【声劇台本】Mercy Flower
Mercy Flower(マーシー フラワー)
一つ一つが変わっている
形も色も、みなちがう
だから花は美しいのです
「灼炎の焔」シリーズ作品
4人(男3:女1兼ね役有)
40分程度
男役は、女性が演じても可
ストーリー展開が崩れない多少のアドリブや言い換えは可
良かったらどうぞ
キャラクター
・慈悲(じひ) 男
・ティナ 女
・狼護(ろうご) 男
・輪廻(りんね)男
・キリア 女
ヒデじい様の声劇台本置き場にも置いてあります
シナリオ本文
ティナ:一つ一つが変わっている
ティナ:形も色も、みなちがう
ティナ:だから花は美しいのです
0:
慈悲:姫様はそういって、目を閉じながら笑みを浮かべた
慈悲:「好きな花は見つかった?」と聞かれたが
慈悲:それは、未だに見つかっていない
0:
0:神帝国 第6支部
慈悲:「灼炎の焔」……か
慈悲:「国盗り」という名目で、強い騎士に勝負を挑み、勝てばその場所を制圧したとみなすやり方で、神帝国を攻め落とす……普通では考えられない方法だ
ティナ:しかし、その御方は、国民に手を出しておりません
慈悲:姫様……。おはようございます
ティナ:おはよう。ロテリオ
慈悲:「慈悲」とお呼びください。何度も言っていると思いますが
ティナ:私としては、本名で呼んだ方がしっくり来ますのに……
慈悲:それでも、です。決してこの名前が、嫌というわけではありません。名前を与えられた者として、使命を全うすると決めておりますので
ティナ:……そうですか。では、「慈悲」。話がそれてしまいましたね
慈悲:お話を戻しますが……大和は、我々神帝国の敵です
ティナ:敵……そうですね。灼炎の焔は、大和の人間であり、大和王の息子であると聞きました
ティナ:彼らはまさに、「穢れた血」と呼ばれた、神帝国にとっての敵。確かに、慈悲の言う通りです
ティナ:しかし、果たしてそれは本当なのでしょうか?
慈悲:……と、いいますと?
ティナ:彼は、なるべく被害を出さない「陣地とり」をしている
ティナ:普通なら、たくさんの民を根絶やしにしても、おかしくはないでしょう
ティナ:攻めたのはこちらだというのに、優しいやり方を選んでいる……そんな方が、本当に敵なのかと
慈悲:そうですが……
ティナ:……そういえば、先日、また一つ、綺麗なお花が咲いていましてね
慈悲:? 花ですか?
ティナ:慈悲。この間、連れて行ったばかりでしょう……
慈悲:あ、ああ。そうでした。すみません
ティナ:……そのお花は、赤く、鮮やかに、咲きほこっていました
慈悲:赤、ですか
ティナ:はい。他の花と違って、とてもよく目立っています
ティナ:でも、なぜか、他の花の美しさを消すことなく、周りと調和している。不思議な花です
ティナ:そこで私は思いました、この花も、大和の方と同じではないかって
慈悲:つまり、害はない、と言いたいのでしょうか
ティナ:もう……。少しは、汲(く)み取ることを覚えなさい
慈悲:申し訳ありません。どうしても疎(うと)いもので
ティナ:……構いませんわ。きっといつか分かります
0:そこに1人の騎士が慌ただしく入ってくる
慈悲:どうした?
騎士団兵:報告! 第6支部内に侵入者が!
慈悲:何……?
騎士団兵:突然、門の前に現れて……
ティナ:その者は、どちらに?
騎士団兵:もう間もなく、こちらに来るかと……
慈悲:まもなく? 他の兵はどうした?
騎士団兵:……申し訳ありません
騎士団兵:我々だけで、抑えきれなく……
慈悲:抑えられない? どういうことだ?
騎士団兵:その者、「大和の人間」と名乗っていて……野次馬かと思っていましたが…とんでもない強さで
慈悲:……分かった。そいつをこの場に通せ。私が相手をしよう
騎士団兵:はっ
0:しばらくして、先ほど報告に来た騎士団兵が、その人間を連れてきた
狼護:わざわざ通してくれるなんざ、寛容なんですな。神帝の人間は
慈悲:何者だ?
狼護:俺の名は、「狼護」。そこにいる皇女さんの首、獲りにきやした
慈悲:姫様が狙いか?
狼護:ええ。偉い方の首もらわないと、示しがつきませんのでね
慈悲:……どういうことだ?
狼護:大和王の第一子息「焔」。耳に入ってるんでしょ?
狼護:俺は、その焔殿下の、従者です
ティナ:……本当に、大和の人間?
狼護:その通り
慈悲:待て。支部を攻めてきた大和は、二人と聞いたはずだ
狼護:それがなぜかって? そりゃぁ、俺だけ別なんでね
狼護:殿下と一緒に行動するなんざ、ありえない
慈悲:っ!
