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昔 私は「全日本 嫉妬を語る会」を立ち上げ、会長をしていた。
(自分一人の妄想の中で。)

当時、何で嫉妬したんだかすっかり忘れてしまったが、パートナーのニキに対して、数日間 悶々と嫉妬を感じていた時があった。
「全日本 嫉妬を語る会」の一番重要な理念に〝嫉妬は感じた本人に直接語るべし〟というのがある。

何杯か注文した泡盛の酔いの力をかり、いよいよ目の前のニキ本人に、この数日間抱えていたものを語ろうとしていた。

「京子が100倍良い女ってことは、当然の事実としてあるんだけどね…、
それにしても、彼女のどこが良かったわけ?
どこに共鳴したわけ?」

私の前置きにニキは笑いながらも一つ一つ丁寧に答えてくれる。
嫉妬は勝手な妄想を生む。

「もし、なんかあったらどうしてた?」とニキが何やら嬉しそうに聴いてくる。

「そりゃあ ボコボコだよ。」
「ボコボコって?」
「ボコボコはボコボコだよ!
最後にグサッってやって終わり。」

苦笑しながらも、ニキは至ってニュートラルだ。
私の質問(尋問)に一つ一つ答えてくれる。
そのことで、私が数日間 作り上げた妄想とジャッジ、感情が整理されていく。

目の前のホシは逃げることなく、尋問にすんなりと応じている。
私も一通りの文句を言い終え気が済んでくると、今度は自分の内側から別の痛みが涌いてくる。
処理しきれていない、味わいきれていない過去の痛み。
目の前のホシにぶつけていたものは私の過去の痛み。彼に出会う何年も何年も前の私の問題。

次から次に涌いて出てくるその痛みを、泡盛と共にじんわり味わう。
あの時の情景、あの時の相手の顔…。
静かに涙が流れてくる。
ニキはただ黙って、私の手を握ってくれている。
ただ黙って隣にいることができるのが、この人の大きさだ。
私もただ黙って、自分の内側からやってくる痛みを苦々しく味わい続ける。

かつて嫉妬で悶え苦しんだ時代があった。
嫉妬のエネルギーは凄まじく、このエネルギーで充分相手を殺せると思った。

「ニキは、嫉妬で苦しんだ事はないの?」
「昔 あったよ。」

彼の口数は少なくとも、そこから十分なほどに当時の彼の痛みを感じとれる。
みんな、同じなんだな…。
なんだか思っくそ大声で泣きたい衝動にかられたが、ここは沖縄料理屋、泣くには相応しい場ではなかった。

ふぅーっと大きく息を吹き出してから、ニキに向き直って私は言った。
「彼女を悪く言う必要は、本当はない。
あなたを責めているわけでもない。
私は、自分のために話しているの。
話す事で、過去の痛みが出ていってくれるから。」

「うん大丈夫。全部分かってるよ。」
ニキが握っていた私の手に力を込めた。
夜も更けた沖縄料理屋にゆったりと沖縄民謡が流れ続けた。

今日は、そんなお話。

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