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自分のこと呪術士だと思ってる白魔道士 その13

!ネタバレ注意!
※FF14 メインクエスト Lv16 「タムタラの仄暗い底で」

 サスタシャでの出来事を報告したのち、二人は森の都・グリダニアに向かうことになった。グリダニアの冒険者ギルドからも、二人に依頼が入ったというのだ。

「エオルゼアに来たばかりの頃には考えられんほどの引っ張りだこじゃね」

 グリダニア行きの飛空艇に乗り込み、座席に腰かけたベハティは、眼下に広がる黒衣森を見つめている。空には分厚い雲がいくつも寝転がり、気怠そうに広がってはあたりの空気を濃い灰色に染めていた。隣に座ったベンは、彼女の言葉にうなずくと少しだけ微笑んでみせる。

「一角の冒険者と認められるにはまだ実績不足かとも思ったが……優秀な魔法使いが一緒にいるお陰か、どうやら私たちは随分と順調らしい」

 確かに、エオルゼアでの出向任務は今のところ順調だった。魔法管理局に拾われた当時のことを思うと、随分と短い下積み時代だったと感じてしまう。

 ベハティはもともと、住んでいた森を離れひとりでいたところを犯罪組織に拾われ、魔法の力を利用されて生きてきた。都合の良い道具として扱われ、ろくにその国での常識も法も生きる術も教わらないまま過ごしてきたのだ。

 現在所属している組織――エオルゼアとは別の大陸にある政府機関・魔法管理局の局長に重要参考人として保護されてから、犯罪に加担してきたことを償い、長い月日を繰り返し周りの手助けを受けながら地道に活動してきた。

 すべては「ここにいることを認めてもらうため」だ。それでもなお、信頼を得るためにこうして異国での任務を遂行すべく駆け回っているのだ。

 自分を拾った局長のことを思い出すうち、グリダニアに到着してすぐに訪れた冒険者ギルドでも、自分に親切にしてくれた人間がいたことに思い至る。彼女は自分のことを覚えているだろうか?

 曇天の下を進んでいた飛空艇が緩やかに減速し、雨に打たれて濃度を増した森と、すこし湿った木の香りがした。続けて、大きな水車の回る音。グリダニアの冒険者ギルド・カーラインカフェの地階にある飛空艇の発着所に、二人は降り立っていた。

カーラインカフェ

 グリダニア・ランディングから上階へと続く螺旋階段を昇っていく。大きなステンドグラスから差し込む光に照らされた茶房・カーラインカフェには、今日も冒険者やグリダニアの住人たちの安息で満たされていた。二人が階段を昇り切るとすぐ、凛とした声が二人を呼びとめる。

「おやおや誰かと思えば、ベハティじゃないか!」

カーラインカフェ・カウンター

 ベハティの名を呼び、こちらに笑いかけるエレゼンの女性がいた。カーラインカフェのカウンターに立つエレゼン族の女性だ。ベハティはすぐに声の主にあたりをつけ、カウンターへ向き直り手を振ってみせる。ベンはベハティの視線の先を追い、ようやく彼女と女性が知り合いらしいことを察した。

「君の友人かい? 笑顔の素敵な人だね」
「ここで随分と世話になったんじゃよ。この間ぶりじゃなミューヌ、あれから変わりなかったか?」

 ベハティにミューヌと呼ばれた女性は、カーラインカフェの店主だった。グリダニア冒険者ギルドのマスターも務めているという。恐らく、グリダニアに到着したベハティに色々と融通したのも彼女なのだろう。店主の口ぶりから、ベハティが冒険者として確かな信頼を寄せられていることがわかる。

 ベンが黙って二人を見つめていると、ミューヌに声をかける人物がいた。神勇隊の隊長だというその男もベハティと顔馴染みらしく、グリダニアの冒険者ギルドへ依頼を出したのは彼だという。ベハティが依頼を受けてくれるのなら心強い、そう言うと神勇隊隊長、リュウィンは依頼の詳細を二人に語り始めた。

 最近、黒衣森にある「タムタラの墓所」という地下墓所に、カルト教団「最後の群民」の残党が出入りしているらしい。「最後の群民」は第七霊災で落ちた衛星「ダラガブ」を信仰していた教団であり、危険であるため二人に掃討を依頼したいという。

 依頼内容の確認が済むと、二人はカーラインカフェのテーブル席に腰を下ろし、リュウィンが話した内容をまとめながら昼食をとることにした。運ばれてきた二人分のラプトルシチューを受け取るベンの表情は、深刻な依頼を受けた後にしては柔らかい。ベハティが理由を尋ねると、彼は穏やかな声色で返事をした。

