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「成層圏の灯シリーズ 鳥人ヒロミ ~天上の灯り・地上の灯り~生きていくために」(新書館)

(「成層圏の灯」シリーズ。現在、電子書籍版で入手可能です。
作品感想、ネタバレを含むのでご承知おきください。)

 存在を否定された子どもは生きるのが辛い。ましてやそれが実の母親になら、なおさら。このシリーズの主人公は、幼少時に実母に虐待を受け、 PTSD(精神的外傷)を抱える喜瀬川英。英の傷は実母の弟である画家の喜瀬川聖と暮らすことによって癒されたが、その関係は近親の情愛を超え、さらに深い傷を生むこととなった…。

 シリーズを通して性表現は激しい。抱く相手を飲み込まんばかりの英の渇望が繰り返し描かれる。肉欲はいったん満たされても、しかし心は常に渇いてる。彼にあるのは見捨てられることへの懼れ。心底欲しいものは強く確かな絆。 
カメラマンとして認められつつある英は、表面的には何不自由ない。外見もまあまあ、金もあり、何より表現者として才能がある。それに対して、英に一目惚れされた佐伯徹には何もない。正直、読んでいてなぜに英が徹にそこまで入れ込むのか?とさえ思っていた。ちょっと顔がキレイなだけで軽薄でクスリをやったりする両刀の男。本人自身が自分にはそこまでの価値がないと悩み、同じ男としての劣等感に苛まれ、いったん逃げ出すのもむべなるかな。 
愛されることが負担になる関係ってのも確かにある。 
ボーイズラブの常なる障害は同性愛が社会的には早々認められないという点だが、二人もその壁にぶちあたる。徹は怖かったのだ、社会的に何もかもを棄ててしまうのが。さらには英の過去、叔父である聖との近親相姦の絆とも闘わねばならなかった。市井に埋もれる男が踏み込むにはそれなりの覚悟が要る。 
徹がその覚悟に至るには紆余曲折があり、みっともなくも笑えるタッチで描かれるが、私はそこでようやく徹の魅力が分かった気がした。 
何を読んでも私はあまりキャラに萌えることはない。じゃあホントに萌えはないのか?と最近になってようやく自分の嗜好がはっきりしてきた。
「関係性」こそがツボだったのだ。

 名前の通り既に聖なる"天上の灯"そのものの存在になり、甘い死へと誘うような美しい叔父・聖。彼の遺した絵こそが表題の「成層圏の灯」であり、それは夢のように甘美なテーマだった。唯一無二の相手を求めて、生きる場所を求めて、それでもあがく英と、焦らしては逃げ、逃げた筈が追う立場に変わる徹。甘美な死と地上の生、その対比が見事に収束するラストに胸がすく。 
そう、人は一人では生きていけない。そして生きるよすがが必要なのだ。

(補足*昔、サイトで公開していたBL作品紹介文に少し手を入れて再掲します。<24のセンチメント>1)


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