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寡黙で熱い渇望の~『魔道祖師』墨香銅臭(ぼっこうどうしゅう/モーシャントンシウ)著

*ネタバレ感想になりますので未読の方は下記読まないようになさってください*ダリアシリーズユニ 電子版・紙版ともに販売があります


数年前に高校来の友人とLINEで久々にチャットしてたら、中華BLにハマって自力で翻訳しながら読んでると宣う。相変わらず斜め上に情熱的なオタクだな~って大受けしつつ、私にはそこまでの情熱がもてないだろうと済ませてた。元々大きな嗜好は似ていてもハマる作品はだいぶ違うので、お互いにさほど勧め合わない。

が、たまたま前知識ゼロでアマプラで見た「天官賜福」のアニメが絵が美麗だし、なんだかとぼけた美形の主人公が総受けというか、あれこれBLですよね?と。ただアニメだとどうしてそこまで主人公が周囲にはバカにされているのかの背景とかがさすがに分かりにくい。電書で買って読んでみたらなんとまだ翻訳版は途中までで全巻出るまでまだだいぶ先だという。ショック。そこではっと気が付いた、もしや友人がハマってたというのはこの作家さんでは??(今夏久々に帰省して会うので聞いてみよう~~と思っていて、まだ聞いてない。)

しょうがないので、既に完結まで翻訳版も発行しているらしい「魔道祖師」を全巻一気買いして読み始めたら、けっこう闘いの場面とかエグイ中に微糖が散りばめられている。
寡黙で真面目な美形が主人公(悪童だけど有能で人気者の)魏無羨に嫌がってる風を見せながら密かにずっと思い続けてきたのが読者にはひしひしと伝わる。が、肝心の本人はまさか気のせいと済ませている。なので微糖の出し方が面白い。特にたった一杯のお酒に酔った藍忘機の行動がめちゃくちゃ可愛い。顔には一切出ないのに行動だけひたすら素直に子供っぽく我欲丸出し。温寧を邪魔にし、あっちに行けと言わんばかりに蹴とばす、部屋に戻ると鬼ごっこ。捕まったら手を舐めるぞと言われるとわざと捕まる。
舐められるとハッと隅に蹲り衝撃に耐えている。なんなのこの可愛い生き物は。美青年がいきなり幼児化するのに、目線だけは熱く魏無羨のことを「わたしのもの」「ほしい」とか言う(のだが、たまたま彼の剣を背負っていたのでそのせいかと思う魏無羨;)

こういう可愛いイチャイチャで和ませつつ、本流は非常に重たい。
出自でずっとバカにされながら、這い上がるように頂点に立った男。その腹心。彼らのやったことは非常にあくどい一方、そこまでの心理を想うとそれはそれで非常に切ない。
特に悪役としてのごろつき薛洋が暁星塵と宋嵐にやったことは悪辣で酷いモノなのだが、自分で追い込んで魂までもボロボロにした暁星塵のことをどうにか蘇らせようと魏無羨に頼む。
気高い道士として並び称された二人の関係を妬んでいたのか壊したかったのか。悲惨な子供時代を知り、だからといって慰めるような言葉をかけるとかではなくそっとに毎晩飴を枕元に置いていた暁星塵。そしてそれを大事に懐に入れていた薛洋。自らの手で追い詰めて殺しておきながら、散らばった魂魄を搔き集め、生き返らないことをなかなか受け入れられない。
焼けつくような羨望と嫉妬の中で生きてきた。本当は優しくされたことが大切だったのに素直にそれを認めたら生きていけなかった。
そして暁星塵に懐き同じように救われた阿菁が亡霊になった後も彼を守ろうと動いてきた一連には涙でした。

魏無羨が義を見て動く度にどんどん評判は落ちるわ奸計にハマっていくわ。
酷い悪名を背負わされた前世の流れが明らかになっていくと、無責任な噂を流す現世にも似て。簡単に手のひらを反す人たち。
「正義」を声高に叫び、戦争を起こす人たちの「正義」というもののあやふやさ。それに簡単に煽動されてしまう世の中を燻り出すような、何もかもを魏無羨のせいに押し付け、正義の討伐だと言う輩たち。
義兄弟である江澄は何をやっても彼に敵わないこと、父母の不仲、父に愛されていないのではという劣等感もあり、それでもずっと庇い続けていたのに、彼の後始末に奔走させられ。
魏無羨のせいではないと分かっていながらも、引き金にはなっている彼のせいで父母も死に一族の危機もあり、慕っていた姉の死もあったことで前世では最後彼をひどく憎むまでに至っていた(でもその裏には結局愛がある。)

一見他者には常に水と油のように対立していた藍忘機は、ずっと彼の扱っている邪道の術「鬼道」が暴走し彼自身に制御できなくなるのを懸念していた。
そうなる前に囲い込みたかったのだ。でも間に合わなかった。
戻ってきた魏無羨を見出した時の藍忘機はおそらくは二度ともう離さないと心に誓っていたんだろうと思う。
ごく一刻も目を離さず守りたい。ずっと一緒にいたい。
意識がある時には決して言葉にはしないその渇望が酔って素直になった時だけ出てくる。
3巻までは本当に凄惨な場面も多く微糖なのに、4巻になって想いが通じ合ったとたんにイチャイチャモード爆裂でびっくりでした。

実は読んでいて、他人に頼りっぱなしの某って怪しいと思っていたら、やっぱり最後まで尻尾を隠しつつ、他人を動かし望む状態に持って行ってた。
世の中で他人にバカにされてでも、自らの爪を隠し他人を動かし思う状態に持って行った某が一番賢かったんだろうなと思ったり。
このことが出てきた時まだ残りページがだいぶあったので、あれまだどんでんくる?おかしいなと思ったら、そこはそれで終わりで(他人を動かしてただけなので本人はやっていない)、残りはイチャイチャと過去別視点番外編で納得した。いちゃいちゃは心の健康に良いですね。

<24のセンチメント>22


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