0:狼護は手足を広げて、構えを取る。慈悲もそれに合わせて剣を抜いた
狼護:「国盗り」なんて……殿下のやり方は甘いんですよ。そんな人には、誰もついていけやしません。何より、民が納得できないはず……
狼護:だから代わりに、殿下ができないことを、俺がやる
狼護:神帝のお姫様。その命、頂戴いたしやす
慈悲:悪いが、そうはさせない
ティナ:慈悲
慈悲:大丈夫です。姫様は下がっていてください
狼護:あんた、皇女様の護衛かなにか?
慈悲:姫様の護衛と、この第6支部を任されている。「名前付き」の一人、慈悲だ
狼護:名前付き……? あぁ、どっかで聞いたな……。騎士の中で強い人間に与えらえる、特別な名前だとか
狼護:なら、是非ともその強さ、拝見といきますかい……!
0:狼護は両手をかざす。瞬間、手に段々と風が集まっていく
慈悲:……っ、風を使うか
狼護:これが俺の術。
狼護:拳と足を使って、風を生み、攻撃の手段にする
狼護:まず一発目は、こいつだ
狼護:風闘術(ふうとうじゅつ)その二「鎌鼬(かまいたち)」
0:狼護は手を勢いよく前に突き出し、渦上になった風がすかさず発生し、慈悲に向かって飛んでく
慈悲:風が、渦を巻いてこちらに……
慈悲:だが、この程度なら……!
慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ)第9番「リカバリー」!
狼護:ほう、やりますなぁ
慈悲:そのまま、攻撃に移る!
慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ)第2番「蓮制斬(れんせいざん)」!
狼護:おーおー、まっすぐ来ますなぁ
狼護:なら……こっちも
狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その七「風打連撃(ふうだれんげき)」
慈悲:……風が……手数が多いッ!
狼護:はぁっ……!
0:狼護の手足から繰り出される、風の勢いを使った連続攻撃を、慈悲は、避けつつ、剣で防御する
慈悲:くっ……!
狼護:顔が歪んでますぜ。名前付きってのは、これくらいの実力たぁ……知れてますな
慈悲:攻めるばかりが強いわけじゃない……。そこだ!
狼護:っ……?
慈悲:騎士剣術(きしけんじゅつ) 第12番
慈悲:二連抜突(にれんばっとつ)!
0:慈悲は、一度まっすぐ突き攻撃を放つ。狼護はそれを一回避けるが、二度目の突き攻撃を予想していなく、気をとられた
狼護:っ……!
慈悲:まだ、もう一突き……!
狼護:それは流石に返しますぜ、っと……!
狼護:風闘術(ふうとうじゅつ)その三 「回し風(まわしかぜ)」!
慈悲:っ……ぐっ……二連抜突を……風を起こして、止めたか
狼護:……確かに、並大抵の実力じゃあ、なさそうですな
輪廻:でも、それがもう1人増えちゃったら、どうなるんでしょうねぇ?
狼護:っ!?
輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第3番 「キネスティンガー」
狼護:っ……!がぁ……っ
輪廻:見切りづらいでしょ、これ? それが、僕の槍なんで
狼護:こいつ……は?
ティナ:輪廻……! 来ていたのですか!?
輪廻:いやぁ、なんか暇つぶしに寄ってみたら、騎士団兵さんみんな意識失ってるからさぁ。大丈夫?って思ってきたんですよ
輪廻:そしたら、慈悲さんがすんげー戦ってるから、マジモンじゃんこれ~!って
輪廻:っていうか、こいつ何なんすか?
慈悲:大和の人間、らしい
輪廻:へぇ~! 二人だけかと思ったんですけど、もう一人いたんですねぇ
輪廻:お? なんだこれ?
0:輪廻は狼護の髪を無理やり引っ張る
狼護:ぐっ……あ!
輪廻:へぇ~! 獣耳だ! すごいや、本物じゃん!
輪廻:これ、売ったらいくらになるんですかね?
輪廻:せっかくだし……このままちぎっちゃおうかなぁ!
ティナ:お辞めなさい!
0:ティナの怒号が、支部内に響く……
輪廻:……冗談ですよ、冗談。マジになんないでくださいよぉ
輪廻:でもいいのかなぁ。こいつ、大和なんでしょ?
輪廻:しかもティナお嬢様を狙いに来たんなら、殺したほうがいいですよ
ティナ:……
狼護:……とっととやれよ
輪廻:ほら、こう言ってるんだしさぁ
ティナ:……いえ
輪廻:へ?
0:ティナは少し目を閉じた後、何かを決心したような顔で、狼護の下へ歩み寄る
狼護:……はっ。そうかい、そうかい。皇女自ら、手をかけるってか?
狼護:……せいぜい、すきに殺せよ
ティナ:……治癒術を施します
狼護:……?
輪廻:いやいや、ちょっとちょっとぉ!
ティナ:なんでしょうか?
輪廻:何でしょうかって。こいつさっきまで敵だったんですよ? 分かってるでしょ、そんなこと?
ティナ:あなたの言う通りです、輪廻。彼は先ほどまで私達を敵とみなし、襲ってきた
ティナ:でも彼は、自分の身を挺(てい)してまで……そこまでして、神帝国へ報復を果たそうとした。その大きな憤怒(ふんぬ)を生んだのは、私達です
慈悲:姫様……!?
輪廻:うそでしょ!? それ考えなおしたほうがいいですって!
ティナ:私が責任を取ります
ティナ:……狼護、と申しましたか?
狼護:……本気か?
ティナ:はい。……私は、神帝国がやったことを、今でも疑問に思っています
狼護:……口では、何とでも
ティナ:そう思っていただいて、構いません
0:ティナは手をかざし、狼護の傷を治していく。彼の体がほんのりと光に包まれた
狼護:……っ
輪廻:ティナお嬢様。……あなたってひとは。何処までもお人よしすぎますよ
ティナ:全ての人間に対してそういうわけではありません
ティナ:最初は警戒しておりました
ティナ:でもその後、慈悲との闘いの中……戦っている表情一つ一つから、やむにやまれない恨みを感じたのです
輪廻:恨みなんて持たれて当たり前でしょ?
輪廻:そこに気を止めなくても、神帝国が滅ぼした事実は変わらない。現実はいつものようにまわってる
輪廻:戦いを知らない人たちは、普通に暮らしているでしょ。それでいいじゃないですか
輪廻:なのにそれを? 今更? 掘り返すかのように、滅ぼした相手を、愛の心で受け止めますって?
ティナ:恨みを持たれて当たり前な事をしているからこそ、こちらから歩み寄らねばなりません
ティナ:相手にも何か理由があったのだと、思う事が大切なのです
輪廻:……はぁ。だからさぁ、そういう所ですよ、良くないの
ティナ:輪廻。私などが、愛をとくつもりはありませんが、少しは理解をしようと努力をしてもいいのではないですか?
輪廻:なんでさ?
ティナ:あなたは殻に閉じこもっている。そうやって卑屈な見方をして、心地が良いのですか?
輪廻:それは慈悲さんも同じでしょ。その人も殻のように固い
ティナ:慈悲は違います。彼は元々が固いんです
慈悲:……固い、ですか
ティナ:そうです!
ティナ:でも慈悲は、固いなりに理解をしようと、歩み寄る姿勢が見える
ティナ:それは殻を使って、周りと関係を遮断しているあなたとは、大違いです
輪廻:……ちっ。幸せな頭してるよな、ほんと
慈悲:輪廻。言葉をつつしめ
狼護:……はは
ティナ:何かおかしかったですか?
狼護:いいや……なんだか、殿下に似てると思って……どこか
ティナ:私が? そうなのですか?
狼護:ええ
狼護:……で、俺をどうするんです? このまま自由の身じゃないでしょうに
ティナ:今なら体も動くはず。私を手にかけることはできますよ
狼護:……やる気が起こりません
ティナ:……そうですか
慈悲:姫様、お言葉ですが、この者が支部へ入り、我々の命を狙おうとした事は間違いありません。殺しはしなくとも、なにか処罰を与えるべきかと
狼護:構いませんよ、別に。牢屋でもなんでも、何処にでも(連れていきゃあ……)
ティナ:(さえぎる)では。……行き先ですが。……この支部の近くに、綺麗なお花畑があるんですよ
狼護:……ん?
慈悲:なっ!?
ティナ:せっかく支部に来られたのですから、彼にも見ていただきたいのです。
ティナ:では、狼護
慈悲:待ってください! 私も、お供します。もしものことがあればいけませんので
ティナ:分かりました。
ティナ:輪廻は、どうします?
輪廻:ついて来いってこと?
ティナ:もしよければ
輪廻:どうでもいいよ
ティナ:でしたら、私たちが出向いている間、支部をお願いします
輪廻:……おおせのとおりに
0:
0:
0:支部から少し離れたところ、草むらを少しかき分けた先にそれはあった
0:青空の元、色とりどりの花が咲いているお花畑が、ティナたちを迎え入れるように存在していた
狼護:……これ、は
ティナ:どうですか、狼護
狼護:……
慈悲:ここに来るのも、何度目か
ティナ:慈悲は、好きなお花、見つかりましたか?
慈悲:いや、まだ
ティナ:ふふ、見つかるといいですね。焦らずゆっくり
ティナ:あ、そうそう! 先ほどお話ししました赤い花、えっと……あそこ!
ティナ:ほら、ご覧なさい、慈悲
0:ティナが指をさした先に、真っ赤に咲く赤い花があった
慈悲:……確かに。不思議ですね。ひときわ目立っているのに……全体でみると、違和感がなく、調和がとれている
ティナ:きっと、人間同士の在り方も、このお花畑だと思います
ティナ:どちらの国だろうと、どんな生まれでも関係ありません
ティナ:個性が違うから、世界は魅力的なのです
慈悲:っ?
