【声劇台本】希望の魔女は森を歩く
希望の魔女は森を歩く あらすじ
「あいつは悪魔だ」
そう言われ、生まれ故郷の村から逃げだした
家族を失い、1人生き延びた魔女は、森を歩く
これは、苦しみつつも歩いた小さな魔女の物語
4人(男1:女2:不問1)
男性キャラは女性が演じても可
30~40分くらい
ストーリー展開・雰囲気が崩れない程度のアドリブ・言い換えは可
キャラクター
・ミサラ 女
・パスエン 不問
・ゼスト 男
・カイエ 女
ヒデじい様の声劇台本置き場にも置いてあります
シナリオ本文
ミサラ:「あいつは悪魔だ」
ミサラ:「あいつを殺せ」
ミサラ:火の手があがる、村が消える
ミサラ:お父さん、お母さん、兄さん
ミサラ:皆、どこかへ消えていく
0:
0:小屋の中。鳥のさえずりが聴こえ、目を覚ますミサラ
ミサラ:……朝、か
ミサラ:……今日も
ミサラ:……まだ、生きてた
ミサラ:……っ
ミサラ:お腹、空いたな……
0:
ミサラ:(狭く古びた、誰も使っていない宿屋。ゆっくりと身体を起こした私は、森で事前にとってきた木の実を、一つ、二つとほおばった)
ミサラ:っ、固い……
ミサラ:でも、中は甘くて、美味しい
ミサラ:兄さんが、教えてくれた、木の実
ミサラ:幼い時、村からちょっと出たところで見つけた木
ミサラ:……
ミサラ:駄目だな、私
ミサラ:これじゃきっと、夜、兄さんが出てきて、怒られちゃう
0:ミサラは胸にかざっている黒いペンダントを握った
ミサラ:っ? 小屋の入り口に……何か?
ミサラ:っ、マードック……!?
0:牙と爪が鋭利に伸びた、犬型のクリーチャーが、ミサラに襲い掛かる
ミサラ:魔法発動、ウォーターウェイバ!
0:ミサラは水の魔法を放ち、マードックをしりぞける
ミサラ:っ、はぁ……はぁ……! 小屋から出ないと!
ミサラ:……まだ、こんなに!?
ミサラ:っ、魔法発動 ファイアーボール!
0:
ミサラ:(私は、迫ってくるマードックの群れを追い払うように魔法を放ち、逃げていく)
ミサラ:(しばらく走って。もう追ってはこなくなったもの、度重なる疲労がどっと襲ってきた)
0:
ミサラ:……はぁ、はぁ
ミサラ:(重く、辛く、のしかかる)
ミサラ:(過去と、痛みと、苦しみと)
ミサラ:(それを全て背負って、森の中を、また、歩いて、進んでいく)
0:-
ミサラ:……疲れたな
ミサラ:休みたいな
ミサラ:歩きたくないな
ミサラ:楽に、なりたいな
0:-
ミサラ:……っ? あれは
ミサラ:古い、館……
ミサラ:……どうせ、このまま死ぬんだったら
ミサラ:誰も見ないところで
0:ミサラは古い館へと入っていく
ミサラ:いないよね、流石に
パスエン:誰!?
ミサラ:っ……!?
パスエン:……人間?
ミサラ:えっと、あ、その……
パスエン:……君も、僕を襲いに来たの?
ミサラ:え?
パスエン:どうなのさ?
ミサラ:ち、違います……私は……その……
パスエン:じゃあ、なんなのさ
ミサラ:もう……、疲れて
ミサラ:分からなくなって……何も
ミサラ:それで、ずっと……死にたくて
パスエン:……えっ?
0:ミサラはそのまま気絶する
パスエン:っ!? 君!
0:
ミサラ:……暖かい?
ミサラ:なんだろう、これ
パスエン:目覚めた?
パスエン:……ごめんね、その毛布、もう古いけど。我慢して
ミサラ:……ありがとう、ございます
パスエン:……その流れで、こんなの勧めるのもどうかだけど
パスエン:はい
ミサラ:……美味しそう
ミサラ:っ? このスープって
パスエン:知ってるの?
ミサラ:「ホルプスの実」を使ってます?
パスエン:そうだよ。でも、美味しいかどうかは、別だけど
ミサラ:いただきます!
パスエン:えっ!?
ミサラ:ゴク……ゴク……っ
パスエン:あぁちょっと! ……すごい飲みっぷり
ミサラ:……
パスエン:あ、やっぱり不味かった、よね
ミサラ:……っ、ぁ……ぁぁ……ぅ…ぁぁ
パスエン:だ、大丈夫!?
ミサラ:ごめんなさい……ごめんなさい……なんで、私……
パスエン:……
パスエン:(それからしばらく、彼女は泣いて、泣いた)
パスエン:(思えば、最初に館に来た時、吐き出しそうな顔をしていた、ような気がする)
0:
パスエン:落ち着いた?
ミサラ:……
パスエン:そういえば、名前、聞いてなかったね
ミサラ:……ミサラ、です
パスエン:僕は、パスエン
パスエン:ずっとここに住んでる、吸血鬼
ミサラ:吸血鬼さん、なんですか?
パスエン:うん。君は、人間だよね?
ミサラ:私は……魔女です
パスエン:魔女?
ミサラ:ずっと、そう呼ばれていました
パスエン:どこで?
ミサラ:私が生まれ育った場所です
パスエン:……ごめん、聞かない方が良かったかな
ミサラ:優しいんですね
ミサラ:吸血鬼さんなら、人間の血、欲しくならないですか?
パスエン:えっ?
ミサラ:パスエンさんになら、構いません
パスエン:どういうことだい?
ミサラ:……もう、辛くて
ミサラ:みんな、みんな、居なくなって
ミサラ:誰もいなくなって、森の中でずっと
ミサラ:ずっと1人で
ミサラ:でも、死んじゃいけない気がするから、死ねなくて
ミサラ:それでも……っ
パスエン:……辛かったんだね、ずっと、ずっと、1人で
ミサラ:……
パスエン:僕も、1人だったよ
ミサラ:……えっ?
パスエン:なんでだろうね
パスエン:悪くないものを、悪いと決めつけたり
パスエン:自分達が被害者で脅かされると思ったら、すぐにそれを排除しようとする
パスエン:何にもしてないのに、さ
ミサラ:……それって?
パスエン:僕、人間の血を吸わなくても生きていけるし、興味ないし、ただ、日光だけはめんどくさいけど
パスエン:そう、だって争いなんて、一番めんどくさいじゃないか
パスエン:めんどくさいし、何も生まない
パスエン:例えば、こんな森の中に火なんて放ったら、ここに住んでいる者は全て、消えちゃうよ
パスエン:でも、人間は……自分たちを守るためなら、何を犠牲にしてでも火を放てる
0:パスエンは腕を抑える
ミサラ:その傷は?
パスエン:拷問を受けたことがあってね
パスエン:その時かな、初めて手にかけたのは
パスエン:口で言ってもさ、何も通用しなくて、僕の言葉なんか、明後日のほうこうへ通り過ぎるような顔しててさ
パスエン:そいつら、ずっと「僕たちは平和が好き」なんて真顔で言ってたんだよ?
パスエン:そしたらもう……分からなくなって、そいつらを、吸血鬼の力を使って、殺して
パスエン:それで、逃げて、逃げて
パスエン:気づいたら、こんなの森の、館の中って感じ?
ミサラ:……
パスエン:……長話だったね。ありがとう、ミサラ
パスエン:初めてかな、僕が作ったのを美味しそうに味わってくれる人
パスエン:人間でも、こんな人いるんだなって、びっくりした
ミサラ:……だって、美味しかったですから
パスエン:えっ?
ミサラ:パスエンさんの作る料理が、すごく美味しかったから……っ……っ……
0:パスエンはゆっくりと、泣いているミサラの傍にくる
パスエン:ほら、毛布被って、ゆっくり
ミサラ:……っ……っ……ぁ……ぁ
パスエン:……えっと、じゃあ
パスエン:よし、よし
パスエン:(ミサラの涙が、僕の服を少しずつ濡らしていく)
パスエン:(なぜだろうか。服が濡れているだけなのに、泣きそうになっている僕も居た)
0:
0:一方、パスエンの館の近く、二人の人影があった
ゼスト:……ここか?
カイエ:ああ、ここだ
ゼスト:断言できるのかよ?
カイエ:もちろん! ギルド経由でもらった依頼主の情報を元に分析! 私のおりじなるの地図によれば……ううむ、ここ! もはやここしかない!
ゼスト:はっきりいいやがるぜ。その地図も即席でつくったやつだろうに
カイエ:いずれはどういう場所でも対応できるものとして考えておる!
