ピンポンの推しキャラ話 -アクマ編-

先日、名スポーツ漫画「ピンポン」を読了しました。全5巻とボリュームは控えめですが非常にきれいにまとまっていて、何より各エピソードやキャラクターの感情の機微が味わい深く、小細工抜きの最強右ストレートを食らったような感覚で読み終えることができました。

ピンポンには2人の主人公と、3人のライバルがいます。

・お調子者の天才肌、ペコ

・クールで無気力な晩成型、スマイル

・飛べない努力家、アクマ

・背水の雇われ選手、チャイナ

・孤独な帝王、ドラゴン

この物語の登場人物は何かしらの悩みや葛藤を抱えており、天才と呼ばれる二人の主人公、ペコとスマイルでさえも、数々の挫折や苦悩の果てに、卓球に対する惜しまぬ努力を以って勝利を掴んでいます。しかし、その勝利の裏には彼ら以上に努力をした凡人と、天才に一歩届かなかった秀才の姿があります。その二人がアクマとチャイナです。彼らの人間味のある生き様が、ピンポンという物語において、非常に深みのある土壌になっています。

というワケで今回は、ピンポン推しキャラの一人であるアクマにフォーカスを当て、お気に入りのシーンをつらつらと述べることにします。

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アクマは見た目と名前こそ悪党然としており、初登場時は憎まれ口を叩く小物っぽい敵役のようなポジションとして登場しましたが、その実、非常に繊細で、最も読者に近い「凡人」としての立ち位置を持ったキャラです。それでいて卓球に対する情熱、そして執着心は人一倍に強く、彼の所属する強豪校、海王学園の先輩をもってして「盲腸を腫らしてもラケットを握る男」と言わしめる程です。

物語中盤、アクマは部のルールを破ってまでスマイルとの対戦を申し込みます。その頃のスマイルはペコの影に隠れていた才能が開花し始めた絶頂期であり、そんなスマイルに強烈な対抗心を抱いたアクマは、彼のいる片瀬高校まで単独で乗り込みます。しかし、スマイルの圧倒的な才能の前にアクマは成すすべもなく敗れ、その帰路で傷害事件まで起こし、そのまま退部となります。

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こんな書き方をすると「ただの噛ませやんけ」と思われそうなのですが、この退部になった後のアクマが非常にかっこいいのです。

部で卓球ができなくなったアクマはその後、いくつもの卓球道場をめぐり、惨敗を喫したスマイルの戦法であるカットの練習に励みます。しかし、付け焼刃の努力で彼の才能が開花することはありませんでした。そんなことは彼自身も重々承知していたでしょうが、「悔いを残したくなかった」という理由で、彼は最後まで抗い抜いたのです。自分を負かした憎き敵の戦術を真似てまでも。

無様と分かっていながらも、最後まで自分の可能性に賭けるその執念は、敗者としての哀愁を感じさせながらも、それ以上に卓球に対する強烈な誠意を感じさせました。不器用で、それでいて生真面目な彼らしい幕切れであるこのシーンは、派手さこそないものの、とても印象に残りました。


そして、更にここから熱いシーンが続きます。

アクマはその後、卓球から身を引こうとしているペコに自分の本音を伝えます。ずっとペコに憧れていたこと、ペコの才能を認めていること、そして何よりペコに卓球を続けてほしいと思っていること。それまでのアクマからは決して想像できないような、静かで、しかし熱い気持ちを、ペコにぶつけます。血の滲むような努力の果て、自分の無才を認めるしかなかったアクマにとって、才能あるペコまでもが自分と同じ道を辿るのは我慢ならなかったのでしょう。初登場時の減らず口を叩いていた彼とは似ても似つかない、幼馴染としてのアクマの一押しによって、ペコはもう一度卓球に復帰することを決意します。

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悪党のようでありながら、その実最高の相棒でもあるようなアクマというキャラクターは、ピンポンという物語において非常に印象に残る存在で、多くのファンがいるのも頷けます。こうした、正義一辺倒でも悪一辺倒でもない、ゆらゆらとした微妙な人間性を描いている点がピンポンの面白さの一つですね。


さて、アクマ編はこれくらいにして、次回はチャイナを推す回です。アクマ程に強烈なインパクトがあるキャラではありませんが、彼の自信と自虐が入り組んだ絶妙なセリフの数々は、他の作品では見ることができない趣深さがあり、いぶし銀の名脇役といった風情があります。

ということで今回は以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございましたー。

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