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よくないことを引きつける数珠に出会った

よくないものってこの世に存在するんだな、そして世の中には不思議なことって本当にあるんだなと感じた出来事でした。

葬儀屋さんがくれた数珠

そのころ、納棺会社の新人納棺師だった私はT君と社用車で一緒に行動していました。T君は私より2週間くらい前に入社していた、年の近い先輩です。

東京からいつも行く埼玉の葬儀屋さんまでは高速に乗らずに行くため、正直遠く思うのですが、都心を抜けて緑が増え、田んぼが広がる景色の中を進んでいくのは楽しいものでした。
当日はお棺をお預かりしてから、葬儀担当者さんとご葬家に向かう流れでしたが、時間に余裕があったのでおしゃべりをしていました。
この担当者さんはとても気さくで、新人の私たちが行くたびにいろいろと親切にしてくれる方なのです。

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「ねえ二人にさ、プレゼントがあるんだよ。」
彼がそう言って私たちに渡してくれたのはブレスレット型の数珠でした。小さな白い石が連なっている中に、アクセントとしてそれぞれに水色とピンクの石が2つ付いています。数珠はゴムひもタイプではなく、針金のような素材で石をつないでいて、手に巻きつける作りになっていました。
立派な納棺師を目指して頑張ってねと、T君には水色、私にはピンク色の方をくれました。

見た目はとても可愛らしい数珠で、納棺の仕事中につけていても自然に見えるような控えめのものでした。葬儀業界の方がお守りとしてよく付けている数珠を、T君も私もまだ持っていなかったのでとても嬉しかったことを覚えています。
その日は二人とも大事にバッグにしまって、現場に向かいました。

あれ、なんかうまくいかない

数日後にもらった数珠を初めてつけて、よし頑張ろう!と車で現場に向かったのですが、道を間違えて開始時間ギリギリに滑りこむということになってしまいました。
失敗しちゃった。もっと余裕を持って行動しよう!と、早めに事務所を出ると今度は忘れ物をして、遅刻。
また失敗しちゃった。今度はちゃんと持ち物を確認して、ご葬家までの時間にも余裕をみて…と途中までは良かったのに今度は納棺現場でミスをしてしまいます。しかも頻繁に。

あれなんか最近うまくいかないな、と思いました。
ああ、これは私がまだ新人で努力が足りないのに、手に余計な数珠なんてつけてるから気持ちがうわついてしまったのかも。数珠がない方が仕事に専念できるだろうし、もっとちゃんと現場をうまくできるようになってからつけよう!と考え直して、仕事の時は数珠をつけずに時計だけをしていました。

すると、(慎重に、ミスがないように)と集中していたのもあってか、うまく仕事をこなせるようになってきました。
わあ良かったー。やっと納棺の仕事に慣れてきたかも!もう大丈夫だろうから、またあの数珠つけて頑張ろう!
と数珠をつけると、車が事故を起こすほどではないのですが危なかったり、絶対大丈夫と思っていたことでありえないミスをしたりと、トラブルが続くのです。

たいてい、数珠は仕事を終えた後に手首から外してバッグのポケットに入れておくことが多かったので、朝に数珠をつけ忘れることもありました。
「あ、今日はつけるの忘れたな」
と途中で気づいても、まあいいかとそのままつけずに1日を終わることもあって、そういう日は何事も起きませんでした。

もしかして数珠のせい?

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2ヶ月ほどしてそんなことに気付きました。
数珠をつけた日に限って何かが起こっている気がします。
試しに、自分の体調も万全で、葬儀担当さんも優しい方で、かつ故人様にも特に何の問題もなさそうな現場に数珠をつけて行ってみました。するとやっぱり普段では考えられないような事態が起きるのです。


数珠のせいだ!そう気づいてからは、もう触るのも怖いのでバッグに入れっぱなしにしてありました。バッグに入れてるぶんには、何も変わったことは起きませんでした。
(あの数珠なんなのかなー、なんであの葬儀屋さんはあんなのくれたんだろう?)
数珠をくれた葬儀屋さんに会うタイミングもなく、会ったとしてもなんて言ったらいいか困るなぁとなんだかもやもやしたまま日々が過ぎました。

しばらくしたある日に事務所でT君が、ねぇちょっといい?と聞いてきました。いいよ、なになにー?と気軽に返すと、
「あの数珠なんか変じゃない?」
と言われてぞっとしました。
「あの葬儀屋さんにもらったやつ?」
うん、とT君。
「もしかしてよくないこと起こってる?」
「うん」
うわーまじですか!

T君によるとやっぱりその数珠をつけた時にだけ、悪いことが起きているとのことでした。
「私も!だから最近は外してるんだよね。やばいよ、あれ。」
(なんでそれ早く言ってくれないの)みたいなT君の視線を感じましたが、仕方ないです。まさか同じことが起きてるとは思わなかったし!

お焚き上げに送ろう

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T君と相談した結果は、「お焚き上げしよう!」でした。
会社の事業の一つとしてお焚き上げというものがあったからです。

お焚き上げ・・想いのこもった品物などへ、宗教家によるご供養やお祓いをいただいたのちに火を入れて燃やし、あの世にお送りすること。

通常は納棺の儀式で、故人様をお棺へとご移動したあとに残った故人様のお布団をお焚き上げとして引き取ることが多かったのですが、お布団以外にも仏壇や人形、写真などをお預かりすることもあります。

この数珠もお焚き上げで供養してもらった方が絶対いい!と、私たちはその日のうちにお焚き上げの品物リストに数珠を入れました。

その後は、普通の日々が戻ってきました。
数珠の葬儀屋さんはその後会社を辞めてしまったようですが、頂いた数珠をお焚き上げに出したことも、悪いことが続いたことも言えないままに終わりました。


ああ、あの数珠ね

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それから何年も経ったある日、会社の事務員としてAさんが入社してきました。
Aさんは美人さんで、なんだか不思議な魅力のある人でした。
優しくておっとりした感じで話を聞いてくれるので、私は彼女といろいろなことを話すようになっていました。そのうち彼女の霊感が強いらしいこともわかりました。

ある日の他愛ない話の中で、ふとあの数珠のことを思い出しました。
「ねぇAさん、私は前に、身につけてるとよくないことが起きる数珠をもらったことがあるんですよー」
「えーそうなんですか、どんな数珠でした?」
そう聞かれて、私は頭の中にあの数珠を思い出していました。
「小さな白い石が連なってる間に、2つだけピンクの石がある数珠なんですよ」
そう言ってAさんを見ると、彼女はメガネの奥の目を細めて、私の頭の方を見ています。(あれ?Aさんにも見えてるのかな?)私が思い浮かべた画像を一緒に眺めているような気がしました。

ああ、あの数珠ですね。とAさん。
いま数珠見えてましたよね?と聞くと、「いえ、見えてないんですけど、わかりました」とにっこり。「???」
不思議な人です。
こんなこと聞いてもわかるのかなと思いながら、なんであの数珠を持つと悪いことが起きたんでしょうか?と聞くと、
「あれは元々の石が良くなかったんだと思います。だからその石で作られた数珠が良くないものを引きつけたんです。」とAさん。

なるほど!と思いました。だからT君の身にも起きていたわけです。
「その数珠は持ってない方がいいと思いますよ」
はい、2つともお焚き上げに出しちゃいましたと言うと、Aさんはにっこり。


この話はこれでおしまいです。
私が手にしたあの数珠が良いものを引きつけるものだったら凄かったのになぁと思いますが、それだと数珠の力に気がつかなかったかもしれません。
石が力を持っていることを実感した出来事でしたが、その後、納棺師の仕事では様々な不思議にたびたび遭遇しているので、また書きます。

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ところで、
私とT君が持っていた以外にも同じ石から生まれた数珠があるんじゃないかな、と思ったりして。


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