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春の雪

春の雪だった。
積もる事もなく、霙から少しだけ雪にかわり、
また、雪がひとひら、ふたひら…と。
満開の白木蓮の花びらの中に吸い込まれていった。
厚洋さんが結婚前に「なごり雪」を歌ってくれたのを思い出す。「今、春が来て、君は綺麗になったぁ。」のフレーズの後、真愛は、自分を指差し「ねっ!ねっ!」って同意をせがんだ。
厚洋さんは笑いながら、何度も何度もリフレーンしてくれた。
外出自粛から、もう2週間。
日本の首相も記者会見をして、鬼の首を取ったように話す。誰を信じて良いのか分からないのは、依然として変わらない。先が見えないのも同じだ。
そこで、真愛はお知り合いに「免疫力UP」のお弁当を作る事にした。

↑厚洋さんが作ってくれた「人参バターライス」だ。
2009年の新型インフルエンザが流行った時のことだった。夏なのにインフルエンザで「合唱コンクール」に参加させる事が問題となり、強行突破した真愛は、窮地に立たされた。
そんな時、「大丈夫だ。俺の飯食ってたら、感染なんかしない。お前が罹らなければ子供には感染らない」と言ってくれた。
指揮者・指導者の真愛が感染すれば、正面にいる子供達に感染る。だから、「まず、お前が元気でいろ!」って訳だ。
今考えても、先を見通せる厚洋さんだったのだなと思う。

人参をすり下ろし炊き込みご飯を作り、茹でグリンピースと人参の微塵切りをバターで炒めて炊き込みご飯を加えて炒める。
牡蠣フライを作り、蓮根をスライスしてオリーブオイルで炒め、牡蠣フライを入れソースで絡める。
アボガドのたらこ和え。フルーツヨーグルト。

毎朝、ご飯を作ってくれた厚洋さんは、常に「真愛の健康」を考えた献立を考えてくれていた。
毎晩の晩酌の献立は、真愛が「厚洋さんの健康」を考えて作っていた。
静かな春の雪が、白木蓮の中に吸い込まれるように、真愛は厚洋さんの思い出の中に吸い込まれて行く。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります