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日向ぼっこ

 今はもうないが、一対のお人形をもらった事がある。
 籐椅子に座ったお婆さんは、丸眼鏡をかけセーターを編んでいる。
 もう一脚の籐椅子には、丸眼鏡をかけパイプを燻らせながら、お婆さんを見ているお爺さんが膝を組んで座っている。
 2人とも真っ白なモヘアの銀髪だった。
 それを作って頂いたのは30年も前の事だ。
 当時30代だった真愛も厚洋さん。
 何も言わなかったが、晩年はこんな風に、真愛は、厚洋さんのセーターを編み、厚洋さんはその様子を見ている。
 ひだまりの中でゆっくりと時が流れる音を聞きたいと思った。
 
 確かに、彼が退職してからは真愛と一緒にいる時間が増え、真愛を見ていてくれる事が多かった。
 しかし、厚洋さんの日向ぼっこは、ニャンコと一緒だった。
 真愛は、「寒中の天地返し」と称して、畑を1メートルほど掘り、上の土と下の土を入れ替えていた。モグラのように畑をほじくり返していた。

 それをニャンコと一緒に、日向ぼっこをしながら、
「寒いのに良くやるねぇ。」
と見ていてくれたのだ。

 真愛も、理想のお婆さんのように厚洋さんの横で編み物をした事もあった。
 籐椅子に座って…。
 しかし、厚洋さんのセーターではなく、孫のベストを編んでいた。


「日向ぼっこには、縁側が欲しかったな。」
と後悔していた厚洋さんに

「夏は縁側でビール。
   秋は、縁側で月見酒
     春の花見も、冬の雪見も
     みーんな、縁側が似合うものね。」
とつっこみ、
「日向ぼっこの縁側より、
   縁側でお酒が飲みたいだけ!ね?」
と笑い合った。
 大寒の翌日。

 日向ぼっこは、気持ちいい。
 瞼を閉じると、
 隣に厚洋さんがいる。

 寒中のひとりの日向ぼっこは、あったかくて
                さみしい。 
 

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります