会いに来る花
人が亡くなる前に会いに来る花。
毎年、赤・黄・ピンクと色鮮やかに咲いていたグラジオラスが、突然咲かなくなった。
一昨年、グラジオラスを大事にしていた母が逝った。母を送るように咲いたグラジオラスは、全て真っ白だった。
その年の藤の花は植えてから10年ぶりに咲いた。薄紫の花房は、皐月の風に手招きをする様に薫った。
母は、
「咲いてくれたのね。」
と言った。
「待っててくれてありがとう。」
どこかで小さな声がした。
夫が大好きだったホタルブクロが咲いた。
何年も、坂下から植え替えたが根を着けなかったのに。
具合が悪くなり、車の運転ができなくなった夫を最後に病院に連れて行った日に咲いた。
あの日、助手席で見たのだろうか?
群れなして咲いたホタルブクロの土手を。
「会いに来たよ。」
彼が亡くなった翌年、ホタルブクロは真っ白で咲いた。土手に群れなして咲き、梅雨の晴れ間に頷いた。
「泣くな!真愛。
側にいるから、泣くなよ。」
雨の滴を払うように
風がホタルブクロの顔を上げさせた。
彼が亡くなる年の夏。
棚がしなるほど葡萄が実をつけた。
火照る体を冷やすように、
甘酸っぱい香りが広がった。
混沌とする意識を鮮やかにして
葡萄の汁は喉を潤した。
咲かなかった花が咲いたら、
それは、色のある世界に別れを告げる者に
花が会いに来てくれたのです。
色がついていた花が「白い花」として咲いたら、あの人が会いに来てくれたのです。
白い花にそえて、
あなたへのメッセージを
携えて!
ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります