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「君は猫」1

昼下がり。

私はデスクに向かい、パソコンと睨めっこをしている。

今日は天気が良い。

窓から入る日差しが物語っている。

こんなに天気がいいのに、3日は外に出ていない。

仕事、仕事、仕事。
後回しにしたツケが回ってきた。
自業自得ってやつだ。

「あーあ!馬鹿みたいだなー!こんなに天気がいいのに家に篭もりっきりなんて!ねぇ、そう思わない?」

私が問いかける先には、日光に当たりながら静かに本を読む男の子。
我が家の中で、一番日差しが入るこの窓辺には、人をダメにするクッションを設置している。
私はこの場所が家の中で一番好きなのだが、いつの間にかこの子の特等席になっていた。

「…僕は家が好きなんで」

「……はぁ。そうかい。でもね、君がそうでも私はね…今すぐに外に行って買い物して甘いもの食べて酒飲んでフラフラしながら可愛い子をお持ち帰りしたい気分だよーうがーー!」

フラストレーションを声に任せて発散する私を、表情一つ変えずに見守る男の子。

ふんっ、あほらしっ。

この子は不思議な子だ。
あまり喋らない。
そして笑わない。
所謂ワンコ達のように、尻尾振って構ってアピールなんて少しもしない。
ツン、として、シレッ、としてる。

楽しくないのかと思えば、そうでも無いらしい。
バーで知り合い、私が忙しいことを知ると、デートはしなくていいから家に行きたい、と。

「私これから仕事するけど、本当に家にいるだけでいいの?」
「はい、あまねさんの家にある本を読ませてください」

そんなこんなで、私が仕事をしていると現れて、部屋の隅で静かに本を読んでいる。

私の仕事が一段落をすると、一緒に食事を取り、お酒を飲み、気持ちいいことをして、一緒に眠る。

朝は必ず私より先に起きていて、既に定位置で本を読んでいる。
声を掛けても昨夜の彼の姿は無い。

ツンッ…シレッ…

何で私のとこに来るのか、イマイチ掴みどころが無い。

「ねぇ…君は暇じゃないの?私はずっと仕事だし」

「楽しいです、本、沢山あるので」

ふーん、本ねぇ…まぁいいけど。

「…あーー!もういい!休憩!休憩にしましょ!」

限界を迎えた私は、堰を切ったようにキッチンへ向かった。

「飲み物とお菓子…何か甘いもの…」

「…あまねさん、お菓子より果物の方がいいですよ、僕切ります…」

私がジャンクなもので欲を満たそうとしていると、男の子もキッチンに入ってきた。

「くだもの~…せめて生クリームもつけて…」

男の子は私に目もくれず、果物の皮をスイスイと器用に剥いていった。

りんご、キウイ、メロン
お皿に可愛く盛られた果物達。

男の子は何気なく冷蔵庫を開けると、生クリームを取り出し、果物の上と、お皿の端に可愛く飾り付けてくれた。

「やったー生クリームーー!私の可愛い子猫ちゃん…優しいのね、大好きっ」

キッチンに向かう男の子の背中に勢い良く絡みつく。

「ちょっと、あまねさん止めてくださいよ、まだ生クリーム持ってるから…」

「んー…?」

絞り袋を持つ右腕を捕まえ、左手は絡みつくように肩を抱く。

「ねぇ…君の方がいいな」

男の子の耳に囁く。
肩を抱いていた左手で、皿に盛られた生クリームをすくい、彼の口元に運ぶ。

「ほら、君も甘くて美味しそう…」

男の子の手を引きベッドルームに向かう。
カーテンを閉め切っている部屋は、昼か夜かわからない、いつでも好きな時間になれる、そんな空間。

連れてこられた男の子はまだ固い。
解すように、洋服を一枚ずつ脱がしていく。

この子は線が細い。
肩が薄く、腰骨がはっきりと出ている。
お尻なんて私の拳ぐらいしか無いんじゃないか?

「相変わらず細いねぇ…ちゃんと食べてる?」

「食べてます…心配なんてしないでください」

私が寄れば、逃げていく。
そういう子。

ベッドの上に座り壁に寄りかかると、足の間に男の子を座らせた。
後ろから抱きしめ、耳を唇で、噛む。

「…っ」

敏感。

顔を見られるのが苦手だから、始めはいつも、後ろから。
安心して、スイッチを入れてね。

唇を首に滑らし、うなじに口付ける。
髪の毛の生え際が、特に弱い。

「……ぁ…っ」

もっと、もっと柔らかく、とろけて。

逃げる上半身を押さえつけ、背中に唇を落とす。
そっと、私の吐息さえも触れているように。

ゆっくり、ゆっくり、愛し、溶かしていく。

「…あまねさんっ…もう、僕…」

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