見出し画像

大和選手を巡る言葉

いろいろ好き勝手語ってきました、大和選手についてあれこれ。

5本目となる今回は、彼を巡る「言葉」を、少し振り返ってみたいと思います。

ベイスターズの人々が語る大和選手

阪神タイガースから横浜DeNAベイスターズへ。
移籍してからの変化は挙げればいくつもありますが、その一つに「言葉」があります。
大和選手の、ではなく、周囲の人々の言葉です。

移籍が決まってから、それまで彼を取り上げることの少なかったメディアの記事が増え始めました。
お馴染みだったタイガースの番記者たちではなく、名前も知らなかったベイスターズの番記者やライターの方々によって、また選手たちによって、大和選手が語られ始めました。
それは私にとって、とても新鮮な出来事でした。

最初にベイスターズの選手の言葉を詳細に伝えてくれたのは、おそらくこの記事だったのではないかと思います。

タイガースを中心に野球関連の取材をされているフリーライターの土井麻由実さんが、大和選手が移籍して初めてのキャンプで、ベイスターズの選手たちの声を取材した記事です。

この記事の中で、とても印象に残った言葉があります。

大和さんの守備って、形がないんです。日本ってすぐ“形”とか“基礎”とか言うじゃないですか。そういうのにとらわれてないんです。形にこだわってないというか、自由なんですね。

(【土井麻由実のSMILE TIGERS】|サンスポ 2018年3月24日)

柴田竜拓選手による、大和選手の守備評。

こんな風に自分の言葉で大和選手の守備を語ってくれる人がいるのかと驚きました。
正直なところ、当時私は柴田選手のことをよく知らなかったのですが、何よりも先に、この言葉で彼に惹かれました。

昨年はこんなことも言っていました。

大和さんは本当に身体の使い方がうまくて、そうだなあ、お猿さんみたいなんですよ。

(球団公式観戦ガイド『BLUE PRINT』2019 issue THREE)

動きが動物に例えられる選手で真っ先に思い浮かぶのは広島東洋カープの菊池涼介選手ですが、大和選手もかあと。
たしかに、猿っぽいかもしれません。

この言葉は、球団が発行するフリーペーパーに掲載された大和選手との対談の中で出てきたものです。
プレースタイルは違っても、6歳という年の差があっても、守備への思いと誇りは通じるものがあるのだなあと。大和選手が楽しそうに話しているのがとても印象的な対談でした(映像で見たかった)。

チームメイトの言葉でもう一つ、嬉しかったのがこちら。

静かなイメージだったが闘争心がすごい。
あんまりワーッとはしゃいでいるのは見たことがないが、試合に入ればその試合への気持が凄いと思う。

(2018年11月23日『横浜DeNAベイスターズ ファンフェスティバル2018』にて)

2018年のファンフェスティバルのトークショーで、筒香嘉智選手(現MLBタンパベイ・レイズ)が大和選手の印象について語った言葉です。

私は大和選手の守備に魅せられてきたファンですが、それと同じくらいにグラウンドで彼が見せるピリピリとした雰囲気が好きです。プレーひとつひとつから溢れる勝負へのこだわりと厳しい表情もまた、彼の魅力だと信じてきました。
チームのキャプテン(当時)であり、球界を代表する選手でもある筒香選手の口から、このように言ってもらえたことが嬉しくて。忘れられない言葉です。

そして、シーズン中球団の公式サイトで公開されているコラム「FOR REAL in progress」のサブタイトルから。

千の試合に必要とされて

(『FOR REAL in progress』2019年5月27日)

2019年4月30日、1000試合出場を達成した大和選手。
同年5月に公開されたコラムのサブタイトルが、この「千の試合に必要とされて」でした。

十年余りの野球人生において、あらゆるポジションをこなし、ときに「便利屋」と言われることもあった大和選手。その軌跡を振り返るときに、私の中に「必要」という言葉が浮かんだことはありませんでした。
このサブタイトルを見てハッとしました。そして、涙がこぼれました。

