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【自作小説】来世はネコになりたい(1)

プルルゥ、プルルゥ…

机に上に置いていたスマホが鳴る。

「はい、もしもし」
「今どこ?」

聞き馴染みのない声がスマホから流れてきた。

「今は…自宅だけど」
「あれ?」

どうやら相手も違和感に気付いたらしい。

「山田くん?」
「うん」

山田とは僕の苗字だ。
どこにでもいる平凡な苗字。

「あー、ごめん。間違えた。山田タカキと今日飲む約束しててさ」

山田タカキとは僕の会社の同期で、苗字が同じ人。
僕は山田翔太だ。

「あー、そうだったんだ」
「うん、そうそう。山田くんは元気?」

とってつけたように、僕の今の健康状態を聞いてくる。
ちなみに、この間違い電話の相手も僕の会社の同期で、確か鈴木くんだ。
入社してすぐに僕ら同期は3ヶ月もの研修期間があり、その間は同じ研修施設の中で文字通り生活をともにした。
それから各々の部署に配属されてから約5年経ち、話をするのも久しぶりだ。

「うん、元気だよ」
「そっか、また機会があったら」
「うん、そうだね」
「それじゃあ。邪魔しちゃってごめんね」
「ぜんぜん、いいよ」

僕は静かに相手が電話を切るのを待った。
別に、邪魔も何も自宅でぼーっとYouTubeの動画を見ていただけだから気にしてないんだけど、僕はだるそうに一時停止されているYouTubeを再生した。

鈴木くんとは新入社員の研修期間中に同部屋だった。
でも、あまり仲良くはならなかった。

鈴木くんとは、というか、僕は同期の誰ともあまり仲良くならなかった。
100人近くいた同期の中には一匹狼を気取っているようなキザな人もいたけど、僕はそういうわけでもなく必要最低限のコミュニケーションはとっていたつもりだ。

でも、研修期間がはじまってから1週間、2週間、1ヶ月と経ち、だんだん自分が孤立していることに気付いた。

研修後に特に話す同期もいないし、食事に誘われることもない。

僕はそんなのあまり気にしない性格ではあるけど、昼食のお弁当を食べる時間だけはなんだか一人で食べるのを見られるのが恥ずかしくて、僕はちょくちょく昼食を抜いた。

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