「奉仕」前編
射精禁止から6日目の夜。
今夜はあまねさんと会う約束だった。
「少し疲れてるから貴方なりの気持ちいい時間を、よろしく」
メッセージが一通。
返信をしてみると、どうやら肉体的にも、精神的にもお疲れのようだった。
そんな時に求めて貰えることが、とても嬉しかった。
それと同時に、戸惑った。
あまねさんを気持ちよくさせるには…。
お疲れの身体を癒す?
お疲れの精神を癒す?
方法は?
悩んだ。
午後の仕事が手につかない程、頭はあまねさんとの時間でいっぱいだった。
僕にできること…
あまねさんが好きなこと…
僕だから、わかること…
-その日の夜
とってあったホテルの部屋で、あまねさんと乾杯をする。
「はー美味しい、最高。この時間があるから頑張れるわー」
あまねさんの好きな白ワインで出だしは上々。
なんて事ない日常の会話をしながら、あまねさんと飲むお酒は格別に美味しかった。
ワインの2本目が空く頃、そろそろ…
「あまねさん、ちょっと、失礼します…」
僕はあまねさんに一言伝え、シャツのボタンを外し始めた。
あまねさんは何も言わず、ワインを飲みながら様子を伺っている。
僕はあまねさんが見ている目の前で裸になった。
普段から鍛えているが、あまねさんに会う予定が入ると、トレーニングも一段と気合いが入ってしまう。
テーブルが無い広い空間に移動し、椅子に座ったままのあまねさんから少しだけ離れ、部屋の隅に四つん這いになった。
あまねさんは僕の様子を見ている。
「今日はあまねさんに楽しんでもらえるように頑張ります、見ていてください」
僕はそう告げると、目隠しをつけ、四つん這いのままその場を回転しはじめた。
1…2…3…4…5回…
アルコールが入った状態で、目隠しをして行う回転は思ったよりフラついた。
僕は四つん這いのまま、あまねさんの元へ向かった。
フラつきながらも、ゆっくりと、さっきまで人として過ごしていた部屋を頭に思い描きながら、四足歩行で進んで行った。
手に触れる絨毯の感触に変わりはなく、むしろ身体に触れるどこにも変化が無く、部屋はこんなにも広かったのか、向かっている方向は合っているのか、不安になった。
部屋は、静まり返っている。
僕の動く音と、抑えたいと思うほど不自然に繰り返される呼吸だけが聞こえる。
あまねさん…
暗闇を進む犬のように1歩ずつ、そろり、そろり、と進んで行くと、額が固い何かにぶつかった。
手で確認すると、壁のようだった。
おかしい。直進すればあまねさんの脚元に到着する計算だったが、そもそも最初の向き自体間違えていたようだった。
ゆっくりと後ずさりし、どちらに方向転換しようか迷っている時だった。
「…ほら、こっちよー…おいで」
あまねさんの声だった。
僕の右耳がピンと立ち、あまねさんの居場所を計算する。
尻尾があれば、ブンブンと振ってしまっていただろう。
ゆっくりと右に方向転換し、1歩ずつ進んでいく。
「いいこねーおいでおいで」
あまねさんの声が近くなってくる。
もうすぐ、恐らくもうすぐあまねさんの脚元だ。
ぶつからないように、慎重に進む。
あれ…なんか人の体温みたいな、人が凄く近くにいるような、匂い?息?気配みたいなものを感じる。
耳をすませるけど、あまねさんの声も音も急に無くなった。
でも…なんとなく、あまねさんの匂いがするような。
周囲を確かめるように鼻を効かせて進もうとすると、頭上から声が落ちてきた。
「…わんちゃん、主の匂いを嗅ぎ分けてここまでこれたの?でもそんなところクンクンしちゃだめよー」
言葉を理解すると同時に、目隠しがズラされ、不敵な笑みで見下ろすあまねさんが目に入った。
そして僕は、あまねさんがわざと広げた足の間を、鼻でクンクンと嗅ぎ回っていたことがわかり、思いもよらないあまねさんの行動に、急激に心拍数が上がってしまった。
目隠しはすぐに戻され、またもや僕は自らが施した暗い世界に引き戻された。
「あ、あまねさん、お手数なんですが、僕を後ろ手で拘束していただけませんか」
あまねさんにお願いすると、僕は正座になり、手を後ろに回してジッと待った。
あまねさんは素早く僕の腕を拘束し、恐らく椅子に座った。
僕は裸で、目隠しをし、後ろ手に拘束された。
これはいつの日か言っていた、あまねさんが好きなプレイだ。
上半身を傾け、あまねさんの足を探す。
ゆっくりと左右前後に振っていくと、僕の頬に、あまねさんの足が当たった。
皮膚に唇を付ける。
これが足のどこなのか、唇と唇周辺の感覚を頼りに、確かめていく。
おそらく、膝あたりだったと思う。
そのまま唇の感覚を頼りに、膝、脛、足首、足の甲、足先に口付けしていく。
足先までたどり着くと、足の指一本ずつ丁寧に口付けていく。
正座、後ろ手拘束でバランスをとりながら行うこの姿勢は中々簡単ではない。
そのまま逆の順に膝まで口付けで戻り、太ももにいこうと思った瞬間。
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