『あおさんの思い』-呉にて

『あおさんの思い』という絵本がある。
作者はむらたともこさん。文芸社から出版されている児童向け絵本である。

絵本は、まいにちまいにちいたずらに明け暮れる妖精のきいちゃんに、あおさんが「このままでは悪魔になってしまうよ」と忠告するところから始まる。
あおさんが、悪魔ではなく、天使になる方法を教えてくれる話だ。

絵には可愛らしい妖精と、どこか神秘的な風景が描かれている。

「あんまり悪いことしとるとあかんよってことを、どうしてもこどもたちに伝えたくてね」とむらたさん。
過去に小学校のサポート教員として、学級に入ることがあったそうなのだが、たまたま担当した1年生のクラスがあまりにも荒れていたそうだ。
1年生のクラスの状態がどうあるべきかなどについて私は深く言及できないが、とにかくそのクラスは、授業にならない、1年生らしからぬ言動が飛び交うなど、今まで見てきた中で一番大変な状態だったという。

「絵本を読み聞かせれば、なんとか落ち着いてくれるのではないか?」
「絵本を通じて、優しい心を持ってくれるのではないか?」
ということから、絵本の制作が始まったとおっしゃっていた(と記憶している)。

その戦略はみごと成功し、読み聞かせの時にはみんな座ってきちんと聞いてくれたそうだ(すごい)。
読み聞かせの後も、こどもたちは積極的に「天使になりたいから!」と目の前のことにきちんと集中してくれる子が増えたという。

「絵本のちから、すさまじい」と思うと同時に、「絵本もれっきとした伝達媒体である」ことを再認識した。

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むらたさんとは、私が呉というまちに出かけた時、とある飲み屋さんで出会った。

呉は、第二次世界大戦に向けた航空母艦や戦艦大和が造られた軍港都市である。また、映画「仁義なき戦い」やその他ドンパチ系映画の撮影舞台に抜擢されるような雰囲気を醸し出しているためか、それ相応のずっしりとした空気が流れていると、まちを歩いていて感じていた。
海も山も近く、他の地域に比べて湿度も高かったことや、話している言葉が私が普段聞き慣れているものではないこともあったと思う。
これをうまく言語化できないが、「なんだか1つの国に来たな」と感じた。

そのような独特な空気があるなか、日曜日の夜、ごはんを食べる場所を探し回って見つけた飲み屋さんでよくしてくださったのがむらたさんだった。店主の方も、お客さんも優しくしてくださる人ばかりだったが、女性が隣にいてくれるのは少し安心できた。そこでは、呉で行っておくべき場所、最近おきた火事、「がんす」など、一見さんでも楽しめる話をしてくださった。また
、むらたさんは普段、イラストのお仕事を受けたりしているらしく、今の私の養分になるような話もたくさんしてくださった。

その日曜日の夜だけではなく、後日、宮島の観光案内をしてくださるとのことでもう一度会う機会をいただいた。その時の車内で、冒頭の絵本をいただき、絵本作成までの話をしてくださった。

教科書でも、絵本でも、動画でも、なんであれ「伝達媒体」である。それを作っている本人が意識していなくても。
ただ、「作るもの」は「何かを伝えるものであるべきだ」と考えてしまっている私は、純粋に「これを伝えたい」と思ってできたものに対して、畏敬の念のようなものを覚えてしまうのであった。






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