夢を語らう書

夢とは、ヒトが睡眠中に体験する明瞭な感覚・意識体験であり、現時点でもっとも妥当と思われる夢の定義は、「ヒトが睡眠中に需要する、感覚・イメージ・感情そして思考の連続体であり、以下の6つの要素を有する。(1)幻覚様のイメージ体験、(2)物語風の構造、(3)断続的で不調和、(4)強烈な情動性、(5)体験していることをあたかも現実のように受け入れる、(6)忘れやすい」というものであろう。

脳科学辞典「夢」https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%A4%A2 より 

今でも小学生の頃に見た夢を一つだけ覚えている。
恐らく小学校2年生か3年生の頃だ。
どこまでも茶色い殺風景な空と山、当時仲の良かった男子2人と共に滑り台さながらにその山の噴火口のようなところへ渦を巻くかのように降りて行った。なんだかその早さが心地良かったような覚えがある。
気づけば底にいて、そこで3人でカルピスを飲んでいた。
ただそれだけの夢、だけど今でもその夢だけは強く脳裏に刻まれている。
当時仲の良かった彼らが今どこで何をしているのかは全く知らない。小学校卒業と共に疎遠になってしまった。

勿論だが、それ以外にも無数に夢を見ている。でも思い出せない。中学生の時も高校生の時も浪人の時も大学生の時も夢は見た。
ああ、一つ高校生の頃に見た夢の話は覚えている。
あまりに個人的すぎるのでここに詳細を書くのは控えるが、ざっくり書くと高校が舞台で、窓から見える向かいの校舎が突然爆発、避難しなければならなくなったその時、一人の我が友人が声高に叫んだ。
「焦るな!まずは目の前のパンを鞄に詰めよう」
アンパンだったかメロンパンだったかは忘れたが、そんな内容だ。
夢らしい、実に頓珍漢なものだ。
もしこのエッセイを高校時代の友人の誰かが目にしたら即座に私の素性が分かるだろう。

小さな頃の夢は視覚的な情報が殆どで音は無かったような気がする。
それが徐々に音がついてきて、前述の夢では明確に音声情報が夢に反映されている。
だが、この頃においても尚、夢の視点はどこか第三者的なものであった。確かに主観的だが、しかしどこか俯瞰している。

ところが、である。
働き始めて3か月が経ったが、ここのところまずよく夢を見る。
そして見る夢の殆どが何とも嫌な夢なのだ。
更にその不快感や嫌悪感は、俯瞰的な主観ではなく眼前たる主観なのだ。
明らかにベッドで寝ながら足をばたつかせていたり、息が止まっていたり、そして最後にはがばりと起きたりということが増えている。
仕事によるストレスが原因と考えるのが一元的には良いのだろう。個人的にはそこまでストレスを感じてはいないつもりなのだが、潜在的には積もるものが多いのかもしれない。
昨晩も卓球の試合の夢を見た。妙に卓球台が高い。トスを上げてサーブを打とうにも高すぎて上手くいかなさそうなのだ。だが、やるしかない。一度目のサーブでは下回転を出そうとしたが、台との高さが上手く合わずにネット。二度目のサーブでは巻き込みで逆横上回転を出そうとしたが、案の定台との高さが合わない。今度はネットまでいかず、結局相手のポイントに。あまりの理不尽さに地団駄を踏んだところで目が覚めた。実際の自分もベッド横の壁を蹴っていた。
冷静に分析すると見えてくるものはある。そもそも私は卓球をやっていたし、昨晩寝る前にYouTubeで卓球の大会の動画を見ていた。そこでは3歳ほどの小さな子が、卓球台から顔が出るくらいの背丈にも関わらず堂々と試合をしていた。
そこに起因するのだろうとは思うが、しかしでは何故自分の夢では失敗続きで終わってしまったのか。
推論の上の推論にはなるが、私は根本的に自分に自信が無い。言ってしまえば臆病者で小心者でひねくれたしょうもない奴なのだ。そういう自己への価値観がこういった夢の終わりを作ったのかもしれない。

これで締めるのはやや暗いので、もう一つ最近見た夢を。

青空と白い太陽がよく映える砂丘と海岸。
砂丘の頂から海に向かってなだらかなスロープのような道が続いており、その先は崖になっている。
私はもう一人の女性と共にその丘の上に立たされている。
私がどんな格好だったかは分からないが、その女性はワンピースと麦わら帽子を被っていた、夏の魔法のような女性だった。
海とは逆の方向の丘の下には銃を構えた兵が何人もいる。さながら長篠の戦での織田軍のように3列縦に並び、最前列の兵は銃をこちらに構えている。
そう、ここは処刑場なのだ。
私と彼女は今まさに処されようとしている。
何か号令のようなものが響き渡る。
同時に銃声も鳴り響く。
幾度となく銃弾は身体を襲っている。
痛い、痛い、痛い
足を、腕を、首を貫いたり掠めたり。
彼女はどうなのだろう、分からない。
兵は何度もその縦列をループし何度も撃ってくる。なのにどれも痛めつけるのみで致命傷には至らない。
気づけば銃声は止み、私達は崖に向かって傷ついた体を引きずりながら歩いていた。
すこぶる快晴、エメラルドグリーンに輝く海。
私と彼女は顔を見合わせた後、海に飛び込んだ。
飛び込む直前にこんなことを語ったような気がする。
「今回もダメだったね、ごめん。また今度」
飛び込んだ海の中もまたエメラルドグリーンに輝いて綺麗だった。
そして息が止まる。
End

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