いつかゆく道……エンド・オブ・ライフ

 佐々涼子氏の「エンド・オブ・ライフ」を読んだ。本屋大賞2020年ノンフィクション大賞を受賞したベスト・セラー本だ。佐々さんはある日友人から告げられる。

「(共通の友人の)森山さんにがんが見つかって、あなたを見込んでお願いしたいことがある」

 死にゆく友の願いは在宅医療についての共著本を書くこと。森山さんは訪問看護師で、いままで幾人もの人たちを看取ってきたからと。

 森山さんとの約束通り、この本は佐々さん名義だけれど、実質森山さんと佐々さんの共著だ。森山さんが今まで看取ってきた人びと(彼は死にゆくひとを患者扱いしない。いつだって人として尊重してきた)とその家族の話、思い出話を織り交ぜながらゆったりと進む。死を前に森山さんはそんな話をしたり、好きなものを食べたり、かと思えば急に自分のがんを「がんちゃん」などと呼び始め、がんの声を聴くだのがんに感謝、なんて言い始める。佐々さんは森山さんとの末期の日々を楽しみながらも、どんな本を書けばいいのかとまどいを覚える……。

 私も最初は「ああこの人(森山さん)も今まで他人を何人も看取ってきたけれども、自分の死は直視できないんだ。やっぱり、終末医療のプロだって、死ぬのがこわいんだ」と思いながら読んでいた。しかしそうではなくて、本当は森山さんは……あとはぜひ、この本を読んでみてください。

 佐々さんの文章は非常にあっさりしていて感情的でなく、読みやすい。皆が知りたいけれど深く考えることを放棄している「死」というテーマを扱うのにぴったりな文章を書いておられる。

 太安万侶も死んだ。紫式部も、三島由紀夫も、ヘッセもカポーティもみんなみんな死んでしまった。この本に出てくる「ふつうの人」たちもみんなそれぞれの人生を生き、そして誰のものでもない「わたしの死」を死んでゆく。さて、私はいつどんな風に死ぬのだろうか。在宅という「死に方」も、選択肢に入れてみようかという気にもなってくる。

 ただしそれには、理解ある医師と、人として気の合う看護師が必要不可欠なようだ。この本を読んで有益な情報を得ることができたと思う。

 つひにゆく道とはかねてきゝしかどきのふ今日とは思はざりしを(在原業平)

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