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さくっと読みショートショート

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1分くらいで読める、1000文字以内のショートショートをまとめています。気分転換のお供にどうぞ!
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2020年8月の記事一覧

不一致【ショートショート204字】

彼女と僕は気が合わない。 彼女は魚が好きで、僕は肉が好きだ。 彼女は家にいるのが好きで、僕は外に出るのが好きだ。 彼女は長風呂が好きで、僕はシャワーで十分だ。 彼女は犬が好きで、僕は…まぁ、言うまでもないだろう。 そして最後のが決定的だったな。 僕が一番大切なのは愛する人だが、彼女が一番大切なのは愛するペットだそうだ。 かくして、僕達は一緒に幸せに暮らしている。 「ポチ〜」と僕の名前を呼ぶ彼女の声はいつも愛に溢れている。

工場【ショートショート389文字】

やっと我が工場にも活気が戻ってきた。今回のウイルスにはほとほと困った。感染が相次ぎ、従業員の半分が稼働できなくなってしまった。 仕方がないので、残った従業員の労働時間を倍にし、なんとか生産ラインを止めずにすんだ。案の定、従業員のエネルギー不足や故障が相次いだが、無理やり回した形だ。この緊急事態であるから、従業員達もわかってくれているはずだ。 同業他社の工場長と情報交換する機会があった。 「いやぁ、今回のウイルスにはまいったよ。うちは無理やり労働時間を倍にして対応したんだ

髪【ショートショート476文字】

僕は彼女の髪を集めている。もちろん抜いたりはしない。朝、枕の上で抜けている髪の毛を見つけて集めるようにしている。気持ち悪がられるかもしれないから彼女には内緒にしている。もちろん妻にも内緒だ。 集めた髪の毛は、向きを揃え、パラフィン紙に大切に包んで、僕の書物机の一番上の引き出しに保管している。その上にパンフレットを被せたりして、妻がうっかり引き出しを開けた時も見えないようにしている。 夜、僕は一人になると、彼女の髪を取り出して眺める。結構な量が集まってきたので、撫でるとつる

新入社員【ショートショート595文字】

「部長が新入社員をえこひいきしている」という噂が立ち始めたのは先週くらいからだろうか。私に直接その話題が振られたことはないが、女子トイレの個室にいるときなど、よく話が聞こえてくる。 「あの新入社員がちょっとかわいいからって、部長えこひいきしすぎ。」 「振られてる仕事量が明らかに少ないもんね。しかも成果をアピールしやすい、オトクな案件ばっかり振ってる感じ。」 「新入社員は新入社員で、部長〜って甘えている感じじゃない?」 「もしかして、できてるとか…」 「えー、結構歳違うでしょ

8月31日【ショートショート647字】

8月31日の夜、少年は青い顔で布団を被っていた。ニュースはどれも「地球に隕石が接近中」と伝えていた。こんなはずじゃなかったのに。 軽い気持ちでの行動だった。宿題は終わっていないから先生に怒られるだろうし、クラスの奴らにはいじめられるだろうし、明日から学校に行くのが憂鬱だったのだ。 祖母から聞いたおまじないがあった。穴ぼこのたくさん空いた小石を持って、大きな穴の周りを三周歩く。その間、自分の願い事を心の中で唱え続ける。何があっても口を開いてはだめだ。三周したら、小石を穴の中

炎上【ショートショート457字】

炎上系ユーチューバーという言葉が世間に認知されてからどれくらいだろうか。でも、俺くらい命がけで、日々「炎上」に向かっているやつは少ないだろうな。 ユーチューブは俺の生活の一部だ。朝起きてユーチューブ、昼飯食いながらユーチューブ、寝る前にユーチューブ。仲間とおすすめの動画を教え合うことも多い。 そうしていたら、自分もユーチューバーの真似事がしたくなった。 仲間と一緒に車に乗り込み、けたたましい爆音を鳴らす。周りの通行人は驚いて振り返る。 信号は赤だったが、関係ない。スピー

【ショートショート】アイドル

「ミクちゃーん!」 と野太い歓声が飛ぶ。ミクはこのハウスでライブをしている。世間で言う地下アイドルというやつだろうか。衣装はピンク色のひらひらしたミニスカートに、胸元には大きなリボン。ちょっと前時代的な気もするが、ここの客層にはこれがウケる。 最初は5人グループで活動していたのだが、一人減り、二人減り、いつの間にかミク一人きりになってしまった。決してメンバーの仲が悪かったわけではない。人にはそれぞれいろんな事情があるものだ。ミクは止めることもできず、結局一人で活動することに