カイエ:技術の発展は日進月歩、常に進化するのだ
ゼスト:つっても、場所を見つけたところで、目標が達成できなきゃ意味がないけどな
カイエ:ぬぬ! そういう言い方はよくないぞゼスト!
カイエ:開発は過程こそ重要だ!
ゼスト:はいはい……で、そしたら
カイエ:依頼主の情報によれば、街を脅かす危険な吸血鬼がいる……だったな
カイエ:それこそ、ゼスト。お前の魔道具を証明する機会だ
カイエ:それの積み重ねがいずれ、そう! あの魔道学院のじじいどもにぎゃふんと!
ゼスト:退学撤回な。ご苦労さん
カイエ:ぬぬ……他人事のようにいいおって
ゼスト:……さて、行くぜ
カイエ:さて? 私はサポート役だぞ?
ゼスト:は?
カイエ:お前が先陣きって行んだろう。私はとことこついていくだけだ
ゼスト:なんでだよ!
カイエ:それとも、1人じゃ心細いのかぁ~このこの~
カイエ:アサシンだというのに、こんなふるーい館の一つや二つ怖くないだろう
ゼスト:あの、まるで俺が怖いもの苦手みたいな話になってるんだが?
カイエ:だってさっきの「行くぜ」は、「あー、もしや吸血鬼と見せかけてトンデモないゴーレムがいたりして? そうなったら、くっ! 俺の、俺の魔道具使いとしてのキャリアがっ!……ていうか、ちょっとこの館怖くない?」みたいな態度だったからな
ゼスト:どんな態度だよ……怖いのか、報酬目当てなのか、よくわからないぜ、それ
カイエ:半分は本当の事だろう。あれから故郷を出ても、まーだ過去を引きずっているような素振りを、時折感じるが?
ゼスト:そりゃな。全部が全部、振り切ったといえばそうでもねえ
ゼスト:でも、あの街にはレンがいる。俺が不要だったのは現実だ
ゼスト:それを、ダラダラと酒飲みみたいに愚痴るのは、辞めた
ゼスト:そこから抜け出したのは、振り返ったら正解だと思ってる
カイエ:ふふ、ちゃんと学んでいるじゃないか
ゼスト:……妙に腹が立つけど、まいいや
ゼスト:敵の居場所は……おそらく、この様子だと、他のクリーチャーはいないな。
ゼスト:従えている線も考えたが、静かすぎるからな
カイエ:あまり警戒する必要がないかもしれない、ということか?
ゼスト:いいや。そういう時こそ、油断ならない
ゼスト:常に大物(おおもの)に油断せず、かといって怖気ず
カイエ:時には豪快に?
ゼスト:それ、魔道具のこと言ってんのか?
カイエ:ああ! 私の魔道具は豪快な武器も多い! エクスニィィィドル! とか、あ、これはお前の真似な
ゼスト:似てねえから。とっとと入るぞ
0:ゼストが先陣をきり、館の扉を開く
ゼスト:よし……入口には敵はなし。進むぞ
カイエ:……静かだな、館の中は
カイエ:まだ外は昼だというのに、この中だけ夜みたいだ
ゼスト:油断するなよ、とりあえず、お前は後ろを……
パスエン:吸血技(きゅうけつぎ)発動 「ヴァンパースティング」
ゼスト:っ!!
カイエ:左だ!
ゼスト:わかってる!
ゼスト:魔導技(まどうぎ)発動 「ボルテックナイフ」!
パスエン:っ!
0:パスエンはゼストの攻撃をギリギリでよけ、離れる
ゼスト:あと少しで、お陀仏だったな
パスエン:さっきのは、ナイフ? にしても、まるで魔法のようだったね
カイエ:ううむ! 気になるか! それもそう、この私が創った発明品なのだ!
パスエン:……物好きだね、人間って
パスエン:そうやって、自分達のエゴを満たすために、自分より弱い者で試す
ゼスト:……?
カイエ:何を勘違いしてるのかはわからぬが、私は弱い者で試すなど、そのような考えは持ち合わせてはおらん
パスエン:口だけならいくらでも言えるよ
パスエン:お前らみたいな奴がいるから……
ミサラ:魔法発動! 「ウィンドブレイディッター」!
カイエ:っ!?
ゼスト:カイエ!
カイエ:大丈夫だ……! にしても……、もう一人?
ミサラ:はぁ……はぁ
カイエ:しかも……人間?
