったのではないかなと思われます。

決定的に違うのは、マリスが出ていったのは思想の違いから。
一騎と違って海神島に戻ってくる可能性が薄いということ。

だからこその物語の終わりには、マリスは美羽と何がしかの対話によって終わるのではないかなと考えられます。
美羽の死の運命を止めるのは誰か。
先ほども書いたように、美羽が乙姫と同じ配役だとしたら、総士が適任。
しかし、島を出たマリスによって止めるように説得させる、と言うのもあながち間違っていないようにも感じる……


◆美羽とマリスと総士

さて、そんなわけで美羽の解説とマリスの解説をしてきました。
最終的にマリスは美羽と対話するべきなんじゃないか、という考察になってきましたが、
この二人は対になっていながら、実は直接的な対話はほぼ行っておりません。

現状美羽からマリスにいうことはないが、マリスから美羽に言うことはあるのではないでしょうか?

マリス「何かを守るために誰かを失う、そんな世界を捨てて生きよう」(TBE第1話より)

この言葉こそ、マリスが美羽に送らなければいけなった言葉ではなかったのか?
だが、マリスのそんな言葉で変われるほど美羽の呪縛は軽くない。
美羽を縛っているのは美羽ではなく、環境です。

故にマリスは対話の相手として海神島のAlvis司令官真壁文彦/ルヴィ・カーマを選ぶ。
マリスは度々降伏を文彦に提案する。美羽にこの環境から逃げろ、と言われても彼女は逃げない。
ならば、戦う理由をそもそも奪えばいい。Alvis自体が降伏すれば、美羽も無理をして戦うこともなくなる。マリスの思想が勝てば、美羽が死ぬ理由がなくなるのだから。
マリスの違和感のある二度の降伏勧告はこれかなと考察できる。

マリスの二度の降伏勧告は、美羽に対しての婉曲的な提案だったのかもしれない。
「何かを守るために誰かを失う、そんな世界を捨てて生きよう」
その言葉を出さくても、美羽ならわかってくれる。
そんな歪なエスペラントの力の信頼故の行動だったのかもしれない。

しかし、そんなマリスの行動の理由など分かる筈がない。
マリスの真意を、美羽は、そして恐らく総士も真の意味では理解できていない。

マリスが本当に行わなければいけないのは、美羽、そして総士との直接対話である。
というか、海神島を破壊して、相手にYESと言わざるを得ない状況にもっていってから話のは対話とは言えない。マリスは本当の意味で対話はしてない。

だとしたら、マリスは特に総士に関しての対話は、「その後美羽と対話するなら」とても重要で、
美羽が「今までの海神島の不文律に捕らわれた思想」に対して
総士は「マリスの思想環境で育った後に海神島で育った」というハイブリッドである。
美羽とマリスの二つの思想の中間にいるのが総士なのである。

第二次L計画が最たるものである。あそこで水底に沈む二人を、総士だけは認めなかった。
Alvisの中で総士だけが「何かを守るために誰かを失う、そんな世界を捨てた」のだ。
奇しくもマリスが一番最初に掲げた理想を、別の形で体現したのが総士だった。
しかしマリスと総士には明確な違いがあり、それは「その思想がより大勢の人のためであるか」が圧倒的に違う。マリスは自分と家族のために。総士はより大勢のためにその力を使っているように見える。

マリス→他者の排除。自分たちだけ生きてればいい
総士→他人を認めた上で、少数の犠牲(島の不文律)を許容しない
美羽→大勢の人々のために少数の犠牲は止む無し


ここでマリスは美羽といずれ直接対話が必要になると考えると、この二人の思想は決定的にずれているのが問題である。
このずれの修正に中間地点の総士がいるのではないか?
総士の立ち位置とは、かつて一期にて日野洋二が行ったような「フェストゥムをより人類へ近づけ、人類をよりフェストゥムに近づける」橋渡しを行ったような、「マリスを超人から人間に近づけ、美羽にフェストゥム人間から確たる自己を持たせて人間に近づける」ことなのではないのか?

美羽は総士と対話することで、自分の思想と離れた感情を学んでいった。
全体のために犠牲になるなら、自己の感情は希薄であるほうがいい。
だが美羽はどんどん総士に心を開いていく。人間らしい「怒り」を覚える。
美羽は人として対話するための「自分自身」を総士によって得てきている。
今の美羽ならマリスと直接対話をしても、自分の意思で伝えることができるだろう。

ならばマリスも、総士ともう一度対話をすることで、自分と、その思想を見直す必要がある。
美羽には総士と触れ合うことで、自信の意思を見直す時間が与えられた。
本当に対話させるならマリスもこの時間は必要である。
対話とは、どちらか一方の思想を破壊することではない。
マリスの思想を打ち負かすというだけなら、対話なんていらないのである。
マリスは美羽と話合うステージに立つために、総士という仲介者との対話が必要になってくる。

相手とちゃんと「はなしあう」ために、変わっていく環境でも「今ここにいること」を選ばなければいけないのである。


◆終わりに
まとめると
・マリスは人間見下してるのが基本思想という考察
・マリスの対は美羽という考察
・マリスと美羽には何かしらの対話での決着が必要になる
といった、考察でした。

マリス自体は9話で小物感がでて、評価が下がったという意見をちょくちょく見ますが、
逆に言えば彼がどこまでいっても、どれだけ超人でも「人間」であるという証左でもあるという描写に私は見えました。
かつて皆城総士はフェストゥムという神を人類と同じステージに叩き落す神殺しを行った。今の皆城総士は超人をただの人に変えることができるのか……
マリスは悪役ポジションですが、ファフナーという作品を見ると打倒する相手ではありません。対話不能なアザゼル型ではありません。来主と同じ、対話をする相手です。

この作品の終結に、キャラクターたちが納得する「対話」があることを祈るばかりです。


あと、実はこの考察に、作中さんざん出てきた「怒り」という感情について
記載しようかと思いましたが、ちょっとまだまとめられる気がしないので
これは機会があったら別件で……

あらためて、ファフナーTBEの7~9話は美羽とマリスと総士の物語と認識させられるストーリーでした。
彼らがこの後どのような対話の果てに、どこにたどり着くのか。
残り話数を楽しみに待ちましょう


それではここまでの長文、ご視聴ありがとうございました!






……とことでファフナーTBEで残りの話数で最低限やらなきゃいけないことが下記なのですが
・マリスと成長した総士の対話
・マリスと美羽の直接対話
・里奈の暉依存の超克
・一騎から総士へ、親から子への何かしらの継承
・マレスペロとの決着と、アルタイルとの対話
・真矢の右目

その他微妙に残ってること
・ケイオスバートランドとの再対決
・マレスペロがファフナー乗れる発言
・来主のフラグ

これもう無理なのでは?

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