0:ティナは自分の両手を組み、穏やかな口調で、言葉を紡いだ
ティナ:1つ1つが変わっている
ティナ:形も色も、みんな違う
ティナ:咲いている花によっては、私達の見る景色を変えてくれる
ティナ:だから花は、美しいのです
0:ティナはそういって、慈悲と、狼護に向かって微笑んだ
狼護:……あんまりですよ、こりゃ
ティナ:お気に、召しませんでしたか
狼護:……いいや、逆です
ティナ:えっ?
0:ティナは一瞬、狼護のいう事にきょとんとした。しかし、狼護が、目から涙をこぼしている姿を見て、ティナは再び微笑み返す
狼護:大和ノ国にも、似たような景色の、いい場所がありましてな……
狼護:こんなにも綺麗なんざ……反則ですぜ
狼護:……畜生
ティナ:ふふ。正直な方なのですね、狼護は
ティナ:……慈悲。これも、ある意味処罰ではないですか?
ティナ:こんなにも、泣かれておられるのですから
0:慈悲はやれやれと言わんばかりに、ティナへ笑みを返した
慈悲:姫様が、そうおっしゃるのであれば
狼護:……くそ…………クソっ……
0:狼護は泣く。重くこびりついたものを、一つずつ、洗い流すように
0:
0:それからしばらくの間
ティナ:落ち着きましたか?
狼護:……はい
ティナ:それでは、いったん戻りましょうか
ティナ:良かったら、大和ノ国のこと、教えてくださいな
0:
0:その頃、第6支部にて
輪廻:はぁー。ひどく暇だ
輪廻:……ティナお嬢様。何にも分かってないよ
輪廻:花なんて、勝手に咲いて、枯れるだけじゃないか
輪廻:そんなものに価値を感じる理由が、わからない
輪廻:……慈悲さんも慈悲さんだろ
輪廻:あいつも分かってないくせに、何を真摯にお嬢様に従ってるんだか
輪廻:真面目って、毒にも金にもならないのにさ
0:慈悲の名前を出したせいか、輪廻は無意識に歯を食いしばった
輪廻:……くそが。なんで慈悲さんなんだよ
輪廻:不公平もいいところだろ
輪廻:……それか、もし公平になりたかったら「理解するように努力しろ」って?
0:輪廻は少しずつ口角を上げ、不気味に笑う
輪廻:……はは、はははははは!
輪廻:……ばっかばかしい
輪廻:そう、本当にね
輪廻:だから……
0:
0:第6支部に戻ってきたティナたち
0:しかし、行く前と様子が違う事に、狼護が気がついた
ティナ:ただいま、戻りました
狼護:……誰もいない?
ティナ:あれ? 他の者は?
慈悲:おかしいな。まだ任務の時間は終わっていないはずだ
慈悲:……っ!!
慈悲:姫様! 下がってください!
ティナ:えっ!?
0:慈悲は後ろから殺気を感じ、剣を抜いた
慈悲:っ、お前たち……! 何のつもりだっ! なぜ剣を抜いている!
ティナ:どうしたのですか!?
狼護:どうにも様子がおかしいですな……これは
狼護:兵士さんたちの眼、どこか変だ
慈悲:何者かに……操られている、ということか?
狼護:分かりませんが、その可能性は高いかと
0:騎士たちは、狼護と慈悲に剣を持ち、襲い掛かる
慈悲:っ……! 騎士剣(きしけんじゅつ)第3番
慈悲:「スティンガー」!
0:慈悲は、襲ってきた騎士の胴体部分をついて、勢いよく相手を倒した
慈悲:……っ、どうなっている?
輪廻:慈悲さん! 助かりましたよ
慈悲:輪廻! 一体何があった!?
輪廻:いや、それが僕にもよくわかんなくて
慈悲:……もしや、例の「裏切り者」たちが、何か仕掛けたのか?
輪廻:さぁ? それか、こいつらが元々裏切り者っていう線か、どっちかでしょ?
慈悲:とりあえず、姫様を安全なところに。出口へ……
狼護:いいや。出口も見事に……ほれ、塞がれてる
慈悲:お前たち……
狼護:他に場所は?
慈悲:……屋上しかないか
輪廻:慈悲さん。お嬢様は、僕が
慈悲:ああ。あとは食い止める。頼めるか?
輪廻:もちろん
0:輪廻はティナをつれ、教会の外へと向かう
慈悲:狼護、すまない……戦えるか?
狼護:もう戦ってますよ。慈悲さん
0:狼護は澄ました様子で返事をした
慈悲:……ありがとう
狼護:兵士さんたちは、気を失わせる程度で?
慈悲:ああ。協力を頼む!
0:
0:第4支部 屋上
0:輪廻は後ろを警戒しつつ、ティナを屋上へつれてくる
輪廻:ここまで来たら安心ですよ
ティナ:ありがとうございます
輪廻:いえいえ。あとは慈悲さん達が片付けてくれるでしょ
ティナ:……片付ける、という言い方はよくないですね
ティナ:彼らは何者かに操られている。敵ではありません
輪廻:……またそれですか
輪廻:そんな悠長にしてたら、「裏切り者」に騙されますよ?
ティナ:……えっ?
輪廻:黒術(こくじゅつ) 第17番
輪廻:止縛冥呪(しばくめいじゅ)
ティナ:っ……からだ……が!