パスエン:ミサラ……! 駄目だよ! 隠れて!
ゼスト:なんだよ、俺達を散々煽っておいて、自分はエサをきっちり用意してるじゃないか? あとでたっぷり味わうつもりかよ……!
パスエン:違う! 彼女は関係ない!
ゼスト:あ……?
ミサラ:パスエンさんに、手を出さないでください!
カイエ:待ってくれ。君は……彼の味方、なのか?
ミサラ:もし、パスエンさんに何かをするなら、私が許しません!
カイエ:……?
ミサラ:っ、魔法発動「ファイアーボール」!
カイエ:! なんて大きさだ……!
ミサラ:はぁぁぁぁぁっ!
ゼスト:魔導技(まどうぎ)発動!「エクスニードル」!
0:ミサラのファイアーボールと、ゼストのエクスニードルがあたり、大きく爆発を起こし
館の壁が、一部壊れる。辺りが一度、煙だらけになった
ミサラ:うっ……!
カイエ:げほっげほっ……っ! 馬鹿者ぉ! あんな火の玉にエクスニードルなんてぶつけるなんざ、危ない真似しおって! こっちまで巻き込む気か!
ゼスト:とっさに思いついたのが、これしかなかったんだよ! 悪かったな!
ミサラ:っ……止められた……!
パスエン:……こいつら、ただの人間じゃない
パスエン:僕の技を簡単に止めてくる
ゼスト:……待て!
ミサラ:……なんですか?
0:ゼストはそう言って、魔道具をしまった
ゼスト:……カイエ
カイエ:なんだ?
ゼスト:ギルドからもらった情報、もう一回教えてくれ
カイエ:教えずとも私の、この……魔法で作ったメモに書いておる……えーと、そうだなぁ
カイエ:「人間を襲う極めて危険な吸血鬼がいるため、討伐に向かってほしい」というのが文言だ
ゼスト:お前から見て、「極めて危険」にみえるか?
カイエ:?
ミサラ:……
カイエ:……いいや
ゼスト:へっ。同意見だ
カイエ:いつから思ってた?
ゼスト:そこのお嬢さんが出てきてからだ
ゼスト:かばう反応がな、嘘とは思えない
パスエン:……殺さないの?
ゼスト:仕事なら、そうすることもできる
ゼスト:でも、その選択肢は選べない。いや、選ばない
ミサラ:……、本当に?
ゼスト:ああ
ゼスト:むしろ、気がかりなのは……外か
ミサラ:えっ? どういう、ことですか?
カイエ:むむ……ははーん
カイエ:さては依頼主め、ここまで予想していたかぁ?
ミサラ:外って……? っ!?
ゼスト:出来なかった時の保険か……あの依頼主、ちょっときな臭いと思ってたが、当たりか。何人だこれ……
カイエ:12人だ
ゼスト:わかるのか?
カイエ:こうもあろうかと、外の様子が見える装置を、事前に館へ入る前につけていたのだよ~
カイエ:どうにもこのクエスト、妙なにおいがしていたものでな
ゼスト:あんまり報酬額が高すぎだ
ゼスト:ギルドの奴らは信用できても、外部の人間になると、分からないものだぜ
ゼスト:……パスエンだっけか?
パスエン:う、うん
ゼスト:手を貸してくれ。俺も狙われてる
パスエン:……
ゼスト:ああ、俺がもし、お前を後ろから狙ってきたら、俺を殺せ
パスエン:……っ。分かった
ゼスト:それと……えっと
カイエ:甘いなゼスト、か弱いレディの名前は覚えておかねばの
カイエ:……ミサラ、と呼んでおったかな?
ミサラ:は、はい!
カイエ:良ければ、君も手伝ってくれないか?
カイエ:というか正直、センスの塊のような魔法でなぁ……
ミサラ:え……?
ゼスト:話はあとでしろ
カイエ:よし! そうしたら二人で手分けして、外の敵を追い払おうではないか! 2人一組で手分けすると、6人担当するが、まぁゼストに任せておけ!
ゼスト:いや、全部俺かよ
パスエン:手伝うよ
ゼスト:……サンキュー。じゃ、とっとと片付けるか
0:
ゼスト:魔道技発動 「ボルテックナイフ」!
パスエン:吸血技発動「ブラッディシュート」!
ゼスト:っ! 援護助かる!
カイエ:おおっと。女子も負けてられないのう!
ミサラ:魔法発動!「ウォーターウェイバ」!
カイエ:ふむ! 水の魔法か……! にしても水の勢いが……凄まじい
カイエ:なら、そこにびりびりと加えてみるか
カイエ:魔導技発動「ボルトボム」!
カイエ:ただでさえ雷ドッカンな、魔法を圧縮した爆弾だが、水があることでさらに広範囲に!
ミサラ:す、すごい……
0:
0:4人は外敵の人間たちをなぎ倒した
ゼスト:お前らの依頼主に言っとけ。手をだす相手が悪かったってな
カイエ:おー。すたこらさっさと逃げだしたなー。大した事がなかったの
ゼスト:ほんとにあいつらアサシンか? あの動きは、ヘタクソすぎるぜ
カイエ:なんだぁ? 先輩風をふかせおって~
ミサラ:あの……ありがとうございます
ゼスト:気にすんな
パスエン:君も、アサシン?
ゼスト:まぁ、アサシンやってたけど、前は剣士やっててな。なんていえばいいんかな……
カイエ:「魔道具使い」だ
ミサラ:魔道具、使い?
カイエ:ふふふふ! 聞いて驚け! なーんと今、ゼストが使っておるのは、全て私が発明したものなのだー!
カイエ:あと、これと、これもな
ゼスト:ここで出すな……!
ミサラ:わぁ、こんなに色んな物がつくれるんですか!?
カイエ:むむ! 君……なかなか見どころがあるじゃないか……むふふ……
ゼスト:だから! あとにしろって
パスエン:……助かった
ゼスト:悪かったな、疑って
パスエン:ううん
カイエ:にしても……ここに、二人で住んでおるのか?
ミサラ:実は……その
0:
パスエン:(ミサラは、ゆっくりと話を始める。でも今は、館に来たばかりの時より、どこか落ち着いていて、でも、どこか崩れそうでいて)
カイエ:……魔女、か
ゼスト:……そんなことがあったのか
ゼスト:胸糞悪い話だぜ
ミサラ:っ?
ゼスト:……俺がアサシンの頃、標的にしていたのは、身ぐるみをはぐような人間や、裏で汚いことをしている奴らだった。1人1人。
ゼスト:でもなんだ……村まるごとだって? それはつまり「全員」ってことだろ?
ゼスト:……ふざけてるぜ
0:ゼストは拳を握る
ミサラ:ありがとう、ございます
ミサラ:私の兄さんも怒ってました。ゼストさんのように
カイエ:兄がいるのか?
ミサラ:守ってくれたんです、でも、兄さん……ロシュ兄さんは亡くなりました
ミサラ:最後の、最後まで、私をまもる為に戦ってくれたんです
パスエン:……
ミサラ:兄さんは最後に、私にこう言い残しました
ミサラ:「希望をもって歩いていけ」って
パスエン:希望……か
パスエン:この実と、一緒だね
ミサラ:そう。パスエンさんが、飲ませてくれた、「ホルプスの実」のスープ。……その由来は、光の天王(てんおう)の祈りが「実」になった。言い伝えによればですけど。
ミサラ:兄さんは、もしもこうなった時の為に。ずっと前から教えてくれたのかもしれないですね。大事な事を
カイエ:……いい、お兄さんだな
ミサラ:……はい
カイエ:……すまない。そんな事情があると思ってはいなく。襲い掛かるような真似をして
ミサラ:いえ、慣れてますから
カイエ:……
パスエン:そんな事に慣れちゃだめだよ、ミサラ
ミサラ:っ
パスエン:君は、優しい人間だ
パスエン:例え誰かに忌み嫌われていたとしても、君の自由を奪う権利は、誰にもない
カイエ:パスエンと同意見だ
カイエ:ミサラ、君の魔法はその……
ミサラ:は、はい?
カイエ:自分で習得したのか?
ミサラ:そう、ですね……幼い頃に教会においてあった魔導書を呼んだのが、最初だったかな……草原に魔法で出来た花を咲かせる、小さな魔法なんですけど、それを読んで、試してみたら、使えるようになってて。それから魔法を覚えるのが、楽しくなったんです
カイエ:そんな頃から、か
カイエ:……羨ましいな
ミサラ:えっ?
カイエ:私は、どうにも魔法の才能がなくてね
カイエ:でも、君はすさまじい。魔道学院なら首席レベルだろう
ミサラ:しゅ、しゅせき?
ゼスト:優秀ってことだ
ミサラ:そ、そうなんですね?
