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駄目って言われても

 石鹸でゴシゴシ!
 どこかの美容関係の本に書いてあったが、
「お顔は石鹸でゴシゴシ洗ってはいけない。
 たくさんの泡を立てて、
 その泡で包み込むようにソフトに汚れを落と
 すのだそうだ。
 洗い流す時もゴシゴシではなく、
 パシャパシャってぬるま湯を当てるように。
 体も当然、同じように泡でソフトに洗って
 汚れを落とす。
 洗うと言うよりは擦るように…。」
 昭和生まれの真愛は、今でもゴシゴシ洗う。

 昔からそうだった。
 小さい頃銭湯に行くとみんなそうしていた。 
 お風呂の椅子に腰掛ける。
 洗面器に湯を溜めて、まず掛け湯をする。
 空になった洗面器にもう一度湯を溜めて、
 手拭いを濡らして、太ももあたりにそれを
 乗せ、せっせと固形石鹸を擦り付ける。
 泡も立っていない石鹸付き手拭いを
 腕に押し当てゴシゴシ!
 首から胸をゴシゴシ!
 石鹸がたりなく感じれば、もう一度石鹸を
 手拭いに塗りたくる。
 小さい頃はお兄ちゃんに洗ってもらっていたそうだが覚えていない。
 一人で洗えるようになると、手拭いを縦長にして右手が上で左手が下。
 背中に腕を回して襷にかけてゴシゴシ!
 反対も襷にかけてゴシゴシ!
 足もみんなゴシゴシ洗っていた。
 上手にゴシゴシやっていると近所のおばさんが褒めてくれた気がする。
「あら!小さいのに上手だよ。」
 そういうお風呂の入り方だった。
 教職員住宅に一人暮らしになった時は、外国映画のように、浴槽を泡だらけにして入りたいと思ったが、シャワーがないので泡から出た後どうするのか分からず、バケツに浴び湯を残して泡だらけにしようと思ったが、泡立たなかった。
(当時は、洗濯洗剤でも入れなくてはあんなに
 泡立たないと思っていた。
 泡風呂専用の入浴剤があると知ったのは
 厚洋さんに教えてもらって…。)

 半年後厚洋さんと結婚して、石鹸ゴシゴシは更に強くなった気がする。
 結婚したのは昭和50年。
 今のようにボディーソープなんていうものはなかった。真愛達が知らなかっただけかもしれないが、狭いお風呂に二人で入ってお湯が一気に流れ出し
「勿体無い!
 洗ってから入ろう。」
ってことになり、二人で洗いっこをして遊び回っちゃう。
 その時も、石鹸ゴシゴシで、思いっきり洗い合うから背中やお尻が赤くなる。
 とんでもなく、「お肌に駄目なこと」をしていたのだ。
 今、使っているのはプッシュ式の泡泡が出てくるボディーソープだが、当時は石鹸固形石鹸それも厚洋さんが好きだったのは花王の石鹸だった。
♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶
 彼は山ほどそれをタオルにゴシゴシと付けてゴシゴシと洗ってくれた。
 結婚する前は、同じ固形石鹸でもラックスとか香りのいい石鹸が好きだったが、新婚さんで、2人でお風呂に入るので、旦那様好みで
♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶 だった。

「背中を流す」「三助さん」なんてもう死語に近い言葉だろうが、本当にゴシゴシ赤くなるほど洗ってくれと頼まれた。
 若いから、まだ乾燥もそんなにしなかったんだと思う。
 ゴシゴシして耳の後ろも足の指の間も
《キュッキュッ!!》と音が出るほどゴシゴシ洗った。

固形石鹸

 この家に引っ越してからは、母とも一緒に住むようになったので、一緒にお風呂に入る事は少なくなった。
 なんだか恥ずかしかったのだ。
 息子も巣立ち母も逝って、2人に戻ってからは、一緒に入ることもあったが、既に生活時間が合わなかった。
 彼はどちらかと言うと朝風呂が好きで朝も入る。若い頃は夜伽がある時は二人とも寝る前にお風呂に入った。
 しかし、晩酌をする彼は帰ってすぐにお風呂に入り、晩酌をする。
 彼の晩酌の片付けをしてから、真愛がお風呂に入ってお褥に上がる頃には寝ていることもある。
 更に真愛が夜中まで仕事をするようになると彼が迫ってくるのは朝方。
 眠い中を起こされ…。
  彼のご要望にお応えしたら、真愛が先に朝風呂に入る。
 真愛がお風呂に入っている時に彼は朝食を作ってくれる。
 食事が終わったら、真愛が片付けをしている間に彼が朝風呂に入る。
 仕事が忙しいと一緒に入らなかった。
 真愛は、自分の体型が崩れてきたこともあって『一緒におふろに入ろう❣️』と誘えなかった。
 彼が退職てからは本当は一緒に入れるのに、彼が飲んでしまうので、真愛のお風呂の時間とは合わなくなったのだ。
 彼の朝風呂好きは変わらなかった。
 お酒を飲んでお風呂に入って倒れられるより良いと思っていた。
 彼が具合が悪くなり、お風呂に入るのも辛かった頃の事だ。
「お風呂に入りたいんだけど、
 一緒に入らない?」
って厚洋さんに言われた時は飛び上がるほど嬉しかった。
 その時も彼は
「手が回らないからさぁ。
 背中流して!
 ゴシゴシやって❣️」
と言われた。
♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶でだ。

 痩せてしまった彼の背中を流しながら、切なくなったのを覚えている。
 バッチリ湯船のお湯を音を立てて流して
二人で小さくなって入り、
「勿体無い!
 もっと浴槽をでっかくすれば良かったな。」
と笑った顔も思い出せる。
 彼が真愛の顔を洗ってくれたのも、
♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶でだった。
 それも、ゴシゴシだった。

 彼が逝ってしまってから、いや彼が亡くなる前から、自分1人で入るときには、薬用石鹸
「ロゼット」を身体にも使っていたが、ゴシゴシ洗いはやめなかった。
 彼が逝ってから彼の匂いがする♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶が好きになった。
 石鹸は悲しいほど良い匂いと思い出を蘇らせてくれた。
 当然、絹の垢擦り布がある。
 その布でゴシゴシやるのだ。
 やってはダメだとわかっていてもゴシゴシしてしまう。

♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶



 なんでこんな馬鹿なことを書いたのか。
 ジョイフル本田に行ってニュ浴剤のコーナーを見ると、下の方法に牛乳石鹸が置いてあった。
(まだ、使う人がいるんだと嬉しくなった。)
 その話をいつも行く教え子の美容師さんに話すと
「私もそうよ。
 お風呂に入ってあのボディーソープで
 泡泡泡だらけになって洗った後
 肌はしっとりと言うけれど
 なんかぬるっとしてて嫌なのね。
 だから耳の後ろまでキュキュって
 音がする位ゴシゴシしちゃう。
 ダメってわかっててもね。」
と言ってくれた。

 そうだ。
 人にはこれはダメだ。
 やらないほうがいいとわかっていてもやってしまうことが1つ2つあるんだ。
 真愛の場合は1つ2つじゃないような気がする。
 やらないほうがいい。
 炭水化物は少なめのほうがいい。
 ゆっくり噛んで食べるほうがいい。
 スマホは10時過ぎたら見ないがいい。
 朝早く起きて太陽の光を浴びるがいい。
 みんなやってない。
 いけないとわかっているがポテトチップを食べる。
 いけないダメだとわかっているのに30回も噛めなくってすぐ飲み込む。
 スマホは夜遅く見ないほうがいい。
 だめだとわかっているのに時計の針が揃って天辺を刺しても止められない。
 朝早く起きて太陽に当たればいい。
 ダメだとわかっているのにぐずぐずとお日様が高く上がってまぶしくなって仕方がなく起きる。

 ダメだとわかっていることがみんな楽なことなんだし、気持ちの良いことなんだ。
 だめなことを一生懸命堪えて我慢して正しくやろうとすると妙にストレスが溜まる。
 いっぱいストレス溜まったら肌をゴシゴシ洗わなくたって老けた婆さん顔になると思う。

 駄目だとわかって我慢してストレス溜めるか 
 駄目とわかっていても、やりたいことをやって、ストレスを溜めないで明るく楽しく生きていくか。

 こんなことを考えている真愛を見たらきっと厚洋さんは笑うだろうなぁ。
「何、考えてるんだ。
 体を洗いたいんだろ。
 洗えばいいじゃないかシワができたって
 気持ちよく風呂から上がってきたら
 それでいいじゃないか。
 言っただろ。
 俺、お前の髪の毛の臭い好きだったぞ。
 お前は俺の牛乳石鹸の匂いが好きだっただろ
 それでいいじゃないか。」

 最近赤い♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶が出ている。
 今回、ちょっと保湿が含まれる赤い♬牛乳石鹸、良い石鹸🎶を購入した。
 気分によっては、そっと撫でるようにハダカラの泡で汚れを落としている日もあるが、ずっとは続けられない。
 駄目だとわかっているのに、相変わらず絹の洗い布でゴシゴシ洗いを楽しんでしまう。
 わかっちゃいるけど止められない❣️

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります