がんばれ男の子、女の子、あとそれ以外!

 吸い込まれるように一気読みした本がここにある。七崎良輔氏の「僕が夫に出会うまで」。「僕」なのに「夫」に出会うの? 著者紹介にはLGBTコミュニティを立ち上げたこと、江戸川区同性パートナーシップ証明制度の第一号などの経歴が並ぶ。なるほど、そういうことか! と読み始めた……。

 数時間後、すっかり「ななぴぃ」を好きになった私は目頭を押さえて溜息をついた。よかったねぇ、ななぴぃ! ほんとに、おめでとう!

 今は遠い思い出となったあの日、ようやく高校を卒業したばかりの友人が私に言ったのを思い出す。「ねえ、なんで世の中には男も女もいっぱいいるのに、私が好きになるのはいつも決まって男なんだろう? いい男よりいい女の方が、圧倒的に数は多いのに、不思議だよねえ?」
 この友人は美人なのだが、常に妙な男と付き合ってしまう癖がある。この時は確か熊のように横にも縦にも大きい無職のおっさんと付き合い始めたばかりだった。
「さあ……それは君の趣味だから」
「好きになる人が選べたらいいのに……」
 意味もなくアイスティをストローでかき回して、アンニュイにそっとつぶやく彼女。向かい合って座っている私のことは観葉植物か何かくらいにしか意識されてもなさそうだ。

 実は彼女の気持ちは私にはさっぱり分からなかった。私はあまり男女の区別がついていなくて、かと言って「ななぴぃ」のように小さい頃から「オカマ」なんて呼ばれて悲しかった思い出もなく、やれイケメンがいればいいなと思い、それかわいい女の子がいればデートしたいと思い、そしてまあだいたいいつもフラれてばかりいて、それに不満はあれど疑問は特にないという人生を送っていた。

「ななぴぃ」の男性遍歴は華やかだ。もしかしたら、そこらへんの女の人より元彼氏の数は多いんじゃないだろうか。好きになるひとはやっぱり自分で選べない。ななぴぃは最初から男の人を好きな男の人で、私の友人は男の人を好きな女の人で、私は自分を含めて人の性別にほとんど関心がない人だ。だが自慢じゃないが私が今までフラれてきた理由に「性別が気に入らない」というものはなかった。「ななぴぃ」は「もし七崎が女だったら、俺ら、付き合ってたよな」なんてBL漫画でもベタだと思われそうなこと言われているので驚いたが、私はそんなこと言われたことなんか一回も、ない。基本的にフラれる理由は100%性格のせいだぞ!

「ななぴぃ」の付き合う男たちもなかなかのメンツだ。最初はよさげに思うんだけど「いやまてソイツはよくないぞ」とか「え……嘘でしょ、これはマズい」なんて奴もちょくちょく出てきて、読んでて心配になってしまう。きっと「ななぴぃ」も変な男を引き寄せる癖があるのに違いない。

 これだけ変な男に引っかかりまくれば普通だったらメゲてしまうところだけど流石我らが「ななぴぃ」は強い! ヘコたれずに前向きに、時に貪欲に「信頼できるパートナー」探しを、諦めない! 役所へ婚姻届けを出しに行ってお断りされる心配なんかないような、世の婚活男女たちもぜひ見習ってほしい。諦めないこと。それが唯一の答えなんだと思う。「ななぴぃ」は多くの男たちと出会い、別れ、笑って泣いて、そしてタイトルにもある通り最後に素敵なパートナーとめぐり合っている。

 この本は「夫に出会うまで」の物語だから、夫がどんな人で、どういう暮らしをしてて、ということはごくあっさりとしか書かれていない。きっと楽しい暮らしをしているんだろうなと思うけれど、出来たら「僕と夫の夫夫生活」も書いてほしい。亮介君が了承してくれる範囲でいいからさ。

 今もまだ、日本では「夫婦別姓はいかにたこに」とか「同性婚は認めるかいなかとかいか」なんて議論の真っ最中で「ななぴぃ」はその最前線で戦っているのだと思うけれど、世の中はもう半ば以上、認めていると私は思う。そんなの受け入れられないとか、まわりに一人もLGBTの人がいないので分からない、と思っている方はぜひ一度この本を読んでみてほしい!

 正直に、時に自分に都合のよくないことだって楽しく読ませてくれる「ななぴぃ」のことを、きっと応援したいと思うはずだから。字が苦手で本なんか読めないという人も、言い訳ご無用。なんとすでに漫画版もあるというから、誰にだって読めちゃうね!

 なんだか友だちのように思える「ななぴぃ」に最後にこれだけ言わせて。ななぴぃばっかり、モテモテでズルい! 亮介君と一生お幸せにね! ななぴぃがまた恋愛市場に帰ってきたら、いい男かっさらわれそうだから二度と独身になんか戻るんじゃねえぞ!

#読書の秋2021 #僕が夫に出会うまで

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