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【自作小説】来世はネコになりたい(3)

「ニッシー、会社辞めるってさ」

デスクワークをしているときに、同じフロアで働いている同期の深沢、通称フカシに話しかけられた。

「へ~、そうなんだ」

ニッシーとは、同期の西沢のことだろう。

例のごとく、西沢とも特に仲がいいというわけではないが、西沢はコミュニケーション能力(コミュ力)が高く、僕にもフランクに話しかけてくる数少ない同期だった。

「転職するの?」

とりあえずフカシに聞いてみる。

「そうだと思う。転職先は聞いてないけど」

入社して5年目にもなると、同期の退職は珍しくもない。

それどころか、同期の退職にちょっと慣れてきている。

半分とはいわないが、入社時からもう1/3程度の同期は退職したのではないだろうか。

一番最速だったのは、3ヶ月の研修が終わってから各部署に配属されてすぐに有休を使い切ってから辞めた同期もいた。

研修中に作ったグループLINEも、今ではこういう辞める人が出てきたときくらいしか動かない。

自慢ではないけど、うちの会社は業界内ではそこそこ名が知れたBtoBの製造業だ。

収入に関しても安定している。

だから、辞めていく同期たちを見てもったいないなぁ、と思うけど口に出して言ったことはない。

西沢はどうするのだろうか。

西沢の性格なら、他の会社でもなんなくやっていけるとは思う。

お昼頃にフカシから聞いたそんな話も仕事を終えるころにはすっかり忘れていた。

残業を3時間程度してから20時半頃に家に帰宅した。

いつもの日課でスマホを見ると、同期のグループLINEが動いている。

西沢の別れの挨拶から始まり、コミュ力の高いその他の同期たちの別れを寂しがる言葉や退職後のエールの言葉が飛び交っている。

「みんな、飲みに行こうよ」

西沢からの提案。

これもよくある流れだ。

もちろん、僕はスルーする。

いつも疑問に思うけど、こういう流れになってもグループLINEの方には飲みについて詳細な話が出ることはない。

参加者だけで新たにグループLINEを作って、そっちで話しているのか?

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