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ねぇ。聞いて聞いて!

「ねえ。聞いて聞いて!
 美樹ちゃんがね。
 結婚記念日を祝ってくれたの。
 ホラッ。この髪型、結婚式の時の同じよ。
 ケーキも45の数字も、それにね。
 こっちがあなたのコサージュ。
 こっちが真愛のブーケ。
 あの日と同じマーガレットの生のお花よ。
 嬉しすぎて、ちゃんとお礼が言えなかったの
 真愛を守ってくれる分、
 美樹ちゃんに何かいい事起こしてあげて!」

 いつも通り厚洋さんの教え子さんがやっているヘアサロンに行った帰りのお墓参りだった。
 今、さだまさしさんの「さだ丼」の中に入っている「しあわせについて」と言う歌にハマっている。

しあわせですか しあわせですかあなた今
何よりそれが何より一番気がかり
みんなみんなしあわせになれたらいいのに
悲しみなんてすべてなくなればいいのに

どうぞあやまちは
二度とくり返さずに
あなたは必ず しあわせになってください
愛する人と めぐり逢えたら
抱きしめた腕を ゆるめてはいけない

風は移り気 身を任せてはいけないよ
時を越えて変わらないのが愛だよ
みんなみんなあなたが教えてくれた
生きる喜び人を愛する喜び

ありがとうさよなら
生まれ変われたならば
やっぱりあなたと 愛し合いたいと思う
ひたむきな人と 愛を信じて
生きがいを咲かせ しあわせになりたい

しあわせですか 
しあわせですかあなた今
何よりそれが何より
一番気がかり

 このフレーズは何度聞いても、厚洋さんが言ってくれているように聞こえるから不思議だ。
 そして、その答えに
「うん。とっても幸せ!心配しないで。」
と言える出来事があった。
 だから、厚洋さんに聞いてもらおうと思って、お墓参りに来たのだ。

 ことの始まりは、ずっとずっと昔。
 美樹ちゃんが厚洋さんの教え子であったこと。
 そして、美樹ちゃんに「こいつの髪なんとかしてやってくれ。宜しく!」と真愛を連れて頼みに行ってくれたこと。
 彼の話で盛り上がり、癒しの時間を貰い、
「ねっ。綺麗になったでしょ?
 撫でて、撫でて!」
と、厚洋さんにせがんでいたのも、美樹ちゃんのところから帰った日の恒例行事。
 厚洋さんが亡くなって、辛いことも、恥ずかしいことも、嬉しかったことも…、みんな美樹ちゃんに聞いてもらったこと。
 そして、「生きる力」ももらった。
 その後も、ずっとお世話になっている。
 厚洋さんが元気だった頃から、美樹ちゃんは「朝顔」を上手に咲かせて、お店の前を爽やかに彩っていた。
 台風の時も、コロナ禍も、家族の介護も…
沢山の辛い事があって二人で涙することもあるが、必ず「頑張らなくちゃ!」と前を向き、笑顔で綺麗な髪型にしてくれる。
 そんな美樹ちゃんも「朝顔」の種を頂いていた恩師が亡くなり、ちょっとだけお店の前が荒れかけた事があった。
 心配だったが、何も言わなかった。
 翌月に行って見ると、

 白のマーガレットが植えられていた。
 まだ、小さかったが
「この花ね。
 真愛のウエディングドレスの時の
 ブーケだったの。
 その頃じゃ、珍しい“生花”でね。
 懐かしいなぁ。」
と話した。
 それ以外にも、美樹ちゃんには色々と話している。(無理矢理聞いてもらっている。)
 3月19日のことだった。
 その後も何回か行っているが、行く度に花々は競うように咲き、コロナ禍で人が歩かなくなった通りを華やかに飾っていた。
 もちろん、厚洋さんが亡くなって、963日めの今日も、よく手入れがされた花畑のようだった。
 真愛が車から降りると直ぐに、
「あっ。それ。noteに載ってた服ね。」
と、褒めてくれた。
 最近では、note blogもよく読んでくれて、
「スキ」も沢山くれる。真愛の生活・思考はお見通しといっても過言では無い。
 真愛もお店に入ってすぐに気づいた。
「お店、素敵になった。」
とお店の改装について話した。
 美樹ちゃんの旦那様がDIYに凝っていて、沢山のものを安く作ってくれる話を聞いていたので、(旦那様がやってくれたんだ。)と思った。
 素人さんがやったとは思えない素晴らしいセンスだ。(内装業のお友達のお家訪問をした時の感動と同じ思いをした。)
 だから、今日は、旦那様の素敵な話と真愛と厚洋さんの面倒臭がり症候群の馬鹿話をした。
 いつもなら、仕上げにムースをつけてセットしてくれるのだが、今日はヘアアイロンでクルンクルンと巻いてくれている。
 そろそろパーマをかけたいと思っていたので、それを分かってやってくれているんだと思って取り止めもない話を続けていた。