「必要とされて」いるから試合に出ているわけで、1000試合出場を記録したすべての選手に言えることではありますが。
レギュラーもサブもいろいろな立場を経験しながら積み重ねてきた「千」を振り返ると、これほど大和選手の野球人生を的確に表した言葉はないかもしれない、と思えてくるのです。

恋しくなるタイガース時代

溢れる新しい言葉たち。
それらに驚きと喜びを感じながらも、タイガース時代の大和選手を知る人々の言葉が恋しくなる時があります。
そんな時、過去の記事やコラムを読んでは思いを馳せています。

脳裏に焼き付いて離れない言葉が、デイリースポーツ、吉田風さんのコラム「取材ノート」にあります。

あらかじめ、大和には伝えていた。4日、横浜へ行くから、と。

(吉田風取材ノート|デイリースポーツ 2017年12月5日)

2017年12月4日、タイガースの新人選手入団会見もあったこの日、大和選手のベイスターズ入団会見を選び、関西から横浜まで足を運んだ吉田さん。
記者会見の場に現れた大和選手を描写したシーンは、まるで自分もその場にいるような緊張感と複雑な感情が沸き起こり、いま読んでも胸がいっぱいになります。

ベイスターズの選手となった後も、吉田さんはこのコラムで時折大和選手に触れてくれます。選手に思い入れがあるのはファンだけではないのだと、彼のコラムを読んでいると感じます。

(同コラムではベイスターズ・坪井コーチのお名前も年に何度か見かけます。)

……と、ここまでは選手や記者など、現場で大和選手を見てきた人々の言葉を挙げてきましたが、心に刻まれるのは何も「プロ」の言葉だけではありません。
大和選手を応援するうえで私が心の支えにしている、あるタイガースファンの言葉があります。

2017年の晩秋、大和選手の移籍が発表され、SNS上でタイガースファンがさまざまなメッセージを発する中で、あるファンの投稿が目に留まりました。

「彼の決断は間違っていないでしょう」

その根拠として綴られていたこと(一般の方なので詳細は伏せます)は、長年見続けてきた方だからこそ言えるものだと思いました。私には言えない、とも。
タイガースファンとして大和選手の姿を入団時から見てきた、その眼差しと彼への信頼がにじみ出た言葉に、当時の私は救われた思いがしました。
不安や迷いで心が揺れる時は、いつもその言葉を思い出すようにしています。

語り継がれてほしい、あの言葉

大和選手を語るとき、避けて通れないこと。

打球に対する反応の速さ、内外野での打球を追うときの身のこなしのしなやかさは、見るものを魅了する。

(『週刊ベースボール』2016年9月19日号 *注)

そう、「守備」の話です。
あらゆる場所で、様々な表現で語られる大和選手の守備。前述の柴田選手の言葉も私は好きですが、ファンの間で最も知られているのはおそらくこれではないでしょうか。

2015年、当時チームメイトだった今成亮太さんがあるスポーツ番組で言ったこの一言。

大和9人でいいんじゃない

(2015年12月6日放送 フジテレビ『すぽると』)

プロ野球選手100人へのアンケートをもとに、評価の高い選手をランキング形式で紹介する、同番組の人気コーナー。これは、守備部門で5位に選ばれた大和選手に対するコメント映像の中で出てきた言葉でした。
内外野を高いレベルで守る大和選手のすごさをユーモアを交えて表現した、今成さんらしいコメントです。

今成さん以外にも、大和選手へ投票したタイガースのピッチャー陣から似たような意見があがっていました。
「9人」はさすがに大袈裟な表現ではありますが、当時の大和選手を表したものとして決して的外れでもないように感じました。
個人的にも気に入っていて、プロ野球名言集の片隅でいいので記録され、語り継がれてほしい、と密かに思っています。



*注 阪神・大和 “中堅組”が挑む超変革、そして家族がくれる力 |週刊ベースボールONLINE 2016年9月13日


見出し写真は、横浜DeNAベイスターズ OFFICIAL DOCUMENTARY BOOK 「FOR REAL 2019」。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?