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短編小説集

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笑いとは別に短編小説を書いていきます。
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2023年5月の記事一覧

【短編小説】ルービックキューブる

自分をルービックキューブる人が居た。 頭の中が多様な色でガチャゴチャしていて、考え方も価値観も気持ちも滅茶苦茶に組み合わさって複雑になっている。 それを整理整頓する為に、人と話すわ、SNSを使うわ。 頭の中を綺麗な色に整える為だけに、全人生を費やしている。 僕はその脳に注射して、中に卵の黄身を入れた その人は「ドクドクドクドク」と喋りだし、僕は「あ、よいしょ!お、よいしょ!」と手拍子を打つ。 DJが曲を最高潮に盛り上げる時みたいに、ドクドクドクドクがどんどん高音へとエスカレ

【短編小説】ジェットコースターに首を並べて発射

※今回はグロテスクな表現がありますので、苦手な方は回避してください。 俺は廃墟の遊園地が大好きだ。 たまにアニメや漫画やゲームに現れる、廃墟の遊園地。 あの、暗くて、おどろおどろしさと可憐な可愛いさが混ざり合った、退廃的で甘美で、不思議の入り口に迷い込みそうな、廃墟の遊園地。 今日俺は、テロを起こす。 この、都内で人気の遊園地で。 そして、呪われた遊園地にして、誰も近寄れなくさせ、見事廃墟の遊園地を作り出すのだ。 包丁に血が付着して刺しづらくなる為、一人につき一つのナイ

【短編小説】人間になる夢を持ったカエル

そのカエルは、どうしても人間になりたかった。 ゲコゲコと鳴いているのの八割は人間になれない悲しみの声であった。 人間は凄いらしい。色々な事が出来て、色々な感情を持っていて、色々な体験が出来る。 そんな噂を聞いて、人間になりたくて仕方なかった。 人間になる為に、まず体を大きくしようと、腕立て伏せを毎日した。 しかし、全然大きくならなかった。 人間のサイズにならないと、人間として扱って貰えない。 カエルはそう聞いて、必死に腕立て伏せをした。 人間は、人間のサイズに生まれていて、

【短編小説】センチメンタルをタイムカプセルに埋めて

私のこの気持ち。 死にたくて苦しくて悲しくて怖くて辛いこの気持ち。 君に、タイムカプセルに埋めたら?って言われた。 意味がわからなかったが、ノートから破った紙にこの気持ちを書いて、公園まで行ってスコップでかなり深くまで掘って、紙を埋めた。 帰り道に、こんなことして何かになるかなって思って、家に着いてしばらくしたら、むずむずして、むかむかしてきた。 私の気持ちが遠くに行っている。 私とくっついていない。 そんな距離の離れた私が居る違和感。 むずがゆい。イライラする。 君にその事

【短編小説】二階席と一階席の狭間から行ける魔法世界

心臓の上には薄いシールが貼ってあって、そこに親の名前が書いてあるの 君はそう言って、僕の口の中にベロを突っ込んで両手で僕の頭をクシャクシャにした 窓の外では包帯を巻いた何匹もの鳩が、東京から離れようと飛んでいる 東京はもう終わりみたい 君はベロを突っ込みながら僕にそう言った 渋谷の地面がモリモリ大きくなって、一つの山がそびえたったのが二年前 そこに点在していた店は燃えて全焼、焼け切ったあとに木々や川や滝が自然発生し、山としての形を完成させた 池袋には谷底が出来て、ワニが待ち

【短編小説】地球儀大好き!

地球儀を回転させながら大好き!と言う大統領 今日も落とし穴を掘っている 地球儀とこの世界を少しズラす為に 今日も落とし穴を掘っている 地球儀なんて偽物、憎くて仕方ない こんなもの、こんなもの 小さな地球儀を卵入れる容器に全部詰めて、冷蔵庫で保管する 晩御飯ごとに、卵容器の一番手前に入ってる地球儀を手に取り、お皿の角向けてドーン!!!とぶつけ、割れた地球儀の破片をお皿に盛り付けて、それを眺めながら七面鳥を食べる 地球儀なんて、いつも回っていろ 目をくるくる回し、まやかしの幻

【短編小説】洗濯バサミで鼻をつまむと絶頂

この世の人間界のピラミッドの頂点は、洗濯バサミで自分の鼻をつまむことだ。 洗濯バサミで鼻をつまむと、物凄いエクスタシーを感じて、クジラは爆発し、飛魚は引き裂かれ、ラッコは木っ端微塵になる。 それほどまでに、洗濯バサミで鼻をつまむエネルギーは物凄い。 この事を、5年付き合ってる彼女に、極秘で教えた。 「は!?んなわけないじゃん。鼻が痛くなって、呼吸が苦しくなるだけだよ」 俺はビビった。 洗濯バサミ様のことを、そんな扱いとして喋るなんて。 恐ろしい。 とてつもなく、恐ろしい。

【短編小説】犬について書き留める14:30の私

ワンワンワン! ワンワンワンワン! 犬が吠えている様子を、自由帳に書き留める。 私の頭の中には小さなダックスフンドが住んでいる。毛並みの茶色が輝く光のように美しく、瞳は真っ黒で私の脳の中を吸い込むようだ。 そのダックスフンドは頭の中を歩き回り、その足跡が点々と頭の中に付いている。その足跡が私に思考・感情・気付き・感受性、等全てを与える。 ダックスフンドが頭の中を踏み歩く。 踏む。考える。踏む。喋る。踏む。食べる。 踏む事によって私はアクセルを鳴らし動く事が出来る。 時折、

【短編小説】船から降りる事、降りない事

吾輩が乗っている船が、島に到着した。 島では「おいで わたしたちのもとへ」と書かれたアーチが設置されており、観劇ムードって事だ。 船に乗っていた11人の内、吾輩以外の10人はそそくさと船から降り、島の住人の元へ歩いて行った。 吾輩だけ、吾輩だけが、船から降りずに、自室にこもっていた。 何故降りなかったのか。 それは、吾輩にもわからない。 予感、のようなものだろうか?いや、そうではない。 不安?特に不安は無い。 何度もこの島には来ており、住人はその度に温かく迎えてくれている。