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天鳳修行録~アマノ~木原浩一編

光り輝く頭上に惹かれて

主張を強めつつある腹が背広を脱いだ瞬間に姿を現す。迫りくる三十路の恐ろしさを首元に突き付けられて柔らかい肉体と逆に心が固まる男の名は・・・



アマノ


雀荘メンバーから勤め人へ職を変えても女の臭いが漂わぬ生活ルーティンは変わらぬものらしい。男としての卒業は辛うじて済ませてあるものの慣れない空気に萎縮して空回り・・・というのが偽らざる実態であった。

そんな男が背広を脱ぎ捨てスマホで「のどっち 天鳳」でページを開く。このサイトは検索したアカウントのデータや牌譜を閲覧できるサイトであり、アマノはあるアカウントを検索した。



【罪歌】



日本プロ麻雀協会に所属するハg・・・強豪として有名な木原浩一プロのアカウントである。

雀荘メンバーを辞してからの私は麻雀との適切な距離感を測りかねていた。そんな私にとって長く雀荘で生き抜き、今ではネットで切り開いた道でなお麻雀を飯のタネにしている姿にある種の救いを求めたのかもしれない。

会ったこともないヒーローの歩みを私は静かに辿ってみた。


薄い望みに縋らぬ覚悟

牌譜はただ牌の並びを表すものではない。無駄なものを剃り落とし、磨いた腕で何を叫ぶのか?その者の主張を映し出す。彼は一体何を叫ぶのか・・・?

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受け入れMAXはツモ切りであるが裏目は性質の異なる6s7sでたった2種類。受け入れMAXの言葉に騙される男ではない。

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裏目の枚数は・・・薄い!!


眩しいばかりに輝く一打・・・

しかしその後はリーチを受けて回ることとなる。

追加された

更には2軒までも入ることとなる。

追加3

しかしドラを引いたならば・・・

追加分

当初の狙い通りドラを引いたならば2軒が相手だろうが8sを通して猛追だ。


ズルいぞ!!ハゲ!!!



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が、しかし努力の甲斐なくムシられてしまうのであった。


場面は変わってリーチを受けたこの場面。

初めて

現物もある上に字牌トイツ2種類というオリには困りそうもないこの状況だが現物やラス回避という常套句に甘えない。

追加

状況を整理すればまだ通っていないスジも多いうえに仕掛けも効く高打点の贅沢な条件が揃っているのである。そんな情報を逃していては勝てるものも勝てない。

そしてこの手をモノにする。当たり前のように見えるが上級者にこの場面を見せて何人が押し切れるだろう?放銃を恐れてアガリ逃しをするのは所詮は”自称”上級者に過ぎない。

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「ムシれるものならムシってみろ・・・」

意志のある声が牌譜を辿る私の脳裏に届いた

鳴きも使えて打点もある好機なら攻めろ・・・限界まで!!


では攻撃の機会を何が何でも引っ張る男か?というとそうでもない。そんなことをしていてはハラリハラリと点棒が抜け落ちてしまう。

リーチと親の仕掛けが同時に入った場面だ。

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ドラがトイツであるが心中する程に惹かれるか?

答えは否。

ではベタオリか?

それも否。彼の答えは・・・

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彼は髪の毛が抜ける程に思考を働かせて麻雀に取り組んでいるのだ。そんな彼が現物を切ったからとベタオリと言い切るのは失礼というものだ。

もう一度この場面を確認しよう。

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現物は7sと8mであるがターツを構成するバディの牌は性質が全く異なる。

7mは完全なる無スジで危険牌。もしもリーチに差し込めと言われたら真っ先に選びそうなレベルである。反対に6sはどうか?5sがワンチャンスで手詰まりになったらこちらも真っ先に選びそうである。逆転勝利を目指すなら自らの一打で足を引っ張ってはならないのだ。


情報を正しくキャッチして当たり前の答えを導く場況判断の基礎が詰まった場面と言えるだろう。


経験の質と量

木原プロの技術を支えるものは何か?

それは自分に有利な情報を絶対に見落とさないことである。


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一枚目の牌姿は裏目の枚目が薄いことと変化の質と量が申し分ないことはパズル的に理解できるだろう。それにプラスαしてドラ引きやピンフ変化もあってハネマンとなる可能性は大きく差が開くだろう。確認したわけではないが木原プロはそこまで勘案しているのではないだろうか?

追加

二枚目の牌姿はドラ絡みのホンイツで仕掛けも効くという自分の情報だけでなく通ってないスジもまだまだ多いという相手の情報もキャッチしているからこそ押し切るハラを決めたのだろう。

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三枚目の牌姿はまさしく情報をキャッチできているか?ということが問われるのは先に述べた通りだ。


なぜここまで情報を正しくキャッチできるのか?私には想像するより他に答えを導く術を持ち合わせていないが挙げるとするならば競技麻雀というフィールドがカギを握るのではないか?

私のような回数の制限無く打つフィールドで打つにはアベレージを高めて安定性を磨くことが求められる。

しかし彼が戦い続ける競技麻雀は1位とそれ以外しか存在しない麻雀で、どんなに上振れたとしても0.1ptでも上がいれば全てが無に帰すのだ。

とどのつまり上振れた状況で有利な情報を見逃さず活かし切ることが求められるのだ。


私が木原プロの牌譜を辿った感想は本当に不思議なのだが、彼は麻雀でどれだけ悔しい思いを重ねたのだろう?ということだ。彼の選んだ一打一打が悔しさを糧に腕を磨き続ける姿を想像させるのだ。

私はそんなヒーローが映る牌譜をこれからも憧れの目で読み続けるだろう。



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