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それは私の親指です

田中一郎は、何よりも親指を愛していた。というのも、彼の親指は他の誰よりも長く、力強く、特別だったからだ。

ある日、一郎が大好きなジャズを聞きながらピアノを弾いていた時、突然彼の右の親指が飛び出し、音楽に合わせて自由に動き回り始めた。びっくりして親指を掴もうとしたが、親指はハッと驚いた一郎から逃げて窓の外へ飛び出していった。

次の瞬間、彼の親指はジャズのリズムに合わせて空中でダンスを始め、人々が驚きの声を上げる。一郎は焦った。でも同時に、彼の親指がこんなにも優れたダンサーだったなんて、ちょっと誇らしくも感じた。

「それは私の親指です!」と一郎は大声で叫んだ。周りの人々が一郎を見て、驚きと感嘆の声を上げた。

親指は最後の大技を見せた後、静かに一郎の手に戻ってきた。一郎は親指を見つめ、しみじみと言った。「君はすごいな。でも、こんなことは二度としないでほしい。私の心臓に悪いんだ。」

そして、その日以来、一郎の親指は二度と踊ることはなかった。しかし、ピアノを弾くたびに、親指は特別なリズムを刻み、一郎はその度に微笑んだ。だって、それは彼の特別な親指だったからだ。

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