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悪魔の囁き

お金持ちに成る機会が ある人には 悪魔の囁きがある。

昔、田舎の土木工事請負業の会社社長が 知り合いの山師から 同村民の所有する山の購入したい 旨の相談を 持ち掛けられる。

社長は その山の情報を基に山の所有者に会い自分が購入し儲ける算段をする。

結果、地元の企業との信用もあり、社長は その山を手に入れた。

その経緯は、たまたま 中学での同級生の親が山砂をダンプカーで売って歩く商売をしていた…その山師だったからである。

同級生の親は長年の経験から山を見て、その山から どれくらいの良質な山砂が取れるか知っている。

だから、悔しくて…しょうがなかった。

悪い相手に、その山を買いたいと相談してしまった事を ずっと後悔していた様子で…
たまたま訪ねて行った時に、私が人畜無害な著名な息子であると判断してか、つい口に出してしまったのだった。
…って感じの様子だった。

母親の方は サッパリした性格で、その話をした方は夫で、つまり私の同級生の父親に向かって…
「それは貴方が地元に信用無いから…言っても仕方ないのょ。」 と言い切ったところで、この話は終わった。

それから、約一年後位に たまたま その話に出て来た 土木工事請負業の会社社長と会う機会が何度かあり、その度に山砂で大儲けしている話を 彼の周辺の人達から聞いて知っていた。

問題の事件は…この後に起きる。

ある日、私が家に帰ると母親から「○○建設が火事🔥」だった と聞く…
当時、私の父親が地元の消防団の相談役でもあった為、翌日 私が御見舞いに行くことに成った。

私自身も直接的に良く知っている社長の建設会社なので…行きやすいのだが…でも何て声掛けしたら良いか 分からずのまま 、その会社の前に着いてしまった。

すると、ビックリ…まったく火災が有ったとは思えないくらいに 事務所も隣に建つ工場 兼 倉庫も外観からは 全く分からないほど 今までと同じ様子なのである。

少し、ほっとした気持ちで事務所に入り社長に挨拶すると…

「いやいや…」と明るい表情で社長は私に話し掛けて来たのだ…

「わざわざ、来てくれて すまんのう…」

「ちょっと、留守にしていた時に工場兼倉庫の2階の一部分だけが焼け焦げたんだ。」と話してくれたので…

「…で被害は結局…どうだったの…」と、思わず口から出てしまっていた。

すると…社長は…
「いやいや…たいした事は無かったんだが…」
商売上の「帳簿類が燃えてしまって大変なんだ…」と話してくれた。

私は直ぐに「あれ…」って閃いた。

田舎の建設会社の広い事務所である…何も不便な 隣の倉庫の2階に 帳簿類を運んで保管する 必然性は無いはずである。

しかも、出火の原因も良く分からないと言う…

あれれ…これって、もしかして…

「自作自演の放火…」ではと瞬発的に思った。
消防車を出し方からしてみれば…火災の原因は知りたいし、知る必要が有るのだが…

被害者である社長は…今回の火災は大したことが無かったんだから…もう、そんなに大事にしないで欲しいと関係者に言って回っている様子である。

結局…、事は社長の思惑通りに進み、簡単な報告書だけで終了したようだが…

なぜか、私の心は濃霧の中で叫んでいた。
「これって、ありなの…」
「こんな遣り方…本当に有なの…」

私の中では核心的な放火事件である。

この後で中学の同級生の家に行く事は無かったが…
彼の家族が どんなふうに感じているかは明確だった。

お金持ちには、お金持ちの苦労があるって事なのか…
でも、これって泥棒だよね。

○○建設の会社社長にしてみれば節税感覚かも知れないが…
多くの地元や近郊の消防団が消防車を走らせて消火に向かった気持ちを考えると…

無性に腹が立って 仕方なかった。

一度、自覚して 人を騙した事のある 人間は…
悪魔の囁きを聴くのであろう…
そして、それを 何度も、何度も…
繰り返すように成るのだう…

世間体を気にせずに…勇気ある行為 だと 称賛する 悪魔の囁きが 聴こえて来るらしい。

「嘘つきは泥棒の始まり」
人生で一度は聞く言葉である。

「世の中に多くの金持ちが存在しているが…その内、どれくらいの泥棒がいるのだろうか…」
「何パーセントの比率であろうか…」

時々、私は こんな ふうに 思うことがある。

そして…その比率を想像すると…

「99.99999999」の、ちょっと失礼な結果を予想してしまうのだった。

悪魔は それくらいに どこにでも居て 囁く機会を狙っている…

そんなふうに感じている…

でも、最後は地獄かも知れないよ。
なぜなら、それが「悪魔の囁き」だから…

「君は金持ちに成りたいか…」
悪魔に魂を売ってでも…

「君は金持ち成りたいか…」
君を知る人達に キモい と言われても…

「君は金持ち成りたいか…」
泥棒の始まりの嘘をついても…


追記…
数年後、同様の火災を広島の福山市に近い小さな町で経験する。
その会社は中規模なシルク印刷工場の事務所だった。
その時も…瞬間的にピーンと閃いた。
なぜなら、その社長から事実とは異なる一部分の被害見積書の作成を頼まれたからである。
勿論、断ると…(…断り続けたら…)
地元に詳しい人しか知らない、他県の著名な反社会的人物名を口に出して来たのだ。
結局、少しだけ譲れる範囲で折り合いをつけて、社長の欲しがる見積書を作っては 上げたが、それが実際に役立ったかは分からない…、…知らない。

後は保険会社の問題である。
私の仕事の範疇では無いからだ。

その後、しばらくして聞いた話では…
この社長は何度も繰り返しているらしいのだ、小規模な火災を…
だから、周辺の人達は 殆んど自作自演だと思っている事を知った。

「やっぱりだった」と思った。

「悪魔の囁き」は、その人の 金持ちレベル の程度の違い こそあれ、やはり 繰り返し聴こえて来るらしい 。

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