 出来上がった鏡の中のヘアスタイルは、とても素敵で若い頃の厚洋さんが喜びそうなヘアスタイルだった。
 美樹ちゃんは、鏡を取り出しながら、
「どうでしょう。
 どっかで見たことはありませんか?」
と笑いながら言った。
 お店に来る途中に、ヘップバーンの写真があり、以前美樹ちゃんに“オードリー・ヘップバーンみたいになりたい”と無謀なことを言ったのを思い出したので、(オードリー?でも、違うな。真愛に良くあった髪型だなぁ。確かによく見ている感じはするけど?)と思った。

 美樹ちゃんは、笑いながら冷蔵庫から、ケーキの箱を出してきた。
 もうここで、真愛の涙腺は崩壊した。
 カサカサなおばあさんなのに、ドライアイだと言うのに、止まらない。
 結婚記念のケーキなのだ。
 そうだ。
 この髪型は、毎日のように見ている「厚洋さんと真愛の結婚式の写真」ウエディングドレスの真愛の髪型だった。
 厚洋さんが好きそうなわけだ。一番綺麗な時にしていた髪型だもの。
 美樹ちゃんは、更に冷蔵庫から取り出すと
「これは真愛さんの。
 そして、こっちは厚洋先生のコサージュ。」
と言いながら、マーガレットの花束をプレゼントしてくれたのだ。
 お店の前の大事なマーガレットの白い花を
100本以上も摘み取って作ってくれたのだ。
「ありがとう。
 嬉しい。
 御免なさい。」
を繰り返すことしかできなかった。
 もっと、もっと気の利いた言葉があっただろうに、言葉が足らないほど真愛の心はいっぱいの幸せで
「ハグしたい❣️」
と言って困らせ、肘タッチで終わった。
 真愛のnoteを読み、結婚記念日を知り、マーガレットを摘み、ケーキを用意し、髪型を45年前に戻してくれたのだ。
 人を幸せにしてくれる人のエネルギーって凄いと思う。
 真愛は、厚洋さんが元気だった頃の結婚記念日も毎年、「幸せ」を感じられた幸せ者だったと思う。
 しかし、彼が亡くなってからの結婚記念日でこんなに「幸せ」を感じられる人は、真愛しかいないのでは無いかと思う。
「結婚式の時の髪型」にしてもらえたおばあさんなんて、絶対に、何処にもいない。

 車に乗るとさださんの歌がリピートで流れてきた。
♪しあわせですか しあわせですかあなた今
 何よりそれが何より一番気がかり🎶
厚洋さんの「大丈夫か?幸せにしてるか?」の問いに
「大丈夫。
 あなたの教え子さんに
 たくさん幸せもらって来た。
 真愛は、本当に幸せ者。
 あなたのお嫁さんで良かった。」
と応えられた。

 お墓でも記念写真を撮りました。
 コサージュ置いて、ブーケを持って、ケーキに45の数字。風で髪は乱れたけど、
「幸せ」って言いました。
 あの日も言った気がします。


 家に帰っても、記念写真を撮りました。
 独りでも「幸せ」って言えました。

 「幸せ」がぎっしり詰まっています。

「幸せ」を味わいました。

 厚洋さんと巡り会わなければ、
 美樹ちゃんにも巡れ会えず、
 こんなに素晴らしい「結婚記念日」をプレゼントしてもらえる「幸せ」にも巡り会わなかったと思いました。

 この感謝の思いをどう伝えて良いのか?
 厚洋さんに相談したいのですが、
夢に出てきてくれるのでしょうか?

「俺の教え子は凄いだろう?いいやつだろう?
 いい加減な俺には
        もったいない教え子だな。」
とは、言いそうな気がします。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります