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子育てパニック 母という教師

 新聞記事に「母は最初の教師」という見出しを発見した。小学校教員であった真愛は、決して良い母では無かった。
 退職して、教育に携わらなくなってからの方が「良い教師」的な考え方が持てるし、少しは良い母親になった気がする。(いや、夫が亡くなって一人暮らしになり、息子夫婦には毎日のように心配してもらっているので、やっぱり良い母親では無い。)
 記事の小見出しは、こうだ。
「母は、子どもにとって最初の教師であり、生涯の教師でもある。」と。

 時は戦時下。
 夜の空襲を受け、逃げ延びた夜明けの空に、落下傘が見えた。
 落下傘は地上に近づき彼の頭上を通り過ぎて行った。その時、彼は落下傘の米兵の顔をしっかりと見たのだ。
若い。
 自分とさほど変わらない若い米兵の姿に驚いた。「鬼畜米兵」と言われていたが、「鬼」でも「畜生」でも無かった。色の白い青い目の少年のような若者だった。
 その若者は、落ちたところで、集まって来た人々に棒で散々に殴られた後、やっと来た憲兵に目隠しをされて連行されたという。
 
 真愛の母親も汽車に乗っていて空襲にあった時に「米兵の青い目を見た。」と話してくれた。
「平和な世の中だったら、青い目のお人形さん
 の国の人って思っただろうにね。」
 時が時だけに、「ただ怖い!」しか思わなか 
 ったのが悲しいね。戦争は絶対にしてはいけ
 ない。」

と、「青い目のお人形」と一緒の写真を思い出すように話してくれた。(母は、右端)
 そんな母に育ててもらった真愛は、反戦運動に参加したし、同じような考え方の人に嫁いだ。

 この話の彼も、家に帰り若い米兵の話を母親に伝えた。
 すると、母親は顔を曇らせ悲しい目をして
「可哀想に!
 怪我をしていなければいいけど。
 その人のお母さんはどんなに心配している事
 でしょうに…。」
 彼の母親の口から、真っ先に出てきたのは、若い米兵の身を案ずる言葉だったのだ。
 米英への憎悪を煽り立てられ、母親とても竹槍訓練をさせられた時代だったろうに、我が子の無事を願うのは勿論だろうが、米兵の母親に自分を重ね合わせる事ができたのだ。
 我が子を愛し、慈しむ母の心に敵も味方もない。それは「愛と平和」の原点である。
 彼は、気づかぬうちに、人間そのものに眼を向けて「平和」を考える視点を教えられていたのだ。
 その母親が声なく背中を震わせて、啜り泣いたのは、戦争が終わって暫く経った後だった。
 戦争が終わっているのに、南洋での戦死が届いた時だった。
 還ってくると思っていた愛しい子が…。

 大川悦生の「お母さんの木」のお話を思い出す。あの話は、日本中、世界中にあった話なのだ。
 悲嘆にくれる母の姿に、残酷な戦争への激しい怒りが込み上げると共に、
 子を思う母の愛の深さをまざまざと感じ、
彼は「兄の分まで母孝行しなくては」
と固くこころに誓ったのだ。

 母親は、ひとつとして「・・・しなさい。」
とは言っていない。
 ただ、ひたすらに「我が子を慈しみ育てた」だけなのだが、大切な学ばせるべき《生き方》をしていたのだ。
 
 若い米兵の話を聞いた時、
「やだね。うちの近くに落ちないでよかった。
 堕ちたら、しこたま殴ってやろう。
 あいつらは、人の肉も食うらしい。」
なんて言う母親だったら、彼のような人間は育たない。

「母は、最初の教師であり、生涯の師である」
 
 厚洋さんもよく言っていた。
「子は親の鏡。特に母親は子の鏡。」
「生まれて一番最初に聞く話し声や言葉は、
 母親のものなんだ。
 優しく穏やかな声で、美しい日本語を話した
 ら、そういう子が育つんだ。
「何だよ、うっせえなあ。」
 ってオッパイ飲ませたら、
「何だよ!うっせいなあ。」て言う子が育つ。
 
 美しい立ち居振る舞いをすれば、そのような
 子供が育つ。
 学校でもいるだろう?
 人に物を渡す時に投げてよこす奴。
 ありゃ。親がやってるからだよ。

 だから、心の有り様なんて、子供の頃に決ま
 っちゃう。
「三子の魂百まで」って、よく言ったもんだ」

 真愛は、自分の事を言われているようで、毎回の反省だった。
 子どもを叱るときの「口汚く罵る」嫌な自分を直したかった。

 寡黙だが、「父親の背中を見せ」子育てをした厚洋さんだった。
 だから、気付かぬうちに厚洋さんと似ている息子が育った。良い所も悪い所も…。
 最近気づいてきた事がある。
 「遊ぶ事が大好き」
 「趣味みたいな仕事を持ってる」
 それは厚洋さんにも真愛にも似ている事。
 いい事なんだか、悪い事なんだか⁈

 このnoteを書いている時に、嫁さんからLINEが届いた。
 明日の節分に向けて、子供たちと「鬼のお面」を作ったという動画だった。
 孫馬鹿丸出しのコメントだが、
〔その上手さ〕に驚いた。
 楽しそうにできたお面を被って遊んでいる孫の動画だ。
 優しい眼差しでその子を見つめる笑顔の母親が孫の正面にいるのだ。
 明日は息子が「鬼」役をやるのだろうか?
 コロナウィルスも経済不況もアレルギー症状もみーんな魔滅!する事ができそうだ。
 
 上手なお面が出来上がったのは、教えている嫁さんが上手なんだと思う。
 母は、師である。
 そして、季節毎の行事を大切にしてくれている「心の豊かさ」にも感心した。
 まさに
「母は、最初の教師であり、生涯の師である」
 真愛の孫は、幸せである。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります