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「誕生日の贈り物」

愛しい彼女は、毎年僕の誕生日になると欠かさずプレゼントをくれる。とても、優しい人なんだ。

初めての誕生日は通勤バッグだった。
「あなたのカバンすごく古いから、新しいのにしなさいよ」と言って、古いカバンを捨て、代わりに黒い本革のカバンを送ってくれた。

次の誕生日には、靴を送ってくれた。
「男は足元をちゃんとしないと、今履いてるものはあなたに似合わないよ」と言って、靴箱にある大量の靴は全て処分をしていた。代わりに新品の靴を三足。案外それだけあれば十分で、何一つ不便なく、むしろ快適に暮らせるようになった。

次の誕生日には洋服、その次は下着。その翌年は最高のサロンでカット、カラー、パーマ、メンズネイルまで。
次第に僕は彼女好みの僕になり、それは自分にとっても嬉しいことだった。
愛されていると感じた。だって、ここまで僕に執着してくれる人は、いなかったから。

彼女との関係は続き、このまま結婚し、最後の人になると確信した年の誕生日。
その年に彼女が送ってくれたプレゼントは、ピアスだった。
しかし、その時僕の耳に穴は開いていなかった。
「開ければいいじゃない、似合うわよ」
彼女が送ってくれた手前、断ることはなく、その年僕は初めて身体に傷をつけた。

その翌年、彼女が送ってくれたのはまたもやピアスだった。
しかしそれは、いわゆるボディピアスという形状のもので、ファッションピアスよりも太いゲージの穴が必要だった。
「開けてあげるわよ、脱ぎなさい」
そのピアスは耳用ではなく、男の僕の乳首にはめるものとして購入されたものだと知った。
さすがの僕も痛みの怖さから戸惑ったが、ここまで作り上げてもらったのだから、未知なる恐怖にも立ち向かうべきだと思った。
小さな乳首の横にあてがわれた針先が、一気に僕を貫く。その瞬間、経験のない激痛が僕を襲った。心臓が乳首の先に移動したように、鼓動の中心が怪しく光るピアスの重みに響いた。

彼女は翌年も、その翌年も、僕にピアスを送り続けた。次第に僕の全身にはバランスよく金属が取り付けられた。裸になり鏡の前に立たされると、そこに映る自分の姿が自分ではないみたいで、美しさに見惚れた。
彼女は天才だと思った。そこまで手をかけてもらえる自分は、世界で一番幸せだと感じた。

ピアスを身につける場所がなくなったのか、ある年にはタトゥーを彫ってくれた。
彼女のオリジナルデザインを、彼女が直々に。
マシンがジーッと音を立て、肌を引きずるように描いていく様子は今でも鮮明に覚えている。楽しそうな彼女の表情。皮膚を焼くような痛み。幸せだった。

彼女との暮らしも二十年が経過した頃、その年に送ってもらったプレゼントの箱に入っていたのは“メス”だった。
意味がわからずきょとんとしていると、彼女は「あなたに乳首はいらないわ」とそういった。今はおしゃれで乳首を切り落とす人もいるのよ、と。
僕はおしゃれに疎く、時代が変わっているのだと、そう思った。
痛みは怖かった。それでも彼女に施してもらった痛みたちを乗り越えてきた誕生日の記憶が、僕を躊躇させることはなかった。
以前つけてもらったピアスをつまみあげられ、僕は目を閉じた。
数秒の激しい痛みを感じ、その後は初めて乳首にピアスを開けた時のような熱さを感じた。
「いいわよ」
彼女の合図を受け自分の乳首を見下ろすと、そこには焼きゴテで止血された僕の新しい胸があった。こんな変化は今までになく、僕は高揚した。
彼女はすぐに軟膏を塗り優しくガーゼを当ててくれたが、実はあの時僕はもっと眺めていたかった。彼女の手によって生まれ変わっていく自分の姿に陶酔していた。

翌年は耳たぶを切り落とした。「その福耳、ちょっとあなたの顔には似合わないわ。私が預かってあげるわよ」と、彼女はそういった。
切り落とす際、肩にかけたタオルに血が滴り落ちるのを感じた。あぁ、こうしてまた僕は彼女に作りあげてもらえるのだと多幸感に包まれた。

翌年は、誕生日の数ヶ月前から舌に開けたピアスにテグスを通し、きつく縛り上げる生活を送った。その間僕はまともに喋れず、ジンジンと痛みが響く舌で舌っ足らずに喋る僕を、彼女は心底愛おしそうに見つめた。まるで言葉を覚えたての子供が喋るのを見守るように。
何度もきつく縛り直し伸びた穴の亀裂は、あと少しで舌を二つに分裂できるところまで進んだ。そして誕生日当日、わずかに残った数センチを、彼女のメスにより切り離してもらった。

そうして過ごしてきた誕生日。今年で五十を迎えた今の僕に手足は無い。
どこへ行くにも彼女が車椅子を押してくれて、毎度の食事は彼女が口まで運んでくれる。
下の世話を何もかも自分ではできなくなった僕を、彼女は今まで以上に愛してくれた。
眠る時は抱きしめ、無くなった腕や足の痛みに苦しむ夜は、僕が落ち着くまで穏やかな声で歌を歌い、身体を撫でてくれた。

僕は、身に余る幸福な時間を過ごし、本当に生まれ変わったのだと思った。
彼女から毎年送られたプレゼントによって、不要なものを削ぎ落とし、装飾品だけでなく人間としての機能も整理をしてくれた。
僕の姿形を作り替え、心底嬉しそうに面倒を見てくれる彼女は、僕にとっての女神だ。

歳を重ねるごとに、僕は若返っていく。
一人ではなにもできない今の僕は、乳幼児といったとこだろう。
きっともう少し。
この人生に感謝したい。

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