カイエ:でも、君にはそんな余裕などなかった
カイエ:私の、「優秀への嫉妬心」など、君の辛さとは比べ物にならない
カイエ:なぜなら君はずっと……生きている事そのものが、辛かったわけなのだからな
ミサラ:……
ゼスト:ミサラ、一つ聞いていいか?
ミサラ:はい
ゼスト:お前は、死のうと思ったら、別に死ねたはずだ。限界まで来ていたんだろ?
ゼスト:なぜ、ここまで来れた?
カイエ:ゼスト……! お前な……!
ミサラ:いえいえ! いいんです!
ミサラ:私が死ねなかった……いや、死のうとしなかったのは
ミサラ:……兄さんが、夢に出てくるんです
ゼスト:お兄さんが?
ミサラ:正直、あんまり覚えていなくて
ミサラ:夢から起きた後は、記憶があいまいなんですけど
ミサラ:でも、兄さんが出てくるたびに、あの言葉を思いだして、歩かなきゃって思ってて
パスエン:……それでも、限界だったんだよね
ミサラ:……っ
パスエン:館に着いた君は、いつでも死んでもいい、そう思ってる顔をしていた
パスエン:どこか、何とか前を向こうとしていて
パスエン:でも何かが、自分の何かが追いついていなくて
パスエン:正直、ほうっておけなかった
ミサラ:……
ゼスト:……強いな
ミサラ:えっ?
ゼスト:ここまで歩いて来たのは、ミサラ自身の力だろ?
ゼスト:今の現実は、ミサラが希望を持って、歩いてきた結果だ
ミサラ:……そんなことは
ゼスト:……っていうのも、俺もな。クソみたい奴だったよ
ゼスト:自力で歩こうとせず、愚痴を吐いているだけの、な
ミサラ:そう、なんですか?
ゼスト:でも、俺の悩み事とは、ベクトルが違う
ゼスト:それなのに、ここまで歩いてこられたのは、本当に奇跡みたいなもんだ
ゼスト:すごいよ、お前は
ゼスト:あとパスエンもな
パスエン:えっ?
ゼスト:その傷、人間にやられたんだろ?
パスエン:うん……
ゼスト:自分で抵抗して、自力で今まで生きてきた
ゼスト:しかも、俺と戦えるレベルとまで来た
ゼスト:ミサラと同じくらい、強いし、人を、善悪をしっかり見分けられる目がある
パスエン:そんな……大した事じゃないよ、ミサラに比べたら
パスエン:僕はだって、種族が違うしさ、嫌われてもおかしくないし
ミサラ:種族なんて関係ないですよ!
パスエン:っ……ミサラ?
ミサラ:パスエンさんは、スープをくれたじゃないですか
ミサラ:私を殺さずに、館に入れてくれて、暖かい毛布までくれて
ミサラ:そんな人を「種族が違うから」って嫌うのは、あんまりです
パスエン:……ありが、とう
カイエ:うむ、ミサラの言う通り
カイエ:能力の差、種族の差、そんなものは関係ない
カイエ:それを、いち人間の憶測や勘違いで、勝手に奪われてはならない
カイエ:そして、「どうせ自分は違うから」と、自分で自分の可能性を曲げる事もよろしくない
カイエ:それはとても、勿体ない事だ
カイエ:二人とも、ものすごく魅力的なのだからな
カイエ:死ぬなんて、勿体ないぞ
ミサラ:……カイエさん。ありがとうございます
ゼスト:……で、話がまとまったところで、提案だけどよ
ゼスト:この森を抜けた先、俺達が来た道なんだが、一つ街がある
ゼスト:そこを活動拠点にしていてな……つっても、俺が出入りすることが多いのは、地下だけど。信頼できる筋の人間が多い
ミサラ:それって……?
ゼスト:二人とも、良かったら来ないか?
パスエン:えっ?
ゼスト:そこにはワケありの人間や、人外もいる
ゼスト:俺も、アサシンやってた意味じゃ、ワケありだ
カイエ:私もな。ふふーん
ゼスト:お前の場合は、退学してほっぽり歩いているニートって意味だな
カイエ:うるさいッ!
ミサラ:でも……どう思われるか
ミサラ:……そうしたら、ゼストさんや、カイエさんに
カイエ:迷惑などかからんよ
カイエ:仮に万が一、問題が起こったなら、解決をすればよい
カイエ:そのために魔導具は存在するのであるからな……!
ゼスト:なんでそっちに繋げたんだよ……
カイエ:いずれは、あらゆる問題解決にも役立てるつもりだからなぁ
カイエ:今は! 魔道具の証明が優先だ、今はな!
カイエ:……あ、問題解決といえば。私達のギルドの、受付嬢が1人欠員しててな、誰か探しておるといっておったのを思い出した
ミサラ:受付嬢、ですか?
カイエ:……というわけで、ミサラ! 君を連れていきたいのだが、よいか!?
ミサラ:わ、私!?
カイエ:ああ! 君は可愛いから大丈夫だ!
ゼスト:そうだ……人が足りない話なら、もう一つ
パスエン:え?
ゼスト:ギルドの雑貨屋、人が欲しくて困ってるんだ
パスエン:僕でいいの?
ゼスト:ああ。報酬が、もらえるからな
パスエン:……っ、ふふ。分かった
カイエ:マスコット属性がどことなくあるよのぉ、パスエンは。ふふふ、期待大だ
ゼスト:変な実験に付き合わせんなよ、全く
カイエ:よし! そうと決まれば、さっそく案内しようじゃないかー!
0:
ミサラ:(その後、街に連れてこられて、ゼストさん達が所属するギルドに入ることになった)
ミサラ:(最初は、見た目が怖い人たちばっかりだったけど、話してみると、全然、第一印象と違っていて……私の勘違いだったみたい)
ミサラ:(その後、小さな家と、仕事を紹介してもらって、そこに住むことになった)
0:
ミサラ:(それから数週間後)
ミサラ:いらっしゃいませ……ええと、初級クエストですか……?
ミサラ:そうですね、初級、初級……あ、これか
ミサラ:近辺のマードック退治はどうですか?
ミサラ:わかりました。では……あ、少々待っていただいていいですか!
ミサラ:……すみません、この後どうするんでしたっけ? ……あ、ごめんなさい……お願いします
ミサラ:(ゼストさん達の紹介で、私はギルドの受付嬢をすることになった)
ミサラ:(最初は全然わからなかったし、今でやっと、少しだけ覚えてきた)
ミサラ:はぁ~、疲れた……また先輩に頼りっきりだったな……
ゼスト:お。やってるな
ミサラ:あ、ゼストさん。カイエさんも
カイエ:むふふ~! サマになっているな、受付嬢
ミサラ:いえいえ。でも、なかなか、仕事を覚えられなくて
ゼスト:出来ているように見えるけどな
カイエ:ゼストよりは真面目だぞ、うん
ゼスト:それは余計だ
ミサラ:あ! パスエンさんは、お元気ですか?
ゼスト:ああ、まだ他の人間に不信感がぬぐえないだろうけど……その不気味さが丁度いいんだろうな。雑貨屋は盛り上がってるよ
ミサラ:そうなんですね……良かった……
ゼスト:夜は、寝られるか?
ミサラ:……すみません、時折、怖くなって、起きてしまいます
カイエ:無理もない。来たとは言えど、そう簡単に変わるものではないさ
カイエ:パスエンもそうだが、ゆっくり行こうじゃないか
ミサラ:そうですね……
0:ミサラは少し俯いた後、笑顔を見せる
ミサラ:最初、ここに来た時は、警戒してました
ミサラ:でも、皆さん、まるで、普通の人間のように扱ってくれて
ミサラ:それが、嬉しくて
ミサラ:だから、前より、怖くないです。大丈夫
カイエ:……そうか
カイエ:いい顔だな、ミサラ
ミサラ:今は、仕事中だから、不安な顔はできません
ゼスト:はは、仕事熱心だな
カイエ:そしたら! ほれ! もっと笑顔の練習をしようではないか!
カイエ:受付嬢は笑顔でいることも仕事のうちだろ~!
ゼスト:強要すんな、強要を
カイエ:でも普通に可愛いくないか、ミサラ。もはやお持ち帰りしたいレベルだ
ミサラ:か、かわいい?!
ゼスト:あー、この馬鹿のいうことは気にするな
カイエ:馬鹿とはなんだー! 馬鹿とは!
パスエン:……どうも。こんにちは
ミサラ:……あ!
0:フードを被って、受付所に入ってくる人影が居た
パスエン:元気そうだね、ミサラ
カイエ:人の事がいえんぞ、パスエン。お前だって、フードを被ってるにも関わらず、底からのぞく表情、悪くない!
