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月なみ

詞を書くのが楽しい。半分以上はそのために、音楽をつくっている。いわゆる「言葉を紡ぐ」ことによる表現が好きで、小説や詩や短歌などあれこれと挑んできた中で、歌の言葉が一番上手につくれた。音楽は、そのあとからついてきた。

詞と旋律は——もちろん伴奏や声もだが——互いに強く作用しあって、複雑に、立体的に、曖昧に、その響きを変える。同じ詞を別の節で歌えば、きっとその印象はずいぶん異なる。同じ旋律に別の言葉を乗せれば、これもやはり違って聴こえるはずだ。こんなにおもしろいことが、他にあろうか。いや、ある。あるが、とてもおもしろい。

一方、言葉の意味についていえば、正直さほど大きな頓着はない。とはいえ、たくさんの詞を書くにつれ、少しずつ比重が大きくなってきた。気持ちの表れたものが増えてきて、ときどき自分で恥ずかしくなる。

さて、たとえば何か大きな心の動きがあったとして、その元を追えば、ありふれた感情や、あたりまえの景色に辿り着くとする。これをわざわざ言葉にするのは案外むつかしい。事例が多いというだけで陳腐に感じられてしまう。では、これを、歌ってみたらどう聞こえるだろうか。言葉をひねって伝えるのではない。ただひとつ歌の力に頼ってみれば、密度は高まるだろうか。

これはこれで、言葉をひねったことになるのかもしれないけれど。

月なみ
作詞・作曲:あまいさと

「遠くの町で君が笑った」と
言葉にすれば飽きた並びだ

「夢の中で君と歩いた」と
口に出しても安い響きだ

歌ってみたらどうだろうな

たらんらん
ねえ
きっと、たぶん、なんだろう、これでいい
あー
いろいろあるけど、それとして

夕暮れ過ぎに家へ帰ると
桜が舞っていて涙が出るのだ

夜更けの窓を開けっぱなした空に
月が光っていて涙が出るのだ

歌ってみたらどうだろうな

たらんらん
うーん
うつりかわる景色の、どれもいい
うん
それだけの話だ、別に……

たらんらん、らん
たらんらん、とぅっとぅる、ふっふー
これでいい?
あー
明日、君に会えたらなあ

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