ティナ:これは……こく……じゅつ?
輪廻:そうですよ。禁忌(きんき)とか言われてるんですっけ? 古いですよね~考え方
輪廻:使えるものは使えばいいのにさ
ティナ:あなた……なぜ?
輪廻:なぜだと思います? 分かりますか?
輪廻:……僕はね、思い出してほしかったんですよ
ティナ:……何、を?
輪廻:ほら。お嬢様は忘れちゃってる
輪廻:そう、馬鹿共のせいで記憶が飛んでしまった
ティナ:……えっ?
輪廻:今は、傷が癒えてますけど、振るわれた傷跡は、心の中に残っている
輪廻:その傷跡と一緒に、僕と居た日々もどっかに行っちゃった
輪廻:そう、お嬢様は、忘れているから、いつもぬるいことが言える
輪廻:大和の人間は敵じゃないとか、1人1人は花のように違うとか
輪廻:その「忘却されたティナお嬢様」という状態で、ずっと生き続けている
輪廻:次の日も……次の日も
ティナ:……あなたは、何を言って?
輪廻:だから思い出してください
輪廻:偽りの輪廻から、貴方を解き放ちます
輪廻:黒術(こくじゅつ) 第37番
輪廻:「浮憶回出(うおくかいしゅつ)」
ティナ:……あ、ぁぁ……ああ!
0:
慈悲:っ……これで……全部か?
狼護:……ですな
慈悲:すまないな、狼護
狼護:謝る必要が何処に?
狼護:助けてもらった礼っすよ、これは
慈悲:……ありがとう
慈悲:しかし……このような事を、一体何者が……
狼護:……そういえば、思ったんですが
狼護:あの輪廻って人、これだけ騎士団の人が変な状態になってんのに……何ともなかったような
慈悲:奴も名前付きだ。誰かの術中にやられる人間ではない
狼護:……でも、その「誰か」の事、喋ってました?
狼護:俺達が居ない間、ずっと居たんでしょ?
慈悲:……それは、そうだが
慈悲:なら、その間に何があったのか、輪廻に聞こう
0:慈悲は、狼護の言葉から、得体のしれない嫌な予感を感じていた
慈悲:屋上へ
0:
慈悲:(狼護の言葉が、嘘であってほしい)
慈悲:(輪廻はいつも不真面目な態度をとっているが、武器を取ればしっかり戦ってくれる)
慈悲:(だが、屋上へ向かう階段をあがればあがるほど、なぜか、私の中の不安は膨れ上がる)
慈悲:(やがて、その不安は、目の前に移った光景を見て、現実と化してしまった)
慈悲:姫……様?
ティナ:……あぁ、あぁ……あ
輪廻:そう、そうだよ、それでいいんだよ
慈悲:輪廻……
慈悲:何をしている?
輪廻:あぁ、慈悲さん。早かったね
輪廻:そりゃそうか。だって僕と同じ、名前付きか
慈悲:姫様に何をしている!!
輪廻:思い出させてあげてるんだよ
輪廻:お嬢様、僕の事忘れちゃったから
慈悲:その術は……なんだ?
輪廻:黒術(こくじゅつ)だよ。これを使って、ティナお嬢様の記憶を呼び起こしてるんだ
輪廻:こうやって……さぁ!
ティナ:あ、ぁぁ! あああ!
慈悲:辞めろぉぉおお!!!
0:慈悲はすかさず剣を抜き、輪廻に斬りかかる
輪廻:なんだよなんだよ! ティナお嬢様に手を出すなって!?
慈悲:お前は! いち個人の為に傷つけるのか!!
慈悲:禁忌(きんき)の術を使ってまでして!
輪廻:あんた……何にも見えてないんだな
慈悲:何……!?
輪廻:お嬢様が記憶を失ったのは、階級の高い人間たちに傷つけられた
輪廻:この神帝国の、上層部だ
慈悲:っ……上層部が……?
輪廻:ああ。この人が再び僕の前に現れた時、それはそれは「どなた?」って言われたよ
輪廻:もう最悪だ……ああ、最悪だよ!!
輪廻:お前にこの気持ちがわかるか!? ええ!?
慈悲:……くっ!
輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第10番
輪廻:「ラン・スケルト」!
慈悲:……がぁぁぁっ!
輪廻:あんたが、たまたまこの第6支部を担当する名前付きってだけでよ
輪廻:お嬢様の隣に居やがって……
輪廻:見ていてずっと、嫌な気分だったよ……!
輪廻:だからついでだ。ここで息の根を止めてやるよ
狼護:慈悲さん!
輪廻:でしゃばんじゃねえよ……大和の犬が!!
輪廻:黒術(こくじゅつ) 第20番
輪廻:闇獣招来(あんじゅうしょうらい)
狼護:なんだこいつら……? 黒い獣か?
輪廻:せいぜいそいつらと遊んでろよ。お似合いだろ、お前には
狼護:はっ、イキな表情してることで。あんたのペット、教育がよくされてますなぁ
慈悲:狼護!
狼護:大丈夫っすよ。こいつらぶっ倒して、ティナお嬢様のところまで向かいます
狼護:ま、こっちは任せてくださいな
慈悲:……すまない。私は……輪廻を
輪廻:あれ? もう協力しちゃってんすかぁ!? 大和の人間なのに?
輪廻:もしかして、ティナお嬢様が言ってる事に納得しちゃった? お花畑なんかみて!? ロマンスもここまでくると反吐がでるな!
慈悲:……お前は、姫様を大切に思っているんだろう……?
慈悲:その行為が、彼女のためになっているのか!?
輪廻:分かったような口を聞くな!
輪廻:あんたと僕じゃ、お嬢様と居た時間は全然ちがう
輪廻:一部分しか見えてない奴が、隣にたってんじゃねえよ!
慈悲:いいや! それでも!
慈悲:私に言った数々の言葉は、花を愛していた姫様の姿は、本物だ!
輪廻:その姿が例え、自分の苦しい記憶を忘れているとしてもか!?
慈悲:だからといって……姫様の悲しい顔を見せてまですることか……!!
輪廻:説教するなよ! 慈悲さぁん!
輪廻:さっきから上から目線ばっかりでさぁ……!
輪廻:いくら先に、名前付きになったからって、調子に乗るんじゃねえよ……!
慈悲:っ!
輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ) 第4番
輪廻:「キネルトラスト」!
慈悲:……槍が、湾曲して! どこだ!?
輪廻:後ろ後ろぉ!
慈悲:っ……がぁっ!
輪廻:ほらぁ、反応ができてない
輪廻:それもそうか。いっぱしの騎士団兵とおんなじ事しかできないもんなぁ
慈悲:……真っ直ぐ来たかと思えば、横から、後ろからも来る……!
慈悲:……いつ時も厄介だ、お前の術は……!
輪廻:だから色々対応策を考えてたんだよねぇ。なんか、氷連術(ひょうれんじゅつ)も習得してましたっけ?
輪廻:でも、聖典さんと比べたら中途半端! 何にも得られていない!
輪廻:つまり……あんたは雑魚でしかないんですよ、慈悲さん
輪廻:ただの騎士団兵と変わらない
慈悲:……ぐっ
輪廻:ティナお嬢様には、あんたが裏切り者に殺されたって言っておくよ
輪廻:そして、裏切り者は大和を使って、お嬢様を消そうとしたと報告する
輪廻:最後は全部、僕が始末したってね……!
0:
0:
0:一方、狼護は、輪廻が召喚した黒い獣たちを倒していた
狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その七
狼護:旋牙風走脚(せんがふうそうきゃく)!
0:狼護は目然にいる黒い獣を、風を纏った脚で攻撃する
狼護:こいつを倒したら、ティナさんに手が届く……!
ティナ:……ぁ、ぁ……
狼護:ティナさん……!聞こえますか!?
ティナ:……あ……ぁ……ぅ。うぅあ……
狼護:……っ。駄目だ……呼びかけても、反応がない
ティナ:……ア、ル………。ロテ、リ……オ
0:ティナは嗚咽を漏らし、目を閉じて気絶する
狼護:この人が……こんな顔するなんてな……
狼護:……これじゃ……殆ど俺達と変わらねえよ……
0:
輪廻:じゃ、さよなら、慈悲さん
輪廻:あんたとの腐れ縁も、ここまでだ……!
0:輪廻が慈悲を、槍で刺そうとした
輪廻:っ……? ……止め、られた?
慈悲:……白術(はくじゅつ) 第1番
慈悲:「ホーリーバリア」
輪廻:……白術(はくじゅつ)、だと?
輪廻:なんであんたが、そんな術……!
慈悲:黒と相対する、白き術、とても習得できるものでないと思っていたが
慈悲:やっと、まともに出せるようになったか
0:慈悲は剣を白く光らせると、辺りが白い霧のような何かに包まれた
輪廻:っ!? 視界が……!
輪廻:くそ……なんだ、なんだこれ?!
輪廻:周りが……白く!?
0:
0:
慈悲:白(しろ)へ授(さず)けよ
慈悲:聖(せい)なる守護(しゅご)を尊(とうと)い、その命(めい)を
慈悲:永久(えいきゅう)の天王(てんおう)へ返還せん
慈悲:白術(はくじゅつ) 第20番
慈悲:白魔 天生抗(はくま てんせいこう)
0:
0:瞬間、輪廻の身体を白く大きな光が突き抜けた
輪廻:ぐ、がぁぁぁっ!!
0:
慈悲:……ここまでだ
輪廻:っ、くそ、くそ、くそがぁぁぁ!
輪廻:念槍術(ねんそうじゅつ)、第……!
狼護:風闘術(ふうとうじゅつ) その十
狼護:駆風疾爪(かふうしっそう)!
0:狼護は風の爪で、駆け抜けるように、輪廻を攻撃した
輪廻:ぐっ……がぁっ!
狼護:他の黒い獣は片付けやした。さっきのは、やられた借りです
輪廻:クソ犬がぁぁぁっ……!
慈悲:姫様は?
狼護:意識を失ってるけど、怪我はなし
慈悲:そうか……助かった
0:慈悲は狼護にそう言った後、倒れている輪廻に近づく
慈悲:まだやるか? 輪廻
輪廻:なんだよ? その顔
慈悲:……姫様なら。いや
慈悲:私の中にある、騎士道精神に従って、選択をするだけだ
慈悲:輪廻、お前に「慈悲(じひ)」をくれてやる
慈悲:このまま殺さずに捕らえる。命をもって、罪を償え
輪廻:……はは、ははは!
輪廻:何もかも忘れた姫様なんかの言葉に、影響なんか受けちゃって
輪廻:あんた……マジで嫌いだよ
キリア:あっちゃー。 滅茶苦茶押されてるじゃーん 輪廻くん
狼護:っ? 誰だ?
キリア:あー、気にしなくていいですよ~ん! すぐ退散するから~!
輪廻:……キリア、いつの間に
慈悲:キリア……?
キリア:どうも。名前付き候補だった騎士のキリアたんでーす! 今は訳あっていないんだけど~、そこんとこよろしくー!
慈悲:そうだ……確か、失踪したと耳に入っていたが……
キリア:慈悲くんは、はじめましてかな? ふむふむ、輪廻くんと同じくらいの年齢かな? か~わいい
慈悲:……お前たち。まさか二人とも、「裏切り者」側か?
キリア:ピンポーン! 慈悲くんに50点プレゼント~!
キリア:……黒術(こくじゅつ) 第20番
キリア:闇獣招来(あんじゅうしょうらい)
狼護:こいつは……さっきとおんなじ黒い獣……でも、なんだ? 数が全然違うじゃあないですか
狼護:……相当、魔力を持っておられる、と
キリア:あれ? ワンコ君、褒めてくれるの~? 嬉しいぴょい!
キリア:まぁ。輪廻君も頑張ってたけどね! ちょっと詰めが甘かったかな?
キリア:……ってことで、とりあえず、動かないでもらえると嬉しいんだけど~
慈悲:狼護、油断するな!
狼護:分かって……。 っ?
キリア:あら? 輪廻く~ん。彼女、起きてるけど~?
輪廻:うるさいな……言われなくても、「仕事」はすんでるって……。……?
ティナ:……っ
慈悲:姫様!
ティナ:ここは?
狼護:ティナさん?
ティナ:あなたは?
慈悲:えっ……?
0:ティナは、慈悲と、狼護、そしてキリアと、輪廻の目を見たあと、そういった
ティナ:あなたたちは、誰?
輪廻:……は?
輪廻:……待てよ、おい。こんな、こんなことになるなんて、聞いてないぞ……!
キリア:うーん、そうね……。浮憶回出(うおくかいしゅつ)は、その人の、刺激の強ーい記憶を引っ張り出す術。記憶障害にまではならないはず
輪廻:じゃあなんで!
キリア:もしかしたら、記憶「そのもの」のショックが、あまりに大きかったのかも
輪廻:……なんだ、それ
キリア:だって、その経験があったから、君の事、忘れてたわけでしょ?
輪廻:……そんな
輪廻:これじゃ……僕のことを……思い出せないまま
キリア:落ち込まないの~、輪廻君。はい、帰るよー
キリア:黒術 第8番「冥楼(めいろう)」
慈悲:っ! 待て!
狼護:……黒い霧になって、消えた……二人とも
ティナ:……何か、あったのですか?
慈悲:……姫様
ティナ:……申し訳ありません
ティナ:姫様、と言われても、何も、わからなくて
狼護:(ティナさんは、終始、どこか途方に暮れたような顔で、ふつふつと言葉を紡いでいた。その姿は、俺が最初に見た時とは、どこか違う)
慈悲:……っ!
狼護:(その隣で、慈悲さんは、血がにじみ出そうなくらい、自分の手を握っていた)
狼護:(そして、激しい感情が静まったあとは)
狼護:(必ず、悲しみが訪れる)
0:
狼護:……慈悲さん
慈悲:分かっている
慈悲:でも、そうやすやすと、受け入れられるか……
0:しばらくの間
狼護:……っ、そうだ
慈悲:……なんだ?
狼護:お花畑、行ってみませんか?
慈悲:…?
狼護:なにをいってんだって思うけど。ほら、ティナさん、花が好きじゃないですか
狼護:そうした方が、いい気がして
ティナ:……お花畑? この近くに、あるの?
慈悲:……っ。……はい
慈悲:とても綺麗な、お花畑があります
0:
0:
0:
慈悲:(夕方になって、ここの花は変わらない)
慈悲:(私の中が、どんな心持ちだったとしても)
慈悲:(景色の感想とは……自分の心によって、変わるもの、なのかもしれない)
慈悲:(そう思っていると、姫様はすかさず、お花畑のほうへ向かっていく)
ティナ:わぁ…! きれい!
狼護:っ、ティナさん?
狼護:ちょい……あ、行っちまった
0:ティナは目をキラキラさせてお花畑へかける
狼護:……きらきらしてますな、ティナさん
慈悲:そうだな。……記憶を失っても、姫様は……変わらない。
ティナ:こんなにお花が咲いているなんて…!
ティナ:ねぇ、見てロテリオ! あそこの花、とても赤くてきれい…!
慈悲:……!
狼護:ロテ、リオ……?
慈悲:……私の、本当の名前だ
狼護:それって……!
ティナ:…あれ?
ティナ:今、私は……?
慈悲:…っ
0:少しずつ、慈悲から嗚咽が漏れはじめる
慈悲:そういうところは……本当に、お変わりないのですね……
ティナ:ごめんなさい。私、ここの事を、殆ど覚えていなくて
ティナ:もし良ければ……どんな場所なのか、教えてくれますか?
慈悲:……ここは、色とりどりの花が咲く場所です
慈悲:でも、どんな花が咲いても、周りの花同士が調和して、一つのお花畑として成り立っている。
慈悲:時が経つにつれて、もしかしたら違う花も咲くかもしれません。そうなれば、また景色が変わっていき、違う形になる
慈悲:そしてその都度、違う感想を持つことができるんです
ティナ:……素敵ですね
ティナ:あなたは……ここが好きなのですか?
慈悲:……はい
慈悲:まだ、好きな花は見つけられていませんが
慈悲:とても、とても…………大切な場所です…………
0:
輪廻:……
キリア:輪廻君、すごーい不機嫌
輪廻:だったら?
キリア:別にさ、記憶が一生、なくなるわけじゃないんだから
輪廻:……何がわかる
キリア:むぅ、つめた~い。ウィルの氷連術並みに冷たいよ、その態度。ぷんぷん!
キリア:……それで? 頼りになる情報はあった?
輪廻:……気になる名前が出てきた、そんだけ
キリア:ご苦労様、十分でございますよー。あとで、ナデナデしてあげよっか?
キリア:あーでも、輪廻くんは、ティナお姫様のほうがいいか。幼馴染なんだよね? それだと流石に私じゃ勝てないかな、なーんて! あっはははは!
0:キリアの楽しそうな笑みがこだました後、再び黒い霧に包まれ、どこかへ消えた
0:
狼護:……
慈悲:ありがとう、狼護
狼護:急に改まって、どうしちまいました?
狼護:俺、あんたを殺そうとしてたんですよ?
0:狼護は冗談交じりに笑って、慈悲に言葉を返す
狼護:……そんな奴をわざわざ、見送りまでしてくれるなんざ、前代未聞ってやつですな、これは
慈悲:確かに、他の名前付きや、騎士から見たら、狼護と同じ感想を抱くかもな
慈悲:でも、お前はお前なりの気持ちがあり、思いがあり、ここに来た
慈悲:そこには敬意を払いたい
狼護:ははっ。さすがナイト様
狼護:あんた達と、会えて良かった
慈悲:こちらもだ
狼護:……んじゃ、俺は行きますわ
慈悲:これからどうするんだ? 例の……灼炎の焔と、合流するのか?
狼護:そうですなぁ……このまま戻るか、どうするか
狼護:今殿下と会ったら「どの面下げて来た」なんざ、言われちまいそうで
慈悲:そうだろうか。きっと、その焔殿は分かってくれると思うぞ
狼護:へ?
慈悲:姫様と似てるんだろ?
狼護:……まぁ、俺の感覚になっちまいますが、ね
狼護:そういえば、その、「裏切り者」でしたっけか? そっちはいかがで?
慈悲:その件だが、私もどう動いたものかわからない
慈悲:……輪廻が言うには、姫様は、暴力を振るわれていた
慈悲:それを無理やり掘り起こした輪廻を、許したわけではない
慈悲:ただ、最初に姫様に危害を加えたのは、神帝国の……上層部たちというのが、信じられなくてな
狼護:……そうですよな、そりゃ。自分の国なんですから、なおさらか
慈悲:まだ私自身……整理ができない……この件はひとまずおいておく
慈悲:とりあえず、最低限の報告はしておかないとな……
慈悲:あと、狼護。お前の件だが「ならず者に襲撃を受けたが、すみやかに撃退した」と、言っておく。お前の名前は出さない。心配するな
狼護:いいんですか? そんな大サービス
慈悲:構わない。私の騎士道精神に従って、決めたことだ
狼護:はは……こりゃぁ、騎士道精神も、舐めたもんじゃないですな
慈悲:精神「も」? ということは、お前たちにも似たようなものがあるのか?
狼護:一応、あります。「大和の魂」っていう、ね
慈悲:大和の魂……いい響きだな
狼護:そんな大したもんじゃないです
狼護:……お世話になりやした
慈悲:礼などいらない。もし焔殿がこちらにも来たら、事情を説明しておく
狼護:ありがとうございます
慈悲:では……さらばだ。大和の戦士よ
狼護:ええ。もし会えたら、どこかで、また
0:互いに握手を交わした
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