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Christmas Eve

 56年前のChristmas Eveも土曜日だったはずだ。貧しくってクリスマスプレゼントなんてもらえない小学生だった。
 肌は鮫肌で貧しいとなると、「いじめ」の対象になる。同級生の男子や先輩女子から虐められた。言葉の虐めも暴力的な虐めも…。
   一人で兄・私を育ててくれている母に愚痴を言う事は絶対にできなかった。
 そんな年のChristmas Eveの日に、「buttercreamの Christmas cake」を母が買ってくれたのだ。
 2段ではなく、まあるいホールケーキだった。
    Christmas treeとSanta clause house
 そして、chocolate plateには、
ー Merry Xmas ーと書かれていた。

 貧しい中での人並みのクリスマスケーキに狂喜乱舞の真愛であった。
 母が
「ごめんね。
 クリスマスプレゼントはないのよ。」
と悲しそうに言ったことも覚えている。
 その日は、兄とチビチビと食べた。
 翌日にも食べた。冷蔵庫なんて無かった。
 翌々日には、流石に母が、
「真愛ちゃん、全部食べちゃって!」
と言ってくれた。
 最後まで残しておいたウエハースで作られたサンタハウス。
(食べるのが勿体無いな。)と思っていると、母が大きなホークでグサリ!
「大きな怪獣出現!」
と言って、真愛の口の前に出してくれた。
 ガップリンチョ!
と食べながら大笑いをした事も覚えている。
 母が亡くなってから、年老いた母しか思い出さなかったが、貧しい中で明るく強く真愛たち兄妹を育ててくれた母を思い出した。
 貴重な食べ物だったからこその思い出である。
 生クリームで「本日中にお召し上がりください。」のChristmas cakeになってからは、そんな思い出はない。
 物が豊かになると、その物に対する思いも少なくなるのだろうか?

バタークリームのChristmas cake

 やっぱりChristmas Eveになると思い出すのが、厚洋さんへの初めてのChristmas cardだ。
 昔は学校の2学期終業式はだいたい24日だった。
 指導教官と実習生だった厚洋さんと真愛だった。
 2年目のボーナス支給日の夜に木更津のみまち通りでばったり出会って
「一緒に飲みに行かないか?」
と誘われた。(今思えば、ナンパである。)
 厚洋さんと一緒にいるのも真愛の大好きな先輩だったが、こちらも先輩と一緒なので断った。
「そうか。
 ところで、お前のうちに電話ある?」
「はい。あります。」
「今度、借りて良いかな?」
「はい。どうぞ!」
の会話の後、家に帰った。
 ただ先輩指導教官のご用事だと思って聞き流していたのだが、直ぐに公衆電話から連絡が入った。
「おい!
 お前の所にバターはあるか?」
「えっ?バター?」
「上手いフランスパンを買った。
 バターをつけると上手い!
 電話を貸してくれる?」
今考えると、厚洋さんは本当に恥ずかしがり屋で、真愛によく似た性格だったのだ。
 初めて電話を借りに行く家に「手土産のフランスパン」「上手いから持って行く」と言って会いに行く。
 真愛も殆ど同じだ。
 北海道の家族にも(声が聞きたいから、何かを贈る)贈れば、必ず電話が来る。
 友達にも(美味しい物を持って行く)必ず会って話ができる。
 ものと一緒に…。
 いや、会って貰ったお礼を持って会いに行くのだ。

4代目のChristmas tree

 クリスマスツリーの飾ってある南側の部屋で
フランスパンを食べた。
 彼はちゃっかりワインまで買って来て一人で飲んだ。
 しばしば飲んだ後、「電話を借りる」と言って北側のベッドの隣の電話で話し始めた。
 真愛は成績一覧表を広げて仕事をしながら聞き耳を立てた。
 何やら彼女のところに掛けたようだ。
 一方的に彼女の方が話している。
 長い長い電話だった。
 時々、厚洋さんが
「どういうつもりなんだ?」
「今までのことはなんだ?」
とキツイ言葉で問いただす声が聞こえた。
(なんだがまずい状況だなぁ。
 真愛のうちの電話で彼女との喧嘩別れ
 なんて…。嫌だなあ。)
「じゃぁ!勝手にしろ!」
 突然、驚くほどの怒りの声と共に電話は切られた。 
 静かであった。
 真愛は何もできず、ひたすら唱えた。
(集中!仕事・仕事!
 月曜日に、一覧表提出!)
 30分ぐらいが経っただろうか、あまりにも静かだったので様子を見に行くと、彼はちゃっかり真愛のベッドで寝ていた。
「もう、なんて人なの?」
と近づくと厚洋さんの目頭に涙が溜まっていた。彫の深い顔立ちなので涙がしっかり溜まっている。
 男の人の涙を初めて見た真愛はドギマギしてしまったが、母性本能なのだろうか、何とも自然に彼の涙を拭っていたのだ。
 厚洋さんの教え子たちは、言う。
「先生。そりゃやられたね。計画的だよ!
 ねんねだもんなぁ真愛先生。」
 別れ話をわざわざ借りた電話でするかよ?
 もう、寝たふり泣いたふり!やられたね。」
 まっ。その時の真愛にも好きな人がいたのだから、ドギマギしたが真愛の動きは母性だ。
 そのまま、彼を寝かせ真愛は炬燵で仕事を続け寝てしまった。
ー この後、厚洋さんの誠実なところを見せ
  られたことが、真愛が振られた時の逃げ場   
  として厚洋さんの部屋に行くことになる(いずれ書き残したいドラマみたいな真実)ー

 そして、そんな彼に「元気を出して!」とChristmas cardを送った。
 学校の正門を右に曲がるとすぐ近くにあった郵便局から、速達でChristmas cardを送った

 雪が降りそうな空だった。
「これから自分は、泊まりがけの忘年会に行く 
 その後すぐに青年部主催のスキー研修会に行
 くので会えないけれど「頑張れ!」の応援だ
 った。」
 🎶white Christmas🎶
 厚洋さんに送った初めての手紙だった。
 その後すぐに自分も付き合っていた男に振られるとも知らず、人のことを思いやった。 
 Christmas Eveの出来事だ。
 47年前の雪曇りの空の下の真っ赤なポストの場所を思い出す。
 厚洋さんが逝ってしまって、
折角のChristmas treeも誰もみてくれない。
 今年は、前の奥さんを呼んで、Christmas 会
をしたい。
 誰かのために「Christmas tree」を飾り、「Christmas cake」を作って楽しめることは本当に幸せなことだ。
 こんな思い出を思い出せることも幸せなことなのかもしれない。

小さなChristmas Eve Eve

 厚洋さんの教え子さんの子どもさんが作っているケーキを2人分用意をして…。
   二人分食べちゃいました。
  Eve Eveではなく、DebuDebu!

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります