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夜雨の紫陽花

 雨の夜の紫陽花が美しい。 
 夜の美しさを感じられるのは日本人ならではの感性であると聞いたことがある。
 夜桜・蛍狩・お月見・夜風・星月夜・雪月夜
 読者の方の中には、もっと素敵な夜の美しさを知っていらっしゃるのではないかと思う。  
 外国の方は、「月夜」=「オオカミ男」と感じるらしい。怖いので「夜が美しい」なんて思わないのだそうだ。(随分前の話なので、今は夜も元気に出歩いてるようだ。)

 さて、真愛が発見したのは、
  「夜雨(よさめ)の紫陽花」
           の美しさだ。 
 紫陽花は、紫の太陽の花と書くから、昼間だとばかり思っていたし、梅雨に咲くので雨の花と思っていた。
 確かに鉢植えの紫陽花は、すぐ水不足になり、枯れそうになるので、雨が降っている時の方が美しい。
 暑い昼間なんか、てろてろになって死にそうな紫陽花になる。
 見ている方も「熱中症」に罹りそうだ。
 昨夜、久しぶりに雨の降る中を帰って来た。
 玄関の感応式ライトに映し出された一瞬の映像に「静寂美」を感じた。

 厚洋さんにも見せたかった。
 紫陽花を玄関までのアプローチに置くようになったのは3年前。厚洋さんの具合がよくなく、彼は夜外で飲まなくなった。ましてや、雨の降る日には出なかった。
 だから「夜雨の紫陽花」は、見せられなかった。残念だ。
 これから、一人で生きていくと、こう言う思いを何度もするのだろうなあと思う。
「ねぇ。ねえ。見て、見て!素敵でしょう?」
誰もいない庭に向かって話しかける。

「ああ。静かだね。」
と、二人で静寂を楽しめたら、それで幸せだったと思う。
 夜桜も好きだった。
 人気の無い散り始めた花吹雪と揺れる花房。
 散る花びらを追いかける真愛を見ていた。

 蛍狩りも好きだった。
 真愛は、浴衣を着て団扇を持って。
「落ちるなよ。」って言いながら
やっぱり真愛を見ていてくれた。

 飲んで帰って来た冬の夜
「あれがオリオン。
 熊を射りに出て来るんだ。」
彼の指差す先に二人の息が白く凍てる。
「寒いね。」
って言って抱きつくのも嬉しかった。

 「夜雨の紫陽花」
きっと言うだろう。
「静かだね。」と。
きっと言えるだろう。
「愛してる。」と。

暗いからこそ 
    そこだけが見えるからこそ
    そこだけしか見えないからこそ

 ライトアップし続けていなかったから、
        発見できた事かもしれない。

 儚い一瞬の時の美しさだったのかもしれない。 

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります