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「藤津亮太のアニメ文章道場」応募原稿『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』レビュー(あまね丸)

去年2月、「アニメ!アニメ!」にて「藤津亮太のアニメ文章道場」という記事が公開されました。記事の内容は藤津さんがアニメレビューのレクチャーをしてくれるというもの。さらに、一般応募したレビュー原稿すべてに藤津さんが添削をしてくださるという企画も開催されていたので、僕もこれ幸いと参加してみました。応募要項は以下の通りです。

文字数:800~2500文字
対象作品:下記10作品の中から選んでください。
応募内容:作品論や作家論、作品を横断的に語るなど書き方は自由。ただし、なるべく自分なりの切り口や感動ポイントを軸に書いてください。なお常体・敬体どちらでもOKです。
対象作品
・『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)
・『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』(1997)
・『千と千尋の神隠し』(2001)
・『サマーウォーズ』(2009)
・『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2012)
・『かぐや姫の物語』(2013)
・『君の名は。』(2016)
・『夜明け告げるルーのうた』(2017)
・『リズと青い鳥』(2018)
・『プロメア』(2019)

僕の応募作品は『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』、以下本文です。

『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』レビュー(あまね丸)

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劇場版のウテナは、アクセル全開で世界を革命する物語だ。

『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』は1997年に放送されたTVアニメシリーズの劇場化作品。TV版の設定やキャラクターを下地にしながらリニューアルし、新たな物語が紡がれている。王子様にあこがれる少女、天上ウテナは転校先の鳳学園で「世界を革命する力」を秘めた少女、「薔薇の花嫁」こと姫宮アンシーをめぐる決闘に巻き込まれていく。

TV版に続いてメガホンを取るのは幾原邦彦監督。ウテナの魅力の一つであるエロティックな描写や、どこかこの世のものならざるエレガントな美術の過剰さはTV版以上。画面を覆う無数のバラの花びら、執拗に描きこまれたシーツのしわ、性描写。徹底した美意識で構築された、むせ返るような世界観には圧倒される。

劇場版ウテナとTV版ウテナの一番大きな違いがあるとしたら、アンシーのキャラクターと、それに伴うクライマックスの展開だろう。この違いこそがキモと言ってもいい。

劇場版のアンシーは控えめな性格だったTV版に比べて、決闘に勝利したウテナの寝所に押しかけて肉体関係を迫るなど、露骨に娼婦然として描かれている。だが、もちろんこれは「本当の彼女」ではない。彼女は実の兄であり、学園を支配する理事長代理が課した「お姫様」や「娼婦」の役割を演じることでしか生きることができなかったのだ。彼女の媚態には運命の残酷がにじんでいる。そんな彼女だが、ウテナと出会ったことで変化が訪れる。

TV版のクライマックスでは、アンシーは最後の決闘で世界中の憎しみを一身に受ける「魔女」としての運命を受け入れてしまう。それでも追いすがるウテナが伸ばした手をアンシーはようやくつかむ。つまり、王子様に救い出される形でアンシーはようやく自分の人生を歩みだしたのだ。

一方、劇場版のクライマックスでは、ウテナは「外の世界へ行こう」と呼びかけると突如スポーツカー(通称ウテナカー)に変身する。アンシーは戸惑いながらもウテナカーに乗り込むと、エンジンをふかして走り出す。目指すは彼女を縛る学園の外の世界だ。しかし、彼女達をこの学園に閉じ込めるべく、幾多もの追手が迫りくるのだった。

自分でも書いていて頭がおかしくなりそうだが、本当にこの通りの超展開なのだ。困惑のあまり気を抜くと振り落とされそうになる。特に、それまで「薔薇の花嫁」を狙う対抗勢力として描かれていた生徒会の面々がいきなり友情に目覚めて協力するくだりなどゴリッゴリの力技もいいところだ。だが、本作のクライマックスは、力技だからこそ意味がある。

なぜなら、自分を支配する世界に依存せず、「お姫様」や「娼婦」の役割を押し付けられることもない、「私らしい私」になるためにはアクセルを全開にしてあらゆる呪縛をぶっちぎるしかないからだ。TV版のように支配者側の都合で一方的に定められた「決闘」というルールに従って血を流す必要もない。

時にくじけそうになりながらも激しいデッドヒートの末、覚悟を決めたアンシー、「私、もう逃げない」「行くわ、外の世界へ」そして流れ出す本作を象徴する名曲「輪舞-revolution」。そこにあるのは潔く、カッコよく生きていく一人の女の姿だ。『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』は確かに荒唐無稽な映画だ。だが、我々だって多かれ少なかれ社会が一方的に押し付ける役割に理不尽な形で支配されている。時には自分の心を殺して死んだように生きてはいまいか。だからこそ、自分の人生を力強く選択するキャラクターの姿は、普遍的な力強さで視聴者を勇気づけてくれる。

