私はその瞬間、真に"世界"だったこと

私の街で2番目に大きなその橋を揺らして走る流線型のタンクローリーの下、コンクリートと鉄筋で造られた橋梁を潜りながら流れる汚い水のその水面を河下へと辿った先に映った夕陽は非常にオレンジ色で、その光は寂れた公共施設の窓ガラスに反射してわたしの虹彩に飛び込み、1億5000キロメートルの旅路を終え、私はそんな夕刻の孤独を一瞥すると自転車に跨って、それでおろおろと目的地へと自転車を転がしたのだが、目的地はきっと見つからないんだという予感が確かにあり、それでもそんな不安を消し去るためにひとけり、ひとけりペダルを踏み沈めていけば、砂場しかない大きくも小さくもない公園に辿り着くのだが、私はなんとなく(しかし確信を持って)その公園を世界の果てであると認識していて、なぜならその公園にはいつも私を除いて脊椎動物は誰一人存在しなくて、きっとそれは偶然なのだが、それは魔力的な何かの作用によるもので、そこで唾を飲み込めば時間はいつも止まり、それもまた魔法的な現象であり、とろけるような夕陽はいつの間にか沈み切りあたりは暗くそして静寂であって、わたしはそこでは誰にも認識されておらず、きっとその瞬間世界は私を忘れていて、もちろん私も世界のことなんて忘れて、世界と私は完全に分断されていたから私はその瞬間、真に"世界"だったし、世界だって真に"私"だったから、それを否定する論理を持ち合わせない私は、世界と混ざりあっていたし、それはそんなに怖いことだとも感じなかった。
(字余り)

#今日の俳句

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