 「君がこのグリダニアで信頼を得ているのが嬉しいんだ。周りの人に受け入れられて、よかったと思うから」

 ベハティは俯いている。ラプトルシチューをすくう木匙が動きをとめた。

 「それはわしが国の代表に頼まれごとしたり、飛空船で他国に渡る許可までもらうほど名をあげたからじゃろ。それに、わしが前科者であることなんかここの者が知るはずないもん」

 「……ふうん。私はそうは思わんがね」

 ベンはベハティの口元を注視していた。もよもよと迷うように動きながら、いくつか言葉を飲み込んでいるように見える。ベンは気付かないフリを押し通すことにした。

 「お、ラプトルの肉だ。これは煮ても旨いんだな。いつも焼いて食べているから気付かなかった」

 彼女は話の主題が「自分の評価」、つまりは「自分が受け入れられるかどうか」になると途端に言葉を濁し、判断力もやや鈍る傾向にあるとベンは考えていた。彼にとっては、彼女の中にある「周囲の評価の高低で自分の受容が決定される」という前提からして歪んでいるように思えてならなかったが。

カーラインカフェ・ステンドグラス


 そもそも彼女が国の代表に認められるに至ったのは、何も彼女に強い力があるからではない。信用を得たからだ。無論、依頼をこなすには力が必要だ。冒険者として認められるための最重要事項のひとつではあるが、力だけで人からの信頼は得られないことを彼は重々承知していた。
 
 名を挙げようと冒険者ギルドにやってくる多くの冒険者が厭うような、いわゆる雑務に分類されるような仕事。それらを率先して引き受けたからこそ、より困難な依頼を任され、それを達成したからこそ彼女の功績が認められたのだろう。

 彼女は聡い。特に人の心の機微を掴むことにかけては一流である。この道理を理解していないはずがなかった。つまり、彼女の認知はある程度歪んでいる、とベンは考えていた。この結論に至っても、彼は彼女の言葉に応えることはなかった。既に出来上がってしまった認知の偏りは、他人から言葉だけで安直に励まされたとて上滑りするのが精々だと彼はよく知っていたからだ。

 彼女は、周囲から与えられる暖かな言葉や交流、そして受容というものは「貢献」と対価だと考えている。その考えは奇しくも彼自身の考えと酷似していたが、それは間違っている。彼女は子供だ。子供に与えられる愛情は、条件付きではあってはならないというのが彼の持論だった。

 君は誰に許されずとも生きていて良い。仮に今持っている力の全てを失っても、君を愛してくれる人はいる。そんな言葉をただ彼女にかけるだけなら簡単だろう。そうして彼女が「励まされたフリ」をして乾いた声で笑うのを聞いて満足することもできるだろう。

 それでは無意味だ。今まで彼女の周囲にいた人間が「原則」を作ったのなら、これから彼女の側にいる自分がそれを塗り替えていくしかない。

 (つくづく傲慢な男だよ、私は)

 ステンドグラスから差し込む森の光が目に眩しかった。これが誰に与えられたものでもなく、ただの自分のエゴだということくらい彼は百も二百も承知だった。自分以外の人間を、自分の望む姿に変えようとしている。傲慢なエゴ以外の何物でもないだろう。彼は少しだけ視線を落とすと、器に残ったラプトルシチューを一気に平らげて立ち上がった。

 「それでも多くの冒険者の中で、君が彼らに選ばれたのは事実だよ。誇っていいことだ。そうだろう?」

 言葉が上滑りすると知りながら、それでも彼はベハティに声をかけずにはいられなかった。何故かはわからない。理由などないのかもしれない。ただ、彼女が周囲に受け入れられ、それを彼女自身も喜べるような状況を、自分が望んでいることだけは確かなようだった。

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 こんにちは、ベンさんの背後霊です。更新間隔がガバッと開いたのはひとえに自分の遅筆とメインストーリーガツガツ進めてたからというのがあります。ゲーム本編が楽しすぎるよォ(悲鳴)

 読み返してみてちょっとびっくりしたのですが、今回の話、喋ってるだけですね。反省だこれは……。
 
 彼女の認知の歪み、これ重要です。これを抱えたまま生きているからこそ彼女はやってこられたのですが、抱えているが故にベンさんはモヤり続けます。ゆがんだまま、一見うまくいっているのが余計にもどかしいですね。

 あと気づかれないよう焦点をズラすことで誤魔化しておりますが、ベンさんの認知もちょっと歪んでます。まあ、認知の歪みがない人間はいないと思ってるので、そらそうよという話ですが。

 ベンさんは自分のエゴでベハティと一緒にいます。誰に命令されたわけでもなく、ただ、自分勝手に一緒にいるんです。

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