ちなみに、TV版でウテナとアンシーの間にあったのは「友情」だったのだが、果たして劇場版でアンシーのハートに火をつけたのは何なのか? ここら辺の「解釈の違い」も劇場版の魅力だと思うので、ぜひ確かめてほしい。

藤津さんによる添削
TVシリーズと比べながら映画の魅力を語っていてすごく分かりやすく面白い原稿です。
ラストシーンは誰もが論じたくなるポイントですが、作品に合ったいい言葉で書けています。
強いて言えば、ラストシーンの変化によってTVシリーズと劇場版とでテーマが変わったのか否かや、表現が変わった理由についてなどにも踏み込んでいるともっとよかったと思います。
>自分でも書いていて頭がおかしくなりそうだが、本当にこの通りの超展開なのだ。
ウテナの作品全体が不思議なテイストなので、ここだけ強調する必要はないので省いてしまっていいでしょう。
>TV版に続いてメガホンを取るのは幾原邦彦監督。
「メガホンを取る」は映画監督を表す慣用句ではありますが、アニメ監督はメガホンを取るのか? という点でほんの少しですが情報ノイズが入ってしまいます。
アニメ監督の業務に詳しくない読者が実態と異なる想像をしてしまうなどして、結果的にこの原稿のメッセージを弱めてしまうことが考えられます。
使ってはいけない表現というわけではないのですが、今の読者にも通用する慣用句なのかという点も含めて、原稿のノイズを減らすという観点から一考すべきポイントです。

添削を受けて(長い言い訳)
もっとボロクソな寸評をいただくことも覚悟していたのでほっとしたというのが正直な気持ちです(笑) とはいえ、

>強いて言えば、ラストシーンの変化によってTVシリーズと劇場版とでテーマが変わったのか否かや、表現が変わった理由についてなどにも踏み込んでいるともっとよかったと思います。

というご指摘は耳の痛いところ。『ユリイカ 2017年9月臨時増刊号 総特集 幾原邦彦』のインタビュー記事で奈須きのこさんは

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「”これってこういうことだよね”と言い切っちゃうこともできる。でも、それを言っちゃあおしまいなんですよ。”抽象的なもの”に苦しんでいる人間に向けて、それを個人の主観で断定したものを出しても”他人の見ている像”を押しつけられたにすぎない」

とおっしゃっていました。抽象的な表現を要約すること自体は一つのステップとして必要だとは思いますが、そこで「あー要するにこういうことっしょ?」と浅はかな態度で思考停止するようだと抽象化した意味を見失ってしまっているんですよね。
そもそも自分、ウテナのことを要約できるほど理解できているのか? というと他の方のレビューを読んでようやく「あーあのシーンってそういう意味だったの!?」と気づかされる事なんてざらなわけで、お粗末!

あと、自分のレビュー読み返してみると持って回ったような言い方が目立ってわかりづらいんですよね。むしろそこは要約しろよって思いました。
>「お姫様」や「娼婦」の役割
みたいな記述も
「ジェンダーロール」って明記した方が良かったと思いました。たとえば

「TV版と劇場版のアンシーは一見すると正反対の性格のように見える。しかし、両者とも少女のように無垢であれ、娼婦のように淫乱であれ、従順であれという女性に押し付けられた保守的なジェンダーロールの体現者だ。
その一方で学園の支配者のように振る舞う理事長代理の鳳暁生もまた、”王子様”というジェンダーロールのプレッシャーにすり減らされた挙句に壊れてしまう哀れな存在でしかない。王子様に求められるのは、女の子を魅了する麗しさであり、女の子を守る逞しさであり、女の子を養う経済力だ。女らしさを強いる世界は男らしさを強いる世界なのだ。」

これくらい明文化した方が良かったし、他にも

「クライマックスで最初は自信なさげにウテナカーを運転してたアンシーが、最後には決意に満ちた表情でハンドルを切るあたりが”女は運転が出来ない”といった偏見へのカウンターになってるし、自分の人生をリスク込みで女の姿になってるのが最高にかっこいい」

みたいな自分の気持ちよさに忠実な一文を入れてもよかったかも。などなど、細かい事を言い出せばきりがないわけですが、藤津さんにご指摘して頂いた通り、本質的には「もっと作品のテーマに踏み込めたんじゃないの?」という課題があるわけで、これはTV版と劇場版を何回も見返して修正版を書かないとですねー。でもウテナって学生時代、社会人と、その時その時の自分の立場や経験によって見方が変わってくるし、新しい発見があったりするわけで、「10年後のお茶会で会いましょう」と言いたい所ですが、これは流石に悠長すぎますね。正月はウテナ見るかー!!

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