パスエン:あはは。人が、来るからさ
パスエン:それに、店長にはもっと笑顔になれって言われるから
カイエ:ならそれを披露してみるのだ!
ゼスト:お前な……
パスエン:え?
ミサラ:……
カイエ:ミサラの前だぞ! 笑顔笑顔!
パスエン:……あ。はは
0:パスエンは、ミサラの前でにっこりする
ミサラ:か、可愛い!
パスエン:ええ!?
ミサラ:なでなでしてもいいですか!?
パスエン:ちょ、ちょっと……ぉ
カイエ:むふふ~。スキンシップは互いの信頼関係を深める、とな!
ゼスト:ほとんどお前が誘導してたけどな
カイエ:いいではないか~! 我々のギルドの面々を見てみろ、こんな可愛い子らは珍しいだろうに
ゼスト:ギルドの面々にあやまれお前は
ミサラ:……ゼストさん、カイエさん、改めてありがとうございました
ミサラ:パスエンさんも、本当に、ありがとうございます
パスエン:いや、何もしてないよ。僕もみんなに礼を言わないと
パスエン:ありがとう、ゼスト、カイエ、……ミサラ
ゼスト:礼はいらねえよ
カイエ:うむ! そうとなれば……時にパスエン、君の吸血鬼としての力……是非とも拝見したいのだが、私の研究に役立ちそうな発見があるかもしれなくてな
ミサラ:研究ですか?
ゼスト:吸血鬼の力を使っても、魔道具って作れるのか?
カイエ:わからん!
ゼスト:なんじゃそりゃ!
カイエ:しかし! 研究は常に未知なるものを探索するもの、可能性を追いかけることは、立派なことなのだ
ゼスト:空振りで終わりそうな予感がするぜ……
カイエ:あと、ミサラ! 君の魔力にも興味がある!
ミサラ:私も、ですか?
カイエ:前にも言ったが、君の魔法はセンスの塊だ。より良い魔道具を作り出せるかもしれん
ミサラ:わかりました。でも……まだこの仕事を覚えられなくて、今日もてんてこまいなんですよ……
カイエ:ああ構わぬ!あとでよいあとで!
パスエン:そしたら、僕もそろそろ
ゼスト:お。ならせっかくだ。パスエンの雑貨屋に寄っていくかな。店長にも挨拶しときたいし
パスエン:ぜひ、いらっしゃい
0:ゼストとカイエは、一度受付所からです
パスエン:……すごい、変わったね、ミサラ
ミサラ:え?
パスエン:最初に館に来た時より、明るくなってる
ミサラ:パスエンさんも
ミサラ:……またあのスープ、飲みたいですね
パスエン:あ、それ実は、雑貨屋の店長に気に入られて……スープも出すことになったんだよ
ミサラ:えっ、そうなんですか!?
パスエン:食事するところじゃないのにね、あはは
ミサラ:飲みに行きます!
パスエン:そんな、恥ずかしいよ
パスエン:……じゃ、ミサラ。そろそろ行くね
パスエン:はぁ。今日は日差しがすごいな……
ミサラ:大丈夫です?
パスエン:うん。平気。死ぬわけじゃないし、ただ苦手なだけだから
パスエン:でも、青空はいいよね。見ていて
ミサラ:えっ?
パスエン:館に居た時も、その前も、そんなの考えてなかったから
ミサラ:……そうですね
ミサラ:空なんて見ずに、ずっと森ばっかり
ミサラ:でも、進んで良かったって、思ってます
ミサラ:パスエンさんに会えて、ゼストさんにも、カイエさんにも会って
ミサラ:これで良かったと
パスエン:……そうだね
ミサラ:あ! 仕事、戻りますね! また!
パスエン:うん、また……うぅ、まぶしいなぁ
0:
ミサラ:こうして、森を抜けた私は
ミサラ:新しい場所で、新しい生活を始めることになった
ミサラ:「希望をもって歩いていけ」
ミサラ:兄さんの言葉が無かったら、パスエンさんが拾ってくれなかったら
ミサラ:ゼストさんとカイエさんに出会ってなかったら、今の私はいなかった
ミサラ:まだ不安な事も多いし、時折、怖くて目が覚めるけど
ミサラ:あの時とは、どこか違う
0:ミサラは、黒いお守りを握りしめる
ミサラ:ありがとう、兄さん
ミサラ:……あっ! はーい! 今行きまーす!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?