嘘つきと真夏

群青がいっぱいに広がっている
微熱を抱えた花びらに
そっと目配せをされて
ぼくは立ち止まる

遠い日付けは夏のままで
血のにおいを引きずって
スニーカーが破けるまで歩いた
行き場のない足跡を思い出している

水面をいくつも辿ったら
別の自分になれる気がした
雲がかたちを替えるみたいに
こっそり歌っているみたいに

いつも見送ってばかりいる
足を止めては
過ぎていく人たちに
手を振って
いくつも翅が降ってくるのを
待ってばかりいる

漕ぎ出せない午後の小舟で
手の届かない場所へ青を燃やす
それはささやかな復讐だ
ちっぽけなぼくが
ちっぽけなままでいられるように

かなしい

かなしい

終わりはいつ来るんだろう
繰り返しに飽きても
ぼくはまたあの8月を歩くんだろう
行き場のない生き物の
死骸をいくつも視界に拾いながら
かなしいふりをして歩くんだろう

真夏はぜんぶ嘘でできているから
ぼくは歩くのをやめられない
群青がいっぱいに広がっている
花はもう焼けてしまった